第18話 文化祭 ~その3~
「…うらめしや~~」
文化祭当日、お化け役の花が段ボールの井戸の中から、ゆっくりと出ながら、来場者を驚かしていた。
「きゃ~怖~い~」
女子が明らかに作った悲鳴を上げて、隣の男子にくっついた。
男子は女子の頭に手をやり、優しく女子に語り掛けた。
「大丈夫だよ。
僕がいるじゃないか。」
「…素敵…」
そう言って、二人は花の前から去っていった。
(…テンプレ過ぎて、こっちが恥ずかしくなるわ!!)
花は二人のやり取りにイラついて、カツラを地面に叩きつけた。
「お疲れ~花~休憩だよ~」
受付係の加奈が花に休憩を告げに来た。
「ダメじゃん!ウィッグ取ったら~」
「…ごめん…ちょっとムカつくカップルがいて…」
花は長髪のカツラを拾って、付け直した。
加奈は何のことが分からなかった。
「私、ちょっとまだ受付あるから、あれなんだけど、次の休憩は時間合うから、一緒に回ろうよ。」
「うん。
それじゃあ、私が先に面白いとこ探しとくよ~」
「おぉ~頼んだ~」
そうして、花が教室から出ようとした時、加奈がニヤリとしながら、花に言った。
「…ちなみに、今、野口君も休憩だよ…」
花は一瞬、ピクッとしたが、無視して、教室を出た。
すると、野口が逆方向の扉から、ほぼ同時に教室から出てきた。
「よぉ。小谷も休憩か?
てか、長髪の小谷はなんか新鮮だな。
貞子役だっけ?」
「そ、そうだよ~
どう?怖い?」
花は若干、まだ気恥ずかしかったが、昨日よりかは平気になっていたので、ほとんどいつも通り、野口に話しかけることが出来ていた。
「怖いか怖くないかで聞かれたら、どっちでもないな~
ただ、長髪の小谷ってだけだわ。」
「なによ~昨日、夜なべして作ったのに~」
二人は自然と一緒に廊下を歩きだしたのだった。
「そういや、なんかカップル多くなったよね。急にさ。」
花はうんざりした様子だった。
「そうだな~まぁ、所謂、イベントマジックってやつじゃね?
イベントがある度に増えては気付いたら減っている…
なんか、そっちのがホラーっぽいよな。」
「あはは。確かに言えてる~」
「てか、お化け屋敷ばっかになっちゃったな~」
野口は周りを見渡しながら、言った。
「それは文化祭実行委員の野口が仕切らなきゃダメだったんじゃないの?
こんな被らせたらダメでしょ?」
「いや~皆ホントは喫茶店とかやりたかったらしいんだけど、飲食はハードル高いからな~
結局、無難なお化け屋敷が増えちゃったんだよな~」
「まぁ~皆、正直めんどくさかったんだろね~
私もそうだったし~」
「…それを言ったら、文化祭やる意味ねぇよ…」
そんな感じで、二人は楽しく話しながら、回っていた。
「試しにどっか入ってみるか?」
野口が何の気なしに花に提案した。
「そだね~敵情視察しとこうか~
なんだかんだ負けたくないしね~」
「ははは。ホントにお前は負けず嫌いだな~」
そして、花と野口はふと立ち寄ったお化け屋敷に入って行った。
中は真っ暗で、敷居が立てられていて、一本道のルートになっていた。
「ここら辺はうちのクラスとおんなじ感じだね。」
花は平気な顔でドンドン進んでいった。
そんな花を見て、野口は若干呆れて、花に言った。
「小谷って、ホントこういうの怖がらないよな。
暗い道でも平気で一人で帰ろうとするし。」
「まぁね~
私なんかこういう暗くて狭いの好きなんだよ~」
花は後ろにいる野口の方を向いて、笑って言った。
その瞬間、花の頬に何かヌメっとしたものが当たった。
「きゃっ!!」
花はびっくりして、思わず、野口にくっついた。
よく見ると、こんにゃくがぶら下がっていた。
花はハッとして、すぐに野口から離れた。
「く、くそ~こんなので驚くなんて…
不覚だよ~」
花は恥ずかしそうにしながら、顔を赤らめて言った。
「ははは。
小谷も女の子らしい声出すんだな~」
野口は声を出して、笑った。
花はムッとして、ぶら下がっていたこんにゃくを野口に投げつけた。
