第17話 文化祭 ~その2~


「あっ、やっと帰ってきた。

 遅いよ~」


 委員会が終わって、お化け屋敷の準備を続けていた加奈がゴミ出しから戻ってきた花に声を掛けた。


「ごめん。

 ちょっと、ゴミこぼしちゃって、それで手間取っちゃった。」


 花は準備していた言い訳を加奈に誤魔化し気味に笑って言った。

 加奈は花の顔をん~と怪しむような目で見つめた。


「…なんか、顔赤くない?」

「え?あぁ~遅くなったから、ダッシュで戻ってきたんだよ~

 それで赤くなっちゃったのかな~」

「ん~~?その割には全然、息が切れてないけど…」


 加奈は花の全身を見回して、更に怪しんだ。


「もう!何でもないって!!

 早く準備進めよ!!」


 花はもうこれ以上余計な嘘をつくのは得策ではないと判断し、無理やり準備に取り掛かった。


 加奈は慌てている様子の花を見て、不思議そうな顔をしながらも、しょうがないと花の隣で準備を進めることにした。


 すると、野口が花の背後から、声を掛けた。


「よぉ。今日、どうする?

 練習する?」


 花はドキッとしたものの平静を装って、野口の方を見ないようにして答えた。


「え、え~と、今日は自分の衣装作るので一杯一杯だから、やめとこっかな?」

「そうだよな~

 流石に今日は忙しいよな~

 OK。了解。」


 野口は特に気にする様子もなく、納得して花とは別の作業に戻った。


(…どうしよう…野口の顔がまともに見れない…)


 花は俯き気味に顔を赤らめながら、作業を進めた。


 加奈はその様子を見て、ニヤリとするのだった。




 作業は放課後遅く迄続き、帰宅する頃には日が落ちていた。


 そんな中、花と加奈はいつも通り、一緒に帰っていた。


「…で、野口君となんかあったの?」


 早速、加奈は花に聞いた。

 花は目を泳がせながら、加奈に片言で答えた。


「べ、ベツニナニモナイデスヨ!」

「あはは。ロボットみたいになってるから。

 分かりやすすぎるでしょ~」


 加奈は思わず、吹き出した。


 花は加奈にはもう隠せないと、ぼそぼそと呟き始めた。


「えぇ~とね…そのね…なんていうか…」


 加奈はずっとブツブツ言ってる花が面白くて、ニヤついていた。

 そんな加奈の様子を見て、花は少しイラッとして、言った。


「もう!!ニヤニヤしやがって!!

 実は全部知ってるんじゃないの!?」

「びっくりした!急に大きい声出さないでよ~

 私は何も知らないよ?」


 加奈は急に怒り出した花に驚いた。

 花はむぅと加奈の顔を見つめた。


「ホントに~?

 加奈は何でも知ってるような顔するから、嫌なんだよ…」

「ホントに知らないって~

 まぁ、何かがあって、急に野口君を意識するようになったんだなってことは分かるけど。」


 加奈に物の見事に言い当てられて、花はギクッとした。


「ははは~やっぱりそうなんだ~

 やっぱり、花は分かりやすいわ~

 でも、その何かはホントに分からないから、教えてよ~」


 加奈は笑いながら、花にお願いした。


 花は完全に諦めて、ため息をついた。


「…分かったよ…

 …その代わり、ちゃんと真面目に聞いてよ…

 …今度、ニヤついたら、絶対に話さないから…」

「分かったって。

 ちゃんと聞くから。」


 そうして、花は今日偶然、聞いてしまった野口と女子とのやり取りを加奈に話すのだった。




「…なるほど。

 そう言えば、全く似たようなことを今日、野口君から聞いたよ。

 野口君って真面目だよね。」


 加奈は花の話を聞いて、納得した様子だった。

 花は加奈の何気ない一言が引っかかった。


「…ちょっと待って。

 どういう流れで同じようなことを野口から聞けたの?」


 加奈はしまったと手を口に当てて、花に言った。


「…え、え~と、野口君に花のことどう思ってるかって聞いたら、そんな感じのこと言ってくれた…」

「私の居ない間になんてこと聞いてんのよ!!」

「ご、ごめんって~

 私も冗談のつもりで聞いたんだけど、ちゃんと答えてくれてびっくりしたんだから~

 ホント、野口君ってまっすぐでいい人だと思ったよ~」


 加奈は笑いながら、花に謝った。


 花はハァとため息をついて、加奈は一体どんな誘導尋問をしたんだと若干、野口を憐れんだ。


 加奈は一番気になっていることを花に聞いた。


「…で、花はそれを聞いてどう思ったの?」


 花はムスっとしながらも、加奈はちゃんと話を聞いてくれる奴だと信頼はしていたので、正直な気持ちを話し始めた。


「…私も野口と一緒だよ。

 野口のことが好きかどうかは分かんないし、でも、一緒にいて楽しいし…いい奴だし…」


 花は俯いて、恥ずかしそうな顔をした。


「…野口が私のこと何とも思ってないって言った時、なんかすごい嫌だったんだよね…

 …でも、その後、好きかもしれないって言われたら…

 …なんか…胸の中がごちゃごちゃして、なんも分かんなくなったんだよね…」


 花は顔を上げて、加奈に聞いた。


「…ねぇ、加奈…

 …これって恋だと思う?」


 加奈は難しい顔で考えながら、花に答えた。


「どうだろね~

 極端な話、今、花は野口君に告白したいと思う?」

「…かなり極端だね。それは。

 今はまだ、今の関係を壊したくないから、告白したいとは全く思ってないよ。」


 花の言葉を聞き、ニコッと笑って、加奈は言った。


「それが全てじゃないかな?

 私も経験が無いから、何とも言えないけど、多分、好きだって気持ちが大きくなって、何も関係なく好きって伝えたくなったら、それが恋なんじゃない?」


 加奈はふと思いついた。


「そうだ!

 きっと、恋って風船みたいなもんなんだよ!」

「風船?」


 花は訳が分からないといった顔をした。

 加奈は笑いながら、話を続けた。


「そう。風船。

 その人とやり取りをしてる内に好きって気持ちが膨らんでいって、それが一杯になると割れて爆発するんだよ。

 その瞬間、どうなってもいいやってなって、相手に伝えたくなるんだよ。

 逆にいつまでたっても割れずにくすぶってたら、風船はしぼんじゃって、爆発することは無いんだよ。

 風船が割れることが恋なんだよ。きっと。」


 加奈は良いことを言ったと、胸を張っていた。


 花は分かったような分からないような顔をしていた。


「じゃあ、結局、まだ、私は恋してないってこと?」

「そういうことになるね~

 でも、風船っていつ割れるか分からないからね。

 花の風船も割れる準備が整ってるくらいには膨れ上がってるんじゃない?」


 花は加奈の話を聞いて、ニコッと笑った。


「…よし!!分かった!!

 とりあえず、私はまだ野口に恋はしてないってことで、いつも通り接するよ!!

 私の風船が割れるまで、気長に待つとするよ!!」


 花は吹っ切れた様子だった。


 最後に加奈がニヤリと笑って、花に言った。


「私が針で刺して、無理やり割っちゃうかもしれないけどね~」


 花は呆れて、加奈に言った。


「…そん時は私があんたの顔面に針を刺しに行くわ。」


 続く

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