第3話 対決
「じゃあ、こっちから4番号で4チームに分けます。
1から順に言ってって下さい。」
「1。」
「2。」
円に並んでいる人達が当然のように順に自分の番号を確認していった。
「3。」
「4。」
「1。」
「…」
花の番が来たのだが、隣の野口を見て、呆然としていた。
「どした?
お前、2な。
じゃあ、3。」
野口が黙っている花の代わりに番号を言ってあげた。
その後は滞りなく、チーム分けがされた。
花は未だに固まっていた。
「「1」青、「2」赤、「3」緑、「4」黄色のビブスで。
始めは「1」と「2」で試合します。
キーパーの順番はビブスの番号の若い順でお願いします。
女の子はキーパー免除で。」
野口は中央に置いてある緑のビブスと「2」チームの赤のビブスを拾った。
「ほれ。ビブス。
お前、「2」だから、最初だぞ。
分かってる?」
野口はぼ~としている花に赤色のビブスを渡した。
花は野口の言葉に我に戻って、あたふたしながら、野口に答えた。
「あ、あぁ。分かったよ。
ありがと。」
その後、野口はカバンを背負ったままコートの外に出て、長椅子に座り、準備を始めた。
(あれ?案外、本人はそんなに気にしてなかったりする?)
花はその様子を見て、少し安心して、顔をパンパンと叩き、試合に集中することにした。
そして、花にとって久しぶりのフットサルが始まった。
「嬢ちゃん!よろしくな!」
花はスキンヘッドの男、てっちゃんと一緒のチームだった。
「はい。よろしくです。」
花は少しでも知っている人が同じチームでちょっと嬉しかった。
始めの試合だったこともあり、両チームゆっくり動きながら、ゆっくりボールを回していた。
取ったり、取られたり、そんなに激しいプレーは無く、ゆったりとしていた。
そんな中、花もボールをゆっくり回しながら、思った。
(このパスする感覚、懐かしいわ~)
花にとって、久方ぶりのトラップ、パス、ドリブル、その一つ一つがたまらなく懐かしく、楽しかった。
そして、カウンター気味に花はボールをもらって、一対一の形になった。
花はそんなにプレッシャーもなかったので、またぎフェイントで相手を難なく抜いて、インサイドの優しめのシュートでサイドネットを揺らした。
「ナイッシュー!!
嬢ちゃん、やっぱうめぇな~」
「どもです。」
花は少し恥ずかしそうにしながら、てっちゃんとハイタッチをした。
その後も花は積極的にボールに触り、試合を堪能した。
ピーーー
「終了で~す。
次は「3」と「4」、お願いしま~す。」
試合はそのまま1対0で終わり、花はコートの外に出た。
「ふ~~疲れた~~」
花は長椅子に座り、持ってきていたスポーツドリンクを一口飲んだ。
そして、「3」と「4」の試合をぼ~と見ながら、思った。
(やっぱり、ボール蹴るのって楽しいわ。)
(でも、女の子相手にはかなり手を抜いてくる感じだな…
まぁ、接触プレーとかは避けたいんだろうけど…
ちょい物足りないかな…)
花はそう思いながらも、なんて偉そうなんだと、フッと笑った。
(…てか、野口ともやるんだよね…やりづれぇ…)
花は野口のプレーを見て、そう言えばと嫌な顔をしながら、思い出した。
そんな感じでコサルは進行していき、ハルはボチボチと試合を楽しんだ。
ピ~~~
「終了~
次、「2」と「3」、お願いしま~す。」
いよいよ野口のチームとの対決が始まった。
(まぁ、女の子相手にそんなにこないでしょ…)
そう思いながら、花はコートセンター付近でボールをもらい、ファーストタッチで軽く前を向くと、トラップの瞬間を狙っていた野口に華麗にボールを取られてしまった。
「げっ!」
野口はゴール前にいた味方とワンツーし、あっさりとゴールを決めた。
(くそっ!!
いきなり決められちゃったじゃん!!)
