第2話ついでに太陽も料理

 階段前の大広間に着いて  



「さて、まず今日与えられた私達の試験内容は、四人一組のパーティーとなり、ばらばらに遺跡に入って合流後、10階の『魔方陣』で帰る事なんだけど、魔法のアイテムは無し、今9階だし、私は行くべきだと思うけど、みんなどう思う?」      



 要さんが、皆に話を切り出すと、



「あと次の階なんだから行くに決まってんだろ」



 太陽が迷いなく答え、



「カブトムシと同じ考えなのはイヤだけど、この程度の難度で失敗なんて有り得ないから、行く以外の選択肢はないわ」  



 と来名さんは本当にイヤそうな顔で言った。   



(太陽、いつの間にかカブトムシって呼ばれてる)  



 そう僕が思っていると


「とおる君はどう思う?」  


「うん、多分大丈夫だと思うよ」


「よし! 決まりね、さあレッツゴー!」



 要さんが嬉しそうに立ちあがろうとしたので、



「ちょっと、食事用意するから待って」   



 僕はそう言って、持っていたリュックの中を探った。



「食事ってあのカナブンが荷物全部なくしたのよ、食べ物なんてどこに持ってきてたの?」



 来名さんが聞いてきた。



(なんか虫のクラス下がってる)     



「ああ、さっき手に入れたの持ってきたんだ」    



 そう言うと、僕は、リュックから出したものを見せた。


「ちょっと! それスライムじゃない!  まさかそれ食べるつもり!?」


「うん、スライムは高タンパク、低カロリー、グルテンフリーのセレブも食べてるスーパーフードだよ」


「それは知ってるけど......、ねえ、ゆうき、これ食べるつもり.......」  



 来名さんが横を見ると、    



 せっせとお皿やお箸などをそこらの木片から作る、太陽と要さんの姿があった。


「えっ? なんか言った、まなちゃん」 「いや いい......」



 来名さんは沈黙した。  



 その後、持ってきてた中華鍋を水で洗い、調味料とスライムを入れていると、


「とおる君、料理なんかできたんだすごいね、手伝おうか」



 要さんが話しかけてきた。



「ううん、大丈夫、なんせ週5で中華屋さんのバイトしてるからね」    



 と照れながら言うと、


「さっきはごめんね、まなちゃんが......あの子ほんとはすごく優しいの誰かが傷付くのがいやだからあんなこと......」


「えっ? ああ、いいんだ、僕が探索者を望んでないってのは事実だし」


「じゃあ......」  



 そう彼女は言いかけてやめた。  



 なんでここにか、そうだ僕がここにいるのは、奨学金の事だけじゃない、僕が5才の時に出ていった父親の事がある。 



「見たことの無いものをみる」  



 そういって世界中を旅してまわる変人だった。



 きっと生きていればどこかの遺跡を巡っているはずだ、僕が辞めないのは、会って一言言ってやりたいという思いもあるからだろう。

 僕が堅実な生き方を望むのは父への反発かもしれないな、ふとそう思ったとき、 


 

 中華鍋のスープが音をたて沸騰してきた。



「はい スライムの中華風餡掛けスープ」



 僕が料理を披露すると、皆から歓声が上がったが、来名さんだけは、手にもった皿をみてしかめっ面をしていた。



 要さんはためらわずに一口食べ、



「おいしー! これフカヒレみたいだー!!」  



 と子供のようにはしゃぎ、太陽も  



「これうめえな! ほんとフカヒレみたいだぜ、フカヒレ食ったことないけどなー」



 美味しそうに口一杯に頬張った。



 二人を横目にみてた来名さんは、おそるおそる目をつぶって、一口食べると目を見開き、


 

「なにこの芳醇な香りと、極上の旨味! そして、そのハーモニーが奏でる至高の味わい!」  



 そんなよくわからない食リポをして、



「普......やるわね、これで役立たずは、ダンゴムシだけか」と言った。  



(太陽の虫ランクが相対的に下がってしまった)  



そう僕が思っていると、



「なあなあ、要と来名はさ、何で特進から普通クラスに来たんだ?  ああ、とおるはいい、弱いから落とされたんだろ」



 太陽がおもむろに聞いた。    


 