第11話 女子会 ~その2~

 

「いただきま~す!」


 花、加奈、香澄の3人は花の家で花の母、春子が作ったハンバーグを食べていた。


「いや~女の子が3人もいると、なんだか華やかだね~」


 春子はニコニコしながら、3人を見た。


「おばさんのハンバーグ、大好きなんだよね~

 うちのお母さんよりもうまいもん。」

「加奈ちゃんはハンバーグの時、いっつもそう言ってくれるわよね。

 嬉しいわ~」


 加奈は慣れている様子で春子と会話をしていた。


「おじさんは今日は残業?」

「あぁ~あの人は今日は出張で帰ってこないの。

 そんなことより、お母さんは元気?」

「変わらず元気ですよ~

 そういや最近おばさんと会ってないって言ってたよ~」

「そうなのよ~

 小学校の時は加奈ちゃんと花の試合を一緒に見に行ってたりしてたから、良くおしゃべりしてたんだけど、中学校に入るとね~

 微妙に家まで距離あるから、中々会えないのよね~」


 春子は残念そうに話していた。


「あ、あの…

 カナリンも小学校の時、サッカーしてたんですか?」


 香澄が気になって、加奈に聞いた。


「うん。そうだよ~

 小学校でやめちゃったけどね~」

「加奈は上手くて試合にも出てたのに、中学校になるとあっさりやめたんだよ~

 ホント根性なしだよ~」

「こらこら。あんたなんか、加奈ちゃんよりひどい辞め方してるのに何言ってるのよ。

 それに加奈ちゃんは勉強に集中したいって言って、やめたんじゃない。

 あんたよりよっぽどマシよ。」

「ぐっ…それを言われると何も言えない…」

「ははは~そういうのを「墓穴を掘る」っていうんだよ。花。」

「う、うるさいな~」


 そんなやり取りを見て、思わず香澄もクスクスと笑った。




 夕食後、ハルの部屋に戻った3人は別々にお風呂に入ったり、加奈は家にパジャマを取りに帰ったり、それぞれ身支度を済ませて、まったりとしていた。


「いや~おばさんのハンバーグはホントおいしいわ~」

「は、はい!私もすごくおいしかったです!!」

「そう?それは良かった。」


 花は香澄がすっかり慣れたようだったので、安心していた。

 香澄はスンスンと花に借りたパジャマの臭いを嗅ぎながら、言った。


「そ、それに花姉さんのパジャマを着られるなんて…

 あ、ありがとうございます!」

「それはいいんだけど、あんまり臭い嗅がないでね…」


 花は色々と諦めていた。


 そんな中、加奈がニヤリと笑いながら、花に聞いた。


「…で、なんか話したいことがあるんじゃないの?花。」


 花はギクッとして、頭を掻いた。


「…やっぱり、分かる?」

「花が家に泊まってけっていう時は大抵、話したいことがある時だもん。

 幼馴染をなめてもらっちゃあ困るよ。」


 加奈は無駄に偉そうにした。

 花はコホンと香澄に向かって、話し始めた。


「香澄ちゃんにはちゃんとサッカーをやめた理由を話しておこうかなと思って。

 チームに誘ってくれてる人に対しての礼儀というか、なんというか…

 だから、聞いてくれる?」

「は、はい!是非!!」


 香澄は急に真面目な顔になった花を見て、うっとりしていた。

 花は香澄の様子を見て、呆れながらも、話を続けた。


「私ね、中学校のチームメイトに「私と一緒にサッカーするのがつまらない」って言われちゃったんだ。

 中学3年の頃にキャプテンになったんだけど、それで妙に張り切っちゃってね。

 私って思ったことなんでも言っちゃう方だからさ。

 確かに今思えば、ちょっと言い過ぎかもってことは多々あったように思うよ。

 多分、それを良く思わない人が少なからず、いたんだなと思う…

 それで、私がサッカーすると楽しくなくなる人が出てきちゃうんだなって思って、サッカーをやめたんだよ。

 …とりあえず、簡単に説明するとこんな感じ。」


 花は香澄に自分の思いを話した。


 花の話を聞いた香澄はわなわなと肩を震わせて、小さな声で言った。


「…誰ですか?そんなことを言ったのは…」

「へっ?」


 すると、香澄はすごい勢いで話し始めた。


「誰ですか!?そんなこと言ったのは!!

 今から、私が言ってやりますよ!!

 花姉さんとサッカー出来ることがどれだけ幸せかを懇切丁寧に説明してやりますよ!!

 あなたのせいでこんなに花姉さんが苦しんでるんだぞって、言ってやりますよ!!」

「ちょ、ちょっと待って!香澄ちゃん!!

 落ち着いて!!

 私も悪いんだって!!」


 花は香澄をなだめるように言った。

 香澄も一旦、落ち着いて、我に帰った。


「ご、ごめんなさい…つい…」

「香澄ちゃんはホント、オン・オフがはっきりしてるよね~」


 加奈は香澄のギャップが面白くて、笑っていた。

 花も笑って、そんなに自分のことを言ってくれるのが嬉しくて、香澄を抱きしめた。


「ありがとね…そんな風に言ってくれるのはすごい嬉しい…」

「は、花姉さん…」


 花は香澄から離れて、真面目な顔で言った。


「それでね。野口に言われたんだ。

 本気でやってるチームに入れば、そういうことを言われることは無いって。

 皆が皆、勝ちたいって目的のために頑張ってるチームなら大丈夫だって。

 私もそう思って、そういうチームを探そうと思ったんだよ。

 だから、今日、香澄ちゃんのチームの話を聞いた時、すごく興味が沸いたの。

 ちょっと参加してみたいなって。」

「ほ、ホントですか!?