(…なんであんたはそんな平気そうなんだよ…)
その後は赤くなった顔を見られないよう、花は野口の前を注意して歩くようにした。
結局、ニンジン、ピーマン、玉ねぎと言った野菜が入場者に対してぶつけられる罰ゲームのようなお化け屋敷だった。
「…完全にネタに走ってたね…」
花は呆れた様子で呟いた。
「…これを通した奴は一体どういうつもりだったんだ…」
野口も頭を抱えていた。
花がそんな野口の顔を見つめた。
「ん?どうした?」
野口は不思議そうな顔をした。
「…別に…」
あんなくっついたのに平気そうな野口を見て、ちょっとがっかりした花だった。
しかし、よく見ると野口の耳が赤くなっていた。
それを見て花は少し笑って、野口に言った。
「次いこ、次!」
「…そう言えば、サッカー部はなんかしないの?」
二人で回っている最中、花は野口に聞いた。
野口はため息をついて、花に答えた。
「…やるっちゃやる…
…後夜祭でな…
…毎年、1年の義務でなんか出し物しないといけないんだよ…」
「マジで!?面白そ~」
花は嬉しそうに野口に言った。
それとは正反対の顔で野口は花に言った。
「…いや…できるなら見ないでほしいんだけど…
…ただの罰ゲームだからな…」
「何やるの?」
「…劇…てか、もはやコントだな…
…今年、1年が3人しかいなくて、その一人がお笑い好きでさ…
…なんかすげぇやる気になってんだよ…
…それで、俺もちゃんとしないとって、結構練習したんだけど…
…マジでハズいんだよ…」
「…野口って、ホント真面目というか、お人好しというか…
まぁとにかく、滅茶苦茶面白そうじゃん。
野口には悪いけど、絶対見に行くわ。」
「…はぁ…やだなぁ…」
野口は今まで見たことが無いくらい嫌そうにしていた。
そんな野口を見て、花は楽しくて仕方がなかった。
そんなこんなで文化祭は進み、最後の後夜祭の時間となった。
後夜祭は体育館の舞台でバンドやダンス、芸等、我こそはと目立ちたい参加者を募って、行われるものだった。
花は加奈と一緒にそんな後夜祭を見ていた。
花はパンフレットを見て、サッカー部の出し物を確認した。
「「タニーニョとアッキーナ」って…
全くどういう劇か想像できない…」
「何なんだろね?
なんとなく、谷君と野口君が主役ってことは分かるね。」
加奈も花の持っているパンフレットを見ながら、言った。
そして、いよいよ「タニーニョとアッキーナ」が始まった。
幕が上がり、真っ暗な中、ナレーションが話し始めた。
「…これはブラジル代表選手、タニーニョとアルゼンチン代表の父を持つアッキーナとの禁断の恋の物語である…」
すると、舞台のライトが点いて、跳び箱の上で立っているドレス姿の野口と、その下でひざまずいている王子様のような格好の谷が見えた。
その瞬間、谷に対する女子達のキャーという黄色い声援と野口のドレス姿に対する男子たちの笑い声が響いた。
野口は観客席を見ないよう恥ずかしそうにしながらも、大きな声で話し始めた。
「あぁ~~タニーニョ!!
どうして、あなたはタニーニョなの?」
そこでようやく、皆は「ロミオとジュリエット」のパロディだと理解した。
タニーニョ(谷)は冷静な顔でアッキーナ(野口)に言った。
「画数とかがすごい良いらしくて、タニーニョと名づけられました。」
「いや!そんなこと聞いてるんじゃないわよ!
違うでしょ!?」
「だって、あなたがタニーニョの理由を聞いてきたから…」
「もういいから!!
ここはお前も俺と同じように聞くとこだから!!」
タニーニョ(谷)はなるほどと分かったような顔をして、アッキーナ(野口)に言った。
「おぉ~~アッキーナ!!
どうして、あなたは跳び箱の上にいるのですか?」
「だから、違うって!!
これは…あの…セットの都合上のやつで…
空気を読みなさいよ!!」
「えぇ~~だって、変じゃないっすか~~
跳び箱の上にいる人と話したくないっすよ~」
「あぁ~!!もういいわ!!
