第5話転送魔方陣

 10階の魔方陣に向かうことにした僕たちは、できるだけ慎重に探索を続けることにした。  



 歩きながら、僕は気になっていた、要さんの記憶喪失のこと、さすがに、聞くわけにはいかないなと思っていると  


 

「なあ、要、お前記憶ないんだろ、原因は事故とかか?」  


 

 そう太陽が無神経に聞くと、



「あんたバカなの! そういうことは、聞くもんじゃないの!」    



 周囲を警戒してた来名さんが一喝したが、気にはなってるようで要さんの方をじっとみつめていた。



「ううん、大丈夫、ただ道で倒れてたんだって、でも言葉を忘れてしまってて、それで病院に運ばれて、体にも脳にも異常がないから、 事故とかじゃなくって突発性の記憶喪失だろうって、でも、家族の捜索届けとかもないから、その病院の院長さん、今のおじいちゃんが養子にしてくれたんだ。」      



 はにかみながら、要さんは答えた。 


 

 そうこうしながら、僕達は道中、魔物と出会うこともなく、無事に《魔方陣の間》までたどり着くことができた。   



 大きな広間の中央 上に球体をのせた8つの柱が立っていた。  その下の地面には大きな六芒星が描かれていて、文字や紋様がびっしり刻まれている。  

 六芒星の中央に石でできた操作盤があり、それを中心に三方に小さな柱が立っている。



「これが魔方陣か、始めて見たな」



 太陽は、キョロキョロまわりを見回して言った。  



 魔方陣、厳密には転移魔方陣は、10階ずつに設置され、それぞれの階に決まった起動する魔法文字コードがある。



 起動には、中央の操作盤の操作者と三方の柱に手を置く者の最低4人以上の人員が必要だが、帰る場合は必要ない。



「太陽さっさと、そこの小さな柱の上に手を乗せなさい、あんたでも必要なんだから」  



 来名さんは、太陽にそういいながら中央の操作盤のところで作業している。



「お前、間違えないだろうな」  



 そう言う太陽に



「ただ決められた魔法文字コードを打ち込むだけよ、知ってれば太陽バカでもできるわ.......」  



 来名さんは言うと、



「いまバカのところオレの名前当てはめたろ、ニュアンスでわかったぞ、もしミスったら、おっぱい触るからな」  



 太陽は柱に片手を乗せて言った。


 

 来名さんは反応せず、黙々と作業をしていた。  

 


「つ、ついに無視された」   



 落ち込む太陽に、僕は、



「し、心配ないよ、ミスしてもこの陣の中にいれば、ちょっとしたインターバルがあった後、入力し直せるからね」   



 と言うしかなかった。



「......できたわ、行くわよ」  



 来名さんがそう言って操作盤に手を置くと、 大きな柱の球体が赤く輝き、地面に刻まれた文字や紋様が光ながら浮き上がると、部屋全体が青白く輝きそのまぶしさに目を瞑った。  


 

 目を開けるとそこは、石でできた家々が並ぶ、都市のようであり、奥には大きな塔が建っていた。  



「ん?オレ10階って始めてだけと、こんな町なの」  


 

 太陽に聞いてきたが、  



「......違う......ここは10階じゃない、都市がある階なんて......あそこしか」 



「そうだ、ここは100階、竜のドラゴンネストだ......」



 そう僕は震えながら答えた。  



「来名! お前ミスってんじゃねーか」 


「まあ静かに太陽、誰にでも失敗はあるよ、すぐ入力し直せば、帰れるし......」   


 

 僕は自分を落ち着かせるように言った。



「そうだよ、竜も近くにはいないみたいだし、ねえ、まなちゃん」



 そう要さんが声をかけるも、来名さんは下を向いて答えなかった、



「まなちゃん......?」


「ごめん、ゆうき......」    



 そう言うと、来名さんは杖を地面に突き立て唱えた。

  


 縛索の石蔓ストーンバインド


 

 地面から石の蔓が生えて僕たちは絡めとられ動けなくなった。


  

「皆は帰って、わたしにはやることがあるの.......」  

 

「何が! まおちゃん」


「おい! 来名!」


「どうした! 来名さん!」 



 皆がそう言う中、来名さんは歩きだし少し止まると、  



「あんたちとの探索......まあまあ楽しかったわ」  



 とだけ言うと、走り去った。



「追いかけないと、これなんとかはずせない! とおるくん!」



 じたばたしながら、要さんがいった。



「すぐ枯れるけど追いかけちゃだめだ」


「なんでだ! 竜に襲われたら死ぬぞ!」  



 珍しく動揺した太陽に、



「よく見ろ、この町、迷路みたいに入り組んでる、追いかけてもすぐに見つけられないし、行ったのは奥に見える塔のだとは思うけど、もし行って間違った場合、来名さんが用を済まして帰ってきたら、入れ違いになる。 それに竜はあの塔には入れないだろうから、もし竜に見つかって戦いになったら、場所もすぐにわかるはずだろ」


「なるほど、確かに......」



 そう言うと、太陽は幾分か落ち着いたようだった。  



「彼女の目的を考えていたんだけど......」


「エリクサーしかないんじゃないかな......」



 そう要さんがいい、



「となると、意識不明になってる穂唱麻央さんか......」


「間違いない確実にそうだ、あいつの姉貴だったのか.......」


「まだ決まった訳じゃ......」  



 僕が言うと、太陽は  



「いや間違いない! 昔見た穂唱麻央グラビアが、あいつと胸以外は同じだったんだ! おれとしたことが、気づかないなんて......くっ!」


「そんなのでわかるんだ」      



 要さんが驚いてたが、



「いや特別、太陽だけだよ」    



 僕は答えた。  



「それよりも、来名さんがなぜ100階のコードを知ってたんだろう.......」


「お姉さんから教えてもらったのかも」


「そうだね、それに迷いなく走っていったから、エリクサーの位置も、聞いてたのかも知れない」    



 その時、絡んでいた蔓が枯れて砕けた。  



「よし二人はここに残り一人帰って救助を要請しよう、ぼくと太陽が残るから、要さんは帰って、ぼくにはとっておきが.......」


「ごめん! わたしやっぱり探してくる! 必ず帰るから」



 話し終わらないうちに要さんは、走り出していった。



「待ってダメだ!! 太陽! 連れ戻して僕じゃ追い付けない!」    



 太陽は動かなかった、そして唐突に、  



「おれさ、野球してたろ」


「なに言ってんの! こんなとき......」


「でも交通事故に遭って野球できなくなってよ......  そしたら心の中に何にもなくなっちまったんだ、だから探索者を目指した。

 新しい夢を探す為に......」


「人間ってさ夢が必要なんだよな、叶わなくったってさ、そして、今おれは手に入れたんだ大切な夢、仲間の......」


「太陽......」 


「来名のおっぱいを合法的にさわれる権利をなあ! 待ってろ来名! 絶対さわってやるからなー!」  


 

 そう言いながら、太陽は走っていった。


 

「お前だけは竜に踏み潰されろーーーー!!」  


 

 僕はそう叫んだ。

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