第16話 文化祭 ~その1~
「…で、右足アウトでダイレクトで合わせたんだよ~
気持ちよかった~」
9月末頃、文化祭の出し物、お化け屋敷の準備をしながら、花は野口に自慢げに話していた。
「だから、その話はもういいって。
何回聞かされてると思ってるんだよ…
手を動かせ!手を!」
野口は花のデビュー戦の話をもう何十回と聞かされて、うんざりしていた。
花はにやけ顔が止まらなかった。
「手も動かしてるって~
加奈にも話してるんだけど、すんごい興味なさそうな顔するからさ~
ついつい野口に話しちゃうんだよね~」
「あはは~だって、サッカーの話になると花、止まらないんだもん。
最初に嫌そうな顔すれば、流石に空気よんでくれるからね。」
一緒に作業していた加奈が笑いながら、言った。
野口は加奈の話を聞いて、悔しそうにしながら呟いた。
「…くそ…俺もサッカーの話嫌いじゃないから、まともに聞いたのが間違いだったか…」
「…そんなに?
まぁ、ちょっとは注意するわ。」
花は流石に言い過ぎかと反省するのであった。
「アッキー。ごめん!
こっち手伝って~」
「はいよ~」
野口がクラスの女子に助けを求められて、そっちの方に向かった。
花は若干、アッキー呼ばわりされてる野口が気にくわなかったが、自分の作業を進めた。
花の様子を見た加奈はニヤニヤして、花に言った。
「…野口君。結構、女子に人気あるんだよ。
優しいし、話しやすいし。
結構、顔もカッコいいしね。」
「…だから、別にそんなんじゃないってば…
加奈もそういう話、何十回としてるよ!!
そっちもちょっとは気を付けてよ!」
花は少し怒って、加奈に注意した。
「はは。私もちょっと言い過ぎかな?
注意するよ。」
加奈に反省している様子はなかった。
花はむぅとした顔をしながら、作業を続けるのであった。
「てか、谷君!!
携帯ばっかいじってないで、少しは手伝ってよ~」
花は教室の隅で座って携帯をいじっている谷に言った。
谷は無表情で花に答えた。
「いや、なんか皆、俺の代わりにやってくれてるから、何やったらいいか分かんねぇんだけど…」
谷は女子に特に人気があったため、何もしなくていいと、ちやほやされていたのだった。
そんな谷を周りの男子は嫉妬のまなざしで見つめていた。
花は呆れて、谷に言った。
「じゃあ、こっち手伝って。
なんか見てて、腹立つから。」
「そこまで言われるか…
しょうがないな。」
そう言って、谷は携帯をポケットにしまい、立ち上がって、花と加奈の手伝いをし始めた。
「谷君って、ホント人気あるよね。
こうやって一緒に作業してるだけで、周りの女子の視線が冷たいの感じるもん。」
加奈は笑いながら、特に気にする様子もなく話した。
「まぁな。
それなりにカッコいいとは自負している。」
「…あんたって、絶対、野口以外、男友達いないでしょ?」
花はもう呆れて、あんた呼ばわりになっていた。
谷は笑って、花に答えた。
「はは。そんなことねぇよ。
別に俺がモテてるからって、ひがんでくる奴とは友達になる気ないし。
意外にそういう奴って、あんまりいねぇよ?」
「そうかな~
その割には男子たちの熱い目線を感じるんだけど…」
花はそう言って、ちらりと周りを見渡した。
谷はニヤッとして、花に言った。
「それは小谷の人気だろ?
小谷だって、結構男子から人気あるぞ。
伊藤もだけど。」
「ホント~?
そんなでもないでしょ~」
花は満更でもない顔をしていた。
加奈はバカを見るような目で、花に言った。
「あんたも谷君と似たようなもんだよ~」
そうして、作業を進めていると、加奈が思い出したように言った。
「あっ、そうだ。
クラス委員の仕事あるんだった。
ちょっと行ってくる。」
「あぁ~そっか~文化祭のしきりとかあるもんね~
てか、それじゃあ、野口も行かないといけないんじゃないの?
あいつ、文化祭実行委員になってたじゃん。」
「うん。そうだね。
野口君~委員会行くよ~」
「おぉ~了解~」
そう言って、加奈と野口は教室を出て行った。
花と谷は残って、作業を進めるのであった。
加奈は野口と打ち合わせの教室に向かう途中、この際だからと探りを入れてみた。
「…野口君って、花のこと、どう思ってるの?」
野口はいきなりの質問に戸惑った。
「ま、また、急だな?
なんでそんなことを俺に聞く?」
加奈は野口の様子がおかしくて、笑いながら言った。
「だって、二人きりの公園練習をもうずっとしてるじゃん?