「すみません…」
花はいきなりボールを取られたことをチームメイトに謝った。
「ドンマイ。ドンマイ。
あいつ容赦ないから、気を付けた方がいいよ。」
「アッキー、手加減しろよ~」
チームメイトの優しい言葉が花にとってはかなり悔しかった。
花はチラっと野口の方を見た。
すると、野口が見下すような笑顔でこちらを見ていたのだ。
(こ、こいつ…!!
ひょっとして、今日のこと根に持って…!!)
花はボォッと燃えるような怒りの表情で野口を睨み返した。
(…絶対に抜いてやる…!!)
「嬢ちゃん!気にすんな!
次だ!次!!
って、すげぇ顔だな。」
てっちゃんが花の肩を叩いて励ましたが、どうやら必要無いようだった。
…が、そうは上手くいくものではなかった。
その後も花は積極的に野口に向かって行ったが、ことごとくボールを奪われてしまったのだった。
そして、その度に野口はあの憎たらしい笑顔になった。
その笑顔に花のイライラは頂点に達していた。
結局、花は野口を一度も抜くことができずにコサルは終わってしまった。
「…入会します…!!」
コサル終了後、花は受付にすごい剣幕で3000円を突き出した。
「は、はい。ありがとうございます。
じゃあ、会員カード作りますね。」
受付の人は花の気迫に怯えつつ、手続きを済ませた。
(…絶対にあいつは負かす…!!
…絶対に…あいつだけは…!!)
今日のプラス分は1000円迄減ったが、花に後悔はなかった。
その日から花は打倒・野口に燃えるのであった。
「…マジ、あいつだけは絶対倒す!!」
翌日の昼休み、コンビニで買ったプロテインを飲みながら、加奈に言った。
「あはは。昨日とはうってかわって、やる気に満ち溢れてるね~
これだから、花は楽しいわ~
けど、よくよく考えたら、どちらかというと悪いのって花だよね?」
加奈は笑いながら、花に現実を突きつけた。
「い、いや。私も確かに悪かったけどさ!
あんな顔する奴に絶対謝りたくないんだよね…」
「よっぽどだね~
てか、花のことだから、サッカーで負けたのが悔しくて謝りたくないだけじゃないの?」
「ぐっ…」
花は加奈に核心を突かれて、何も言い返せなかった。
「ははは。何はともあれ昨日の花よりかはいいと思うよ。
今の花は。
見ていて楽しい。」
「なんだよ。それ。」
花は加奈は本当に人の嫌がっているところを見るのが好きなんだなと呆れた。
「じゃあ、コサル?だっけ。
今日も行くの?」
「いや、コサルやってるのが水・金だけなんだよね。
だから、明日また行くつもり。」
「へぇ~なんか対策とかあるの?」
「とりあえず、今は実践感覚を取り戻す!!
全盛期迄戻せば、あいつなんか一捻りだよ!!」
「一捻りって。
また女子高生が使わないような言葉使っちゃって。
ホント面白いわ。」
加奈は本当に楽しそうだった。
そんな話をしていると、野口が教室に入ってきた。
「よぉ…?」
野口は花に声をかけようと思ったが、すごい表情で睨んでくるので、くるりと引き返した。
「お前、何かやったの?」
同じサッカー部で小学校からの付き合いである友人の谷浩介(たに こうすけ)が野口に聞いた。
「い、いや、昨日一緒にコサルしただけなんだけど…
全く、心当たりがない。」
「へぇ~小谷もサッカーやってんだ?
上手いの?」
谷は意外に思って、野口に聞いた。
「女子にしては相当上手いよ。
マジでやんないとボール取れないからな。」
「…お前、ひょっとして、女子相手にマジで取りに言ってんの?」
「そうだけど?
上手いし、別にいいじゃん。」
「そういうとこだよ…
お前に彼女ができないのは…」
谷は頭を抱えて呆れたのだった。
野口はなんのことやらと言った様子だった。
花は家に帰るとすぐに運動着に着替えて、家の前にある公園にボールを持って向かった。
そして、携帯の動画サイトでドリブル練習の動画を見ながら、一人で個人練習をするのであった。
本人は野口に対する怒りに近い悔しさから練習をしているつもりであるが、花の表情は笑っていた。
花にとって、ボールに触れるのはどんな事でも楽しいことだったのだ。
その練習は暗くなるまで続くのだった。
続く
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