最高の目覚めでございますか?・・・彼女は生きて帰れるか

龍鳥

終りにして始まり



 これは、地獄から来た日曜日の死者からへの出来事である。




「わわっ、来たぁ!!ステイサムの抱きまくらだぁー」


「俺はお前の抱き枕じゃない。用があるなら電話で済ませ」



 その声は、数々の男を猫の足元までに跪かせる。少し剥げてきた黒髪を虚しく掻く高校一年生のステイサム(別名:太郎)は、ベッドに腰を下ろした幼馴染の首を絞めて優しい視線を向けていた。



「お、おえっ!!苦しいって!!マユは女の子なんだぞ!!」


「女だからでも、男を危ない領域へと導かせる。図太い神経をする殺し屋を思い出すな」


「マユは図太くないしっ!! それに、ステイサムは幼馴染なんだから、マユにもっと優しく……」


「お前は俺を舐めているのか?わざわざ俺のティータイムを狙う時間に俺を呼び出すのは、殺し屋かマフィアしかいない」


「あー。でもマユ知ってるもん。そう言いながらマユの言う事を聞いて……ごめんなさい!!ごめんなさい!!これ以上、首を絞めないで!?」



 太郎の言ってることを信じられないマユは、更に駄々をこねる。その肌を今すぐ赤く染めてやりたいところだが、鬱陶しい茶髪を揺らしながら、太郎の髪と比較していく。観念したのかマユの首を放してやるが、マユは太郎のベットの上から離れようとしない。



「おいなんだよこれ。俺の携帯に知らないアドレスが210件も来ているぞ」


「マユは連絡してません。この真面目な顔を見てよ」


「嘘をつくな」


「だってステイサムはさ、毎日アドレス変えるんだよ!!だから国防省、CIA、NASAからハッキングして電話番号を知りたかったの!!」

 


 太郎は勢い良くユメの前にスミス&ウェッソン M39 をスーツの内ポケットから取り出す。



「次に言う言葉は」


「ごめんなさい」


「はぁ、俺に逢いに来たんだよな?俺に抱き枕をさせるために。15歳の子供ならもっと思春期を謳歌することだな。 ちゃんと避妊はしろよ」


「初めてはステイサムいいの……」


「好きにしろ……」


「えっ?本気で言ったのを真に受けるの?」


 この瞬間、太郎は無意識に息を呑む。マユを特殊な性格にしてしまった責任は、太郎にあるのだ。



「本気でステイサムはマユと……」


「もう俺は決めてんだ。初めての相手はお前がいいって」


「太郎……」


 ベッドから降りた太郎は布団を両手で手繰り寄せ、ベットを本体ごと回転させた。これが彼の本気だと伝えるように、ベット上にいるマユを高速で一回転させた。こんな仕打ちをされても生きている人間は、限られてくるだろう。



「この前、スタローンが全盛期の時だった抱き枕を買って上げたのに、翌日になったらゴミ箱に捨てた奴の言う事を信用できるか。俺の対応を見たろ? 俺はもうお前の彼女にならない。わかったな?」


「……」


「俺はプロの運び屋、お前は女子高生。抱きたい男を抱くには、相手との相性を考えること。もう我慢の限界だ」


「そんなこと言っても……」


「またベットを回転させるか」



 中学校と高校は大きな差がある。子供から少女へと、処女から非処女へと通関する大事な関門である。

 だがそれ以前に、太郎がプロの運び屋として銀行強盗の手助けをしたり、収容所に収監させられてもチキンレースで脱走を成功させたことは、互いの家族には内緒にしている。


 それをマユは心配しているのだ。非常識で紳士的な彼を理解しているからこそ、ユメが高校に上がるという節目で太郎と初体験をしなければと。それが彼女の使命である。



「……用がないなら、俺は次の依頼への準備がある」


「ま、待てっ!」



 ベットの下敷きになりながらも、マユは部屋から退出しようとする太郎の袖をギリギリで掴んだ。



「クリーニングに出しだばかりなんだか……」


「お願い……貴方の埋め合わせになりたいの……」


「……」


 鼻血を出しながら泣いて訴えるマユの言葉に折れた太郎は、しょうがないとベットをもう一度回転させて元の位置に戻した。



 「今日だけだ……」


 「あの……まだマユがベットの下敷きのままなんですけど」



 こうして、2人の夜は今日も仲良く更けていくのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最高の目覚めでございますか?・・・彼女は生きて帰れるか 龍鳥 @RyuChou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