恋とサッカーと

第13話 野口の本気

 

「いてて…やっぱり、まだ筋肉痛が取れてないや…」


 夏休みの終わり頃、花はいつも通り、野口と公園練習をしながら、痛そうにしていた。


「はは。練習相当厳しいらしいな~

 これで俺の気持ちも分かってくれるだろ。

 部活とこの練習の掛け持ちは中々しんどかったんだよ。

 今はもう慣れたけど。」


 野口は笑って、花にパスを出しながら、言った。

 花も笑って、野口にパスを返した。


「はは~まぁ良く付き合ってくれてたなとは思ったよ~

 でも、しんどいけど、練習は楽しいよ~

 今までやったことのない練習ばっかで新鮮だし。」

「そうなんだ。

 監督が元女子日本代表の人だっけ?

 俺も教えてもらいたいもんだわ。」

「ダメだよ!!

 これ以上、野口が上手くなったら、それこそ抜けなくなっちゃうんじゃん!!」

「…中々、情けないこと言うな。お前。」


 そうして、二人はパス交換をしてアップした後、いつも通りの1対1を始めるのだった。




「いや~何だかんだこの練習も長いことやってるよね~」


 休憩中、ベンチに座って、花は野口に楽しそうにしながら、言った。


「確かに…おかげでスタミナがかなりついた気がするよ。

 多分、チームで一番走れんじゃないかな?俺。」

「そうでしょ~やっててよかったでしょ~」

「ほとんど無理やりだったけどな…」


 野口は呆れながら、花の隣に座った。


「そういや、もうすぐ選手権の予選始まるじゃん。

 野口は試合には出れそうなの?」

「あぁ。今んとこ出れそうだな。

 浩介なんかはほとんどチームのエースになってるよ。」

「へぇ~1年生なのにすごいじゃん!

 谷君ってそんなに上手いんだ?」

「あいつは天才タイプだからな~

 昔っから上手かったよ。

 だから、浩介との1対1は目茶目茶面白いんだよな~

 練習後にいっつも付き合ってもらってるからな。

 この練習みたいな感じで。」


 野口は楽しそうに話していた。

 そんな野口の様子を見て、よっぽど仲がいいんだろうなと思った。


「そうだったんだ。

 でも、なんかクールな谷君がそんな練習に付き合ってくれてるのは意外だわ。」

「まぁ、小谷と一緒で半ば強引に俺が誘ってるってのがあるけどな。」

「じゃあ、野口も人のこと言えないじゃん!!」

「ははは。まぁな。」


 二人とも楽しそうに話していた。

 しばらく、他愛もない話をした後、花は言った。


「…試合見に行くよ。

 その日、丁度、練習無いしね。

 野口の試合見るのは初めてでちょっと楽しみだわ。」

「別にいいけど、野次だけは飛ばすなよ?

 恥ずかしいから。」

「そんなんしないよ!!

 何言ってんの!!」

「…お前、この前、言ってたろうが…」


 野口はもう忘れたのかと呆れていた。




 こうして二人で話す時間は花にとっても、野口にとっても、とても楽しい時間となっていた。

 お互い遠慮のない関係となって、特に意識せず、サッカーのことばかりを話していた。


 二人の距離は確実に近づいていたのだった。




 そして、試合当日。


 花は加奈と香澄と一緒に野口の試合を見に来ていた。


「予想はしてたけど、男子ばっかりだね~」


 加奈は日傘をさして、辺りを見渡していた。


「…ちょ、ちょっと怖いです…」


 香澄は怯えた様子で花にピトッと寄り添っていた。


「まぁまぁ、試合を見に来ただけなんだから、なんもされないって~

 ゆっくりベンチに座って見とこうよ~」


 花は香澄の頭を撫でながら、試合が見渡せる位置にあったベンチに座った。


「おぉ~男ばっかだと思ってたけど、女の子を発見したよ~

 ほら、花見て~」


 そう言って、加奈はニヤリと笑いながら、その方向を指さした。


「どれ~?」


 花が加奈の指の先を見ると、野口が女子マネージャーと話していた。


 花はピクッと反応しながらも、平気そうな顔で加奈に言った。


「ホントだ~うちのサッカー部のマネージャーじゃん~

 大変そうだね~」


 加奈はその様子が面白くて、笑った。


「あはは~いい加減、そろそろ自覚したらどうなのよ~」

「何がよ?」


 花はムッとして、加奈に言った。

 加奈は意地悪そうな笑顔で花を見た。


「え~~それ、私に言わせる~?」

「だから、そんなんじゃないってば!!