降りるわ!!」
そう言って、アッキーナ(野口)は跳び箱から降りて、コホンとタニーニョ(谷)に言った。
「あぁ~~愛するタニーニョ~~
私をどこか遠くへ連れて行って~~」
すると、舞台に王様のような恰好をしたもう一人のサッカー部員、菅健太(すが けんた)がやってきた。
「待て待てぇ~~い!!
許さぬぞ!!
宿敵であるブラジル代表選手との結婚なぞ、私は認めぬぞ!!」
「お父様!!
どうかお許しください!!
私はタニーニョを愛しているのです!!」
「うるさい!!
どうしてもと言うなら、タニーニョ!!
アルゼンチンでも随一のDFであるこの私を抜いてみよ!!」
「なんだって!!」
タニーニョ(谷)は身構えた。
「私の娘、アッキーナと結ばれたいのであれば、このクレスポを抜いてみよと言っておるのだ!!」
「クレスポ!?
DFなのにクレスポ!?」
「どうした?娘よ。
父の名を忘れたのか?」
「いや、お父様、クレスポて!!
絶妙に古いし、分からない人多いわよ!!」
「ええい!!うるさい!!
勝負だ!!タニーニョ!!」
王様は持っていたボールをタニーニョ(谷)に投げつけた。
タニーニョ(谷)はフッと笑って、言った。
「…分かりました。
愛するアッキーナのため、このタニーニョ、あなたを抜いてみせます!!」
そう言って、タニーニョ(谷)は王様へと突っ込んでいった。
そして、簡単なまたぎフェイントで王様をあっさりと抜いた。
王様はがっくりとひざまずいた。
「…これほどまでとは…
…いいだろう…タニーニョ…
…お前になら、娘を任せ…」
「待って!!お父様!!」
アッキーナ(野口)がタニーニョ(谷)の前に立ち、食い気味に言った。
「私もアルゼンチン人の端くれ…
私を抜けないような男とは結婚しないわ!!」
「む、娘よ!!
なら、私のが完全に茶番になってしまうんだが!!」
アッキーナ(野口)は王様を無視して、タニーニョ(谷)を見つめた。
「ねぇ?聞いてる?」
タニーニョ(谷)も王様を無視して、またも不敵な笑みを浮かべて、アッキーナ(野口)に言った。
「いいでしょう。
私はあなたをドリブルで抜いて、あなたのハートも射抜いてみせます!!」
「上手いこと言うじゃない!」
「そして、最終的にはあなたに私の剣…いや、こん棒を抜いてもらう!!」
「ド下ネタじゃない!!」
「いざ!!」
そして、タニーニョ(谷)は先程と同じようにまたぎフェイントでアッキーナ(野口)を抜いた。
アッキーナ(野口)はひざまずいて、タニーニョ(谷)に言った。
「…完敗だわ…
…流石、私の愛する人ね…
…これで、心置きなくあなたと結婚できるわ!!」
アッキーナ(野口)は立ち上がって、タニーニョ(谷)の前に立った。
タニーニョ(谷)はアッキーナ(野口)の肩を抱いて、言った。
「でも、アッキーナって画数が良くないので、ちょっと結婚はやめときます。」
「画数はもういいわ!!
ども、ありがとうございました~~」
そうして、幕が下りるのであった。
花と加奈は笑いが止まらなかった。
「あははは~アホだ~あいつら~」
会場も皆、笑っていた。
「お疲れ!アッキーナ!」
花は舞台の袖でTシャツに着替えて、座っていた野口に声を掛けた。
「…マジで…ハズかった…
…もう二度とやらん…」
野口はぐったりしていた。
「あはは。
でも、ちゃんと面白かったよ~
てか、あんなきちんとやるあたり、ホント野口って真面目だよね。」
「だって、浩介と健太がマジなんだもん…
あいつら目立ちたがり屋だからさ~
付き合わされる俺はたまったもんじゃないよ…」
野口の拗ねた顔をした。
花は文化祭を通して、いつもと違う野口の顔を色々見れたのが、少し嬉しかった。
そして、野口の隣で後夜祭を見ながら、小さな声で呟いた。
「…野口の風船なら、膨らませてもいいかな…」
「ん?なんか言った?」
花はニコッと笑って、野口に言った。
「なんでもないよ!」
続く
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