第4話夢の続き

 来名さんと太陽のやり取りをみていて、要さんは、


「二人は仲良しだねぇ、とおるくん」


「そ、そうだね」    


 

 そう僕は言葉を濁した。


「わたしこういう皆でわいわいするの憧れてたんだ...... 実はわたし...... いつっ!」  



 要さんは腕を押さえて、くずれるように倒れた。



「要さん!」


「ゆうき!」


「どうした要!?」  



 来名さんが要さんを抱き起こすと、服の袖からちいさな蜂のようなものが飛び出してきた。



「太陽! それ!」


「こいつ!」  



 僕が言うと太陽は持っていた短刀で蜂を切り裂いた。  



「普! 回復させたはずなのに、ゆうきが起きない! これ何なの!」      



 来名さんが激しく動揺して言った



「落ち着いて、こいつはドレイン・ビー 大丈夫、毒はない...... ただ魔力を吸いとるだけ、人は急激に魔力を失うと、気を失うんだ。  

 魔力が戻れば気がつく、でも、魔力の自然回復には大分時間がかかる、僕達は魔力で身体強化してるから、とても危ないよ」



「そう、じゃあ魔力が回復できればいいのね」  



 そういうと、腰につけた小さなバッグから小さな小瓶を出すと、僕にゆうきを支えておいてと言い、要さんに小瓶の中身を飲ませた。  



 すると 、



「ん、あれ......わたし まなちゃん?」  


「もう心配させないでよね......」


「魔力を回復させた! まさかエクスポーション!? そんなレアアイテム持ってたの?」


「ええ一個だけね、もしもの時のひとつ......」


「ごめんね大切なもの使わせちゃって......」  



 落ち込む要さんに、



「気にしない! あんたはいつものように笑ってなさい!」  



 要さんの頬を左右に引っ張って言った。



「ひたいよ、わかっらから はなひて まなひゃん」  



 要さんはじたばたしている。



 それを微笑ましく見ていると、太陽が来て



「なあ とおる、さっきこの短刀で蜂切ったけど、小さいから的外してんだけど、なんか切れたんだよな」


「ちょっと見せて、う~ん、これ魔法の短剣かもしれないなあ、ほんの少し魔力を込めて少し振るってみて」



 わかったと太陽が思いっきり短刀を振り下ろすと下から大きな風が吹き上がり、杖を拾おうとしていた来名さんのスカートを捲った。



「きゃあああ!」


「おおすごい! 白か! てっきり黒だとおもってたぜ! 以外に正統派なんだな来名」



 と親指を立てる太陽に



「こんのクマムシがぁぁぁぁ!」



 来名さんの杖からの無数の炎が踊り出た。



(あれはやはり魔法の短剣か、なんで? いやそれに......)  



 僕が考え事をしてると、



「ごめんね迷惑かけちゃって、どうしたの?」  



 そういって、要さんが話しかけてきた。  


「うん、ワザワザ鍵のある宝箱に魔法の短剣、それに呪いなんて、何の為なんだろうって、それに、あのスケルトンも、ドレイン・ビーもこの階層に出る魔物じゃないしおかしなことばかりだ......」


「下に降りて帰った方が言いかもしれない」


「えっ!?」  



 要さんが驚くと、来名さんは



「なんで! あの階段登ってすぐなのよ!」


「うん そうなんだけど、みんなの体力も魔力も予想以上に減ってるし もう回復もできない、想定外なことばかり起こる、それに10階からあの罠があるし危険だと思う」


「あの罠?」    



 そう太陽が聞いてきたので、僕は 、



「強制転移の罠さ、発動してしまうと、どこか別の場所に転移させられる、もっと上階にもね、最悪100階なんて飛ばされたら......」



(まぁ、マジックドレインの方が怖いけど......)  



 僕がそう思っていると、



「100階......」    



 要さんが神妙な面持ちで言う。



「それ昔、ニュースで聞いたな」  


 

 太陽がそういうので、三人はビクッとなった。    



「お前らオレをなんだと思ってんだよ! ニュースぐらい見たことあるし、新聞も読むわ! 4コマとテレビ欄と主にプロ野球の結果だけどな」


「あれは確か4、5年前だったよな、プロがドラゴンに会っちまったって話」

   


 そう5年前、政府の探索者100名と民間のプロ100名の計200名が、 何度目かの探索中、100階で竜に遭遇、198名が死亡。 



 生き残った1名重体、1名が重傷となった事件。



『魔竜事件』  



 この事件がきっかけで、最大探索階が99階までとなった。



「あれで生き残ったの、穂唱麻央だったな」


「よく知ってるな太陽」   



 僕が言うと、



「おう、ファンだったからな、タレント顔負けの人気探索者で、グラビアなんかも出してたから、意識不明になったって聞いてショックだったぜ、いまどうなってんだろ、治ったって聞かねえけど。 でもよ、なんでなんだ、政府が民間のプロまで雇って探索なんてさせるなんて」      



 首をかしげながら、太陽が呟くと、



「見つかったのよ、持ち帰った遺物の中に100階に何か重要な宝が眠ってるって記述の文献がね、だから民間のプロも動員して探索した、あるかわからないものに税金まで使ってバカみたい」    



 そう来名さんは吐き捨てるように言った。  



「エリクサーがあるって話、わたしも知ってる」


「エリクサーってあのゲームとかのやつか!」



(確か、100階の古い都市跡に死に瀕した者さえ癒す霊薬エリクサーが眠る。  

 ネットの都市伝説で、政府のデータベースにハッキングしたハッカーが機密文書を見つけてSNS上に公開したって話、政府は全く反応しなかったけど)  



 そんな風に僕が、思っていると、



「100階まで飛ぶなんてこと、起きる可能性ほぼないわ! 上に行くべきよ! そんなこと言ったら、下だって想定外の事が起こるかもしれないじゃない! そうでしょ太陽!」



  来名さんは、太陽に話を向けたが、



「どうかな......何かやな感じもすんだよな、おれの勘けっこう当たるんだぜ」 


「なによ! ゆうき、あんたはどっちなの!」


「......わたしは、行きたいな、次、皆と探索出来るのがいつになるかわからないし、このパーティで試験合格したいから.......」



 そう言って、すこし沈黙があったあと要さんは、ゆっくりと話しだした。


「実は......わたしね、さっき話してた5年前以前の記憶がないんだ」


「気がついたら病院に入ってた、それから、病院での日々、外に出ることもできなくて......そこでお勉強の為に、与えられた本のなかに、勇者が冒険をするおはなしがあったの」


「それは、自由に旅をして仲間達と宝物を手に入れたり、魔物と戦ったりするおはなし、すごく楽しそうで羨ましかった、外に出たらわたしもこうするんだって夢に見てたの」


「いま夢が叶ってるもう少しだけ、夢を見ててもいいかな......」  



 要さんは、こちらに向かって問いかけた。



「ふぅ まあそこまで言うんじゃしゃーねーな、いっちょ行ってみっか」    



 頭をかきながら太陽が言い、  


「当然でしょ、私は最初からこんな試験で、つまづくつもりはないから普、まだ反対する?」    



 そう来名さんに聞かれて、



「いや.......行くなら最短で魔方陣を目指そう」



「ありがとう皆.......」    


 

 そして、瞳を潤ませた要さんに、いつもの笑顔が戻った。

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