 もう、試合に集中しなさい!!」

「は~い~」


 香澄は何のことやらとずっと花にくっついていた。




 そして、いよいよ試合が始まった。


「声出してこ~~!!!!」


 野口が誰よりも大きな声で皆を鼓舞していた。


「気合入ってるな~」


 加奈は大きな声にびっくりしていた。

 花と香澄はサッカーやってればこんなもんだろと、あまり驚いていなかった。


 試合は両チーム、互角の展開で一回戦ながら、白熱した戦いとなっていた。


 谷は攻撃的MF(ミッドフィルダー)で高いテクニックを見せつけていたが、最後のところで引っかかっていた。

 野口はCB(センターバック)で、声を掛けながら、DFラインの統率をして、堅実な守りに徹していた。


 花はコサルでしか野口のプレーを見たことが無かったので、あんな風に全体を見ながらのプレーもできるのかと感心していた。


 気付くと花は野口の方ばかりを見ていた。



 すると、前半終了間際、谷の細かなドリブルによる単独突破から、フリーになった前線へとスルーパスを出して、ボールをもらったFWが確実にゴールを破った。


「やった~~~!!」


 花、加奈、香澄は思わず、声を上げて喜んだ。


「谷君、滅茶苦茶上手かったね~今の~」

「うん!!また、いい時間帯に点が取れたね!!」

「あの人が多分、両チームの中で一番上手いですね。」


 3人はもう試合に熱中していた。




 試合は後半になり、相手チームは一点返そうと、より攻撃的な布陣となっていた。


 しかし、野口の掛け声により、冷静にDFラインは変更された布陣に対応していた。


「あっくんもさすがだね。

 良く全体が見えてるよ。」

「あいつ、こんなに色々できるとは…

 というか、私を相手にしてる時はあんなにぶつかってこなかったのに…

 やっぱり手を抜いてたのか…」


 花は何故かムカついていた。

 香澄は野口を擁護するように言った。


「い、いや、花姉さんとやってる時も手を抜いてないと思うよ。

 フットサルは基本的に接触プレー禁止だから、そのルールでやってるんだけなんじゃないかな?」

「む~~それにしても、腹が立つ…

 今度、言ってやろ。」

「あはは。こうなったら、花は聞かないよ~

 香澄ちゃん。」


 加奈は香澄に説得を諦めるように言った。




 試合はそのまま終了し、1対0で野口のチームが勝利した。



「…どうする!?

 野口君と谷君に声かけてく!?」


 加奈はまだ少し興奮気味に花に聞いた。

 花は試合後のミーティングをしている野口を見て、笑って返事した。


「…いや。今日はいいよ。

 片付けとか試合の反省会とかもあるだろうしね。」

「そっか。そうだね~」


 加奈は納得した様子だった。

 加奈はついでに香澄に聞いた。


「私は久しぶりにサッカーの試合見れて楽しかったんだけど、香澄ちゃんは今日の試合どうだった?

 サッカーしてる人からして、見てて楽しかった?」


 香澄はう~んと考えながら、答えた。


「そうですね~

 両チームとも単調な攻撃が多くて、正直、あんまりでしたかね~

 私ならこうしたのにっていうのがあって、なんかもどかしかったです。」

「あはは。思ったより、辛らつだな~

 このくらい強気じゃないとやってけないんだろうな~」


 加奈は香澄のことが段々と分かってきて、面白かった。

 加奈はニヤリと笑って、花にも聞いた。


「花はどうだった?今日の試合?

 野口君カッコよくなかった?」


 花はボ~としながら、答えた。


「まぁ正直、カッコよくは見えたかな。」


 加奈は予想外の答えに驚き戸惑った。

 そんな加奈を見て、笑って花は言った。


「でも、私にもちゃんとぶつかってこいって、言いたいのが一番だね!!」


 加奈の答えに何故か安心して、加奈は言った。


「良かった…いつもの花だわ…」


 続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る