 私のチームなら、大丈夫ですよ!!

 喧嘩は多いけど、そんなこと言う人いませんから!!」

「け、喧嘩は多いのか…」


 花は香澄の言葉に若干たじろいだ。

 加奈はふと思って、香澄に聞いた。


「香澄ちゃんもサッカー上手くて、ずっと試合出てるんだよね?

 花みたいに陰口とか言われなかったの?」

「私ですか?

 そうですね~言われる時はありましたよ。

 でも、私の場合、逆にそれが嬉しかったんです。」

「うそ?陰口言われるのが、嬉しかったの?」


 加奈は不思議に思って、香澄に聞いた。

 香澄は嫌な笑顔で話した。


「私って、普段暗くて、あんまり注目されることが無いんです。

 でも、サッカーしてる時だけは私を見てくれる人がいて、悪口言われるってことはそれだけ私を見てくれてるって思って、嬉しいんです。

 だから、むしろ見られてるって思って、ゾクゾクってしますね。」


 香澄はかなりの性癖を平然と話した。


「そ、そうなんだ。

 それはいいことだね…」


 流石の加奈も愛想笑いしかできなかった。

 花も引いていたが、話を戻すように香澄に言った。


「香澄ちゃんのチームって体験参加みたいなのってできる?

 というかセレクションみたいなのある?」

「もちろん、お試しで参加は可能ですよ。

 今日言った通り、人数がギリギリですからセレクションもなくて、来る者拒まずです。

 来てくれるんですか!?」

「そうだね。このまま何もしないでいるのはダメだと思うし、一度参加させてもらうよ。」

「や、やった!!

 分かりました!!私の方から言っておきますよ!!」

「うん!よろしく!!」


 加奈は花の決心した顔を見て、うんうんと唸っていた。




「香澄ちゃん、今日初めてだから、ベッドで寝ていいよ~

 私と加奈は床に布団しいて寝るから。」


 寝ることにした3人は寝る場所の話をしていた。


「い、いや。悪いですよ!

 ベッドはカナリンが使ってください。」

「私?また、どして?」

「だって…」


 香澄はモジモジして、恥ずかしそうにしていた。

 花と加奈はその様子を不思議そうに見ていた。

 香澄は小さな声で言った。


「…花姉さんの隣で寝たいっていうか…」


 加奈はそういうことかとベッドに飛び乗った。


「じゃあ、ベッド頂き~」


 花はまぁいいかと床に布団を敷き始めた。


「別にいいけど、あんまりベタベタするのはやめてよ~

 暑いし~」

「は、はい!クールな花姉さんもカッコいい…」


 花はもういいやと諦めて、敷いた布団の上にゴロンと横になった。




 部屋の電気を消して、しばらくして、香澄の寝息が聞こえてきた頃、加奈が小声で花に話しかけた。


「花、起きてる?」

「…起きてるよ。どうかした?」


 花は加奈の声にすぐに反応して、加奈の方に体を向けた。


「香澄ちゃんて、ちょっと変だけど、花に似て、面白くていい子だね。」

「…そうだね。まだ知り合ってちょっとしか経ってないけど、友達になれて、ホント良かったって思ってるよ。」


 花は笑って、答えた。

 加奈はベッドの上で天井を見ながら、呟いた。


「…私も香澄ちゃんみたいにはっきり言えたら、花のこと助けることができたのかな?」


 花は加奈の言葉を聞いて、フッと笑って答えた。


「何言ってんの。らしくない。

 加奈には助けられっぱなしだよ。」


 加奈は花の方は見ずに真面目な顔で小さな声で話し始めた。


「…私さ。ずっと後悔してることがあるんだ。」

「後悔?」

「うん。

 もし、私が中学校もハルと一緒にサッカーしてたら、ハルはサッカーやめることは無かったんじゃないかってさ。」

「そんなことは…」

「いや、これは自分で考えてるだけだから、花は気にしないでいいよ。

 でもね。多分、サッカー続けてても変わらなかった気がする。

 私は周りの意見に流されやすい人間だからね。」

「まぁ、そういうとこはあるよね。」

「そこはフォローしてよ。」


 加奈は花の方を向いた。

 そして、加奈と花は見つめ合って、フフと笑った。


 加奈は笑いながらも少し真剣な表情で話を続けた。


「…それにね。私がサッカーやめた理由って、実は勉強じゃないんだ。」

「マジで?そうなの?」

「うん。

 私、あのままサッカー続けてたら、花のこと嫌いになっちゃうんじゃないかって思っちゃったんだ。」


 花は加奈の言葉を聞いて、黙った。


「花はさ、ホントサッカー上手くてさ。

 もう私じゃ敵わないって思った時があってさ。

 その時、なんだろ?

 多分、妬ましいって気持ちってこういうことなのかなって思ったんだ。

 そしたらさ~そんなこと思ってる自分が嫌でさ。

 大好きな花のことが嫌いになるのだけは嫌でさ。

 それで、サッカーやめたんだよ。」


 加奈は最後に笑って、花に言った。


「情けないよね?

 もうちょっと頑張れば良かったかな?」


 花も笑って、加奈に答えた。


「そうだよ~もうちょっとやっててよ~

 私はどんなことがあっても、加奈のことが大好きなんだからさ~

 あんたに嫌われても、私は加奈のこと、絶対好きでいるんだから、覚悟しとけよ~」

「なんだよ~それ~」


 加奈は呆れながらも笑っていた。


「…香澄ちゃんのチーム…いいところだといいね…」


「…うん…」


 そう言って、二人は眠りについた。


 続く

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