普通なら、付き合っててもおかしくないんじゃないかな~と思って。」
「…お前はぶっちゃけすぎだろ…
別にそんなのはないよ。」
野口は加奈のストレートな表現に呆れた様子で答えた。
加奈は納得してない様子で更に問い詰めた。
「好きか嫌いかで言うと、どっち?」
野口は頭を抱えて、加奈に答えた。
「お前なぁ~~
それは極端すぎるだろ~~
どっちに答えても、ダメージがでかすぎるわ…」
「じゃあ、嫌いの可能性もあるんだ…
花、かわいそう…」
加奈は明らかに作った泣き顔で、野口に言った。
野口はため息をついて、加奈にはっきりと言った。
「嫌いじゃねぇよ。それだけは言える。
…ただ、好きかどうかは正直、分からん。
誰かを好きになったことが今までないからな。」
加奈は意外にもきちんと答えてくれたことに少し驚いた。
そして、笑って野口の肩を軽く叩いた。
「そっか~
まぁ、ちゃんと花のこと考えてくれてるようで良かったよ。
いい加減な人には花はやれないからね~」
「…お前は小谷の何なんだ…」
そうやって、加奈が野口を一方的にいじりながら、二人は教室に向かったのだった。
「あ~~ボール蹴りたい!!」
花は作業を続ける中、自分の願望が言葉に出るほど、疲れていた。
「…まぁ、気持ちは分かる…」
谷もあまりに終わらない作業にうんざりしていた。
花はふと気になって、谷に質問した。
「そう言えば、谷って、どうやって野口と仲良くなったの?」
「ん?どうしてまた?」
「なんか話しながらじゃないと、つまんないじゃん。
だから、とりあえず、野口との馴れ初めでも聞いとこうかなって。」
「馴れ初めって…
まぁ、いいか。確かに黙々とやるにはしんどいしな。」
谷は納得して、花に話し始めた。
「俺って何やっても上手くできる方だったから、なんかあんまり楽しいことってなかったんだよ。
うぬぼれとかではなく、マジでやらなくても大概のことはできたから。
で、昭義とは幼稚園から同じで家も近所で、結構遊んだりはしてたんだけど、小3の時に昭義にサッカーを勧められたんだよ。
まぁ、物は試しにと入ってみたら、これまた上手いこと出来ちゃうんだよね。俺って。
簡単にドリブルで抜けるし、シュートも入るしで、正直、つまんなかったんだよな。」
花は谷の話を聞きながら、ムッとして、横入りした。
「…その自慢話、まだ聞かないとダメ?」
「待て待て。続きがあるから。
この後、そうは上手くいかなくなるから。」
「…ホントかな?」
花は半信半疑で谷の話を聞くことにした。
「それでだ。
初めての練習が終わった時にはつまんなかったから、入るのはいいかなって思ったんだけど、昭義が1対1を申し込んできたんだよ。
しょうがないと昭義と勝負したんだけど、物の見事にボールを取られたんだよ。
あいつ、練習の時は俺と同じチームでやってたから、気づかなかったけど、幼稚園の頃からサッカーやってたから、俺より上手かったんだよ。」
谷は思い出して、悔しそうにしていた。
「そんで、ボール取られて、呆然として、昭義の顔見るとさ。
マジで憎たらしい顔で笑ってるんだよ!
それが、マジで悔しくってさ~
それから、何回も1対1を俺から申し込むようになった訳。」
花は谷の話を聞いて、初めて野口とフットサルした時のことを思い出した。
「…その顔分かるわ…
私もされたもん。
ホント腹立つよね!あの顔!」
「だろ!?
そんで、何がムカつくって、あいつ自身、笑ってると思ってないとこなんだよ~
ただ、楽しかっただけだってさ~」
「そうそう~
あのからかってるような悪意のない笑顔ってホント、ムカつくよね~」
花と谷は気持ちを完全に共有していた。
谷はコホンと一旦落ち着いて、話を続けた。
「まぁでも、あいつのおかげでマジになれるもんが見つかったってのがあって、仲良くなった感じだな。
ちなみに今でも練習後に1対1やってるけど、俺の方が勝てるようになってるけどな。」
「…最後のいらなくない?」
花は谷の補足に思わず、突っ込んだ。
二人はその後も、野口のことを話しながら、作業を続けるのであった。
「ふぅ~一旦、ゴミ捨てに行ってくるわ~」
花は作業が一段落したので、ゴミをまとめながら、自ら申し出た。
「ホントは嫌だけど、俺が行こうか?」
谷は本音を隠さず、念のため、花に聞いた。
「…いや、いいわ。私が行くよ。
これ以上、女子達の冷たい視線を浴びせられたくないしね。」
花は呆れた様子でそう言って、教室を出た。
学校の裏手にあるゴミ入れに向かうと、何やら女子の声が聞こえてきた。
「あ、アッキー!
もしよかったら、文化祭、一緒に回ってくれない?」
そこには野口と違うクラスの女子が二人きりで話していた。
(こ、これは…!)
花は咄嗟に隠れて、息をひそめた。
「いや~え~と、ごめん…
俺、実行委員とかで忙しいから、あんまり回れないんだよ~」
野口は誤魔化し気味に答えた。
「ちょ、ちょっとくらい時間はあるでしょ?
少しでいいから…」
女子は負けずにくらいついた。
「…ごめん…」
野口は素直に謝った。
しばらく、沈黙が続いた後、女子が野口に聞いた。
「…ひょっとして、小谷さんと回る約束してるの?
というか、小谷さんと付き合ってるの?」
花はドキッとした。
「い、いや!小谷とは別に何でもないよ!!」
野口は慌てて、答えた。
花はどうしてかズキっと胸が痛んだ。
「ホント?
でも、アッキーって最近、小谷さんとばっかり話してるじゃん。
アッキーは小谷さんのことが好きなの?」
またもや沈黙が続いた。
花は心臓の音が他の人に聞こえるのではないかと思うくらいドキドキさせながら、息をひそめていた。
すると、野口が口を開いた。
「…好き…かもしれない…
正直、こういうの初めてで分かんないんだ…
確かに小谷といると楽しいし、一生懸命な小谷を見るのも嫌いじゃない…
でも、これが恋かどうかは分からない…」
野口の正直な言葉を聞いた女子は納得した様子で、野口に言った。
「…分かった。
うん。ありがと。話してくれて。
じゃあ、またね。」
そう言って、女子は教室へと走っていった。
花はこっちに来た女子に見つからまいと身を隠した。
野口はしばらく、ぼ~とした後、教室へと歩いて行った。
花は再び、身を隠した。
そうして、ようやく花はゴミ入れにゴミを捨てることができた。
しかし、花の胸のドキドキはいつまでも止まらず、中々教室に戻ることが出来なかった。
続く
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