第3話宝物狂想曲《トレジャーラプソディー》

「しっ! 二人とも静かに」    



 そう要さんが言って場に緊張が走る。  


 

 耳を澄ませると登り階段からカツカツという音が複数聞こえてきた。 降りてきたものは、ボロボロの西洋甲冑に身を包み、剣と盾を携えた骨だけの体の魔物達だった。    


 

「ス......スケルトン!?」  



 僕は驚いて言った。



「何でこんな所に......もっと上階層の魔物なのに、しかも四体.......」  



 来名さんが驚いている。



「皆! 動いて! 守勢に回ったら死ぬよ!」     



 そう言うやいなや、要さんが走りだし剣で、二体のスケルトンに切りかかった。



「よし! オレも行くぜ!」


「待てって太陽! お前、攻撃魔法持ってないだろ!」   


「この熱い想いが、オレの魔法だー!」    



 叫びながら太陽は、突っ込んでいった。  



「普! 太陽が惨殺されてる間、一体引き付けといて!」


「そんな!」


「冗談よ! ちゃんとあいつの防御力あげといたわ、いいからあんたはわたしを守りなさい!」 



 そう言いながら来名さんは、地面に杖で何かを描き始めた。  



 僕は、スケルトンの斬撃を中華鍋で凌ぎながら、



「ダメだ! このままじゃやられる! もう使おう! 皆もう少し近くに......」  



 皆を集めようとした瞬間、急に強い風が吹いてきた。



「これは!?」  


 

 風の方向を見ると、吹き荒れる風の中、来名さんは杖を高く掲げ、    



「汝ら、命の理に反する者よ、定められし因果に還り、天へと至れ!」      



還魂の光棺ソウルコフィン



 彼女の周囲に青白く光る大小複数の魔方陣が浮かび上がり、部屋全体を光で満たした。  

 

 眩しさに目を瞑り、そしてゆっくり目を開けると、スケルトンたちはガラガラと崩れ落ちていった。



「さっすが、まなちゃん!」



 そう言いながら、要さんが駆け寄り抱きついた。



「ちょっとやめなさい! 離してよ、ゆうきってば!」    



 ハグされた来名さんは、照れながら困惑している。


(学生であんな強力な魔法を使えるなんて、まして魔方陣や詠唱を使う魔法だなんて)    



 魔法とは、遺跡が発見されてから遺跡内から涌き出る魔力が人々に宿ったものを使用する技術である。  



 魔力量は、個人で異なるが、これを儀式により任意に分配して魔法を獲得設定する。 鍛練によりその保有量は増やせる。又、使用した魔力は時間経過で回復する。     



そして魔法は、大別して、主に二つに分類される。  



 一つは身体強化魔法


 読んで字のごとく肉体を強化する魔法、筋力、耐久力、体力、まで強化できるこの魔法により、探索の安全性が飛躍的に上がった。  一度獲得すると変更はきかないが、魔力があるかぎり無意識かつ永続して効果が続く。  



 もう一つは創造魔法  


 一般的にイメージする魔法そのもので、使用者の想像を具現化する魔法、ゆえに精神を乱すと正確に発動しない、単発で魔力を使用。    



 どちらもみずからに流れる魔力を用い発動するが、言葉にあらかじめ魔力を付与し詠唱で発動する詠唱術、文字や紋様に魔力を付与し発動する魔方陣などは強力な魔法発動には必須、また魔力消費が多く扱うのが難しい。  



 余談だか、この魔法の存在がパラレルワールドと現実がくっついた多元混沌説や、誰かの想像なのではないかという創世具現説を産み出した。    



 僕は崩れたスケルトンをみて、違和感を感じた、その時、



(ん? あれは)  



 縁が金属の木製の箱のようなものが、落ちているのを見つけた。



「こんなものさっきまでなかったのに」  



 いぶかしがる僕に、



「上層階の魔物には、倒すと宝箱を落とすのもいるよ、魔法で誰かが、守らせてて、倒されたから転移してきたんだよ」



 要さんは、うれしそうに宝箱を開けようとしたので、僕は、



「要さん! 危ないよ! トラップがあるかも.......」


「あっダメだ、鍵かかってる......なんとか壊せないかな」    



 開けられずに、何とかしようとしている要さんに、



「箱自体に魔法がかかってるから壊せないし、そんなの持って帰れないわよ、諦めなさい」  



 そう来名さんがいうと、遠くから



「フッ、オレを忘れていませんかね」


「太陽、忘れてた! 大丈夫だったか!」


「ダニ! あんた生きてたの!?」


「太陽君、だいぶスケルトンになぐられてたけど平気なの!」



 声の方を見ると、頭から血を流した太陽がヨロヨロと歩いてきた。



「めっちゃやられてる!」



 三人の声が重なった。



「やっとオレの出番だな」 


「太陽くん、まさか、鍵開けられるの?」    



 要さんが、太陽に声をかけると、



「ああ、オレは耐久力と鍵開けに全魔力を分けてるからな」


「そんな分け方だから弱いのよバカね、さっさとこっちに来なさい」    



 と来名さんはあきれながら、手をかざし回復魔法を太陽にかけた。



「宝がダンジョンの醍醐味だろ、宝箱開ける能力は必須だ、お前らこそなんで鍵開け能力も無しに探索者やってんの?」  


「確かにそうだね、宝物は大事、うんうん」  

 


 要さんが納得したように、頷くと



「止めなさいゆうき、バカに同調するのは」  



 来名さんはたしなめた。



「太陽も最近探索者目指したんだよね、理由聞いてなかった」



 そんな風に僕が聞くと、



「決まってるだろモテるからだ、探検者はモテる、有名になってモテる、 お金持ちでモテる、英雄になってモテる、とにかくモテる、それ以外に何がある」


「はははっ、すごい、すごいね、太陽くん面白い!」    



 そう笑う要さんを横目に、憐れみの顔を太陽に向ける来名さんがいた。


 

「おーすげえ、どんどん痛みが引いていく、前かけてもらったのと違うな、そうかこれが愛のなせる業か」   



 そういうと、太陽は炎に包まれた。



「あつあつ! 回復中には止めろよな! 来名!」 


「大丈夫よ、これは周囲から魔力を集める杖だから」


「魔力残量の心配などしとらんわ! たく、さあ宝箱を寄越せよ開けてやるから」



 そういうと宝箱に魔力を込めだした、すると、ガチャと音がし



「よし開いたぞ!」



 宝箱をゆっくり開けると、そこには短刀が一振り入っていただけだった。  


「なんだよ! これだけかよ! あんな苦労したのに」  



 太陽が愚痴りながら、短刀を鞘から抜こうとした。



「ちょっと待て太陽! その短刀になにかあるかも......」   



 僕は言ったが、特にはなにも起こらず、太陽は 



「慎重すぎんだよお前は、もっと人生楽しまねえと損だぜ」 


「太陽くん、それちょっと見せて、わたし武器集めてるんだ。」


 

 要さんが、頼むと



「ほらよ、おれも武器ぐらい欲しいな、何かくれよ要」  


「いいよ帰ったら何か合うのあげるよ、ん、あの太陽くん短刀離してくれる?」


 

 太陽は短刀から手を離そうとしない、どうしたのと問う要さんに、顔面蒼白で苦笑いしながら、



「あの、これ離れなくなっちゃった......」      



 その短刀の刀身に何か文字のようなものが刻まれているよう見え、



「よく見せて! ああ! これ呪いの魔法が掛けられてる!」  



 僕がそう言うと、来名さんが笑い転げた。



「ねえどうすんの! ねえどうすんのこれ!?」  



 慌てふためいている太陽に、要さんが落ち着くよういい  



「帰って解呪してもらえばいいんだよ」


「うん......でも、解呪にはお金がかかるよ、30万くらいかな......」    



 言いずらそうに僕が言うと、



「うわあああああ! 魔法社会が産んだ哀しきモンスターがうまれたあああ~!」    


「はははっ ほんと、最低のモンスターね」



 笑った来名さんが涙をぬぐいながら太陽に、魔法らしきものを掛けた。  



 すると短刀は太陽の手から外すことができた、僕は驚いて、 


「解呪魔法! そんな高等魔法も使えるんだ来名さん」


「まあね、だけど魔力消費が大きいから使いたくなかったのに、 まったく役立たずの上に面倒なやつだわ」  


「さんきゅ! 来名」     



 と抱きしめようとする太陽が、また炎に包まれた。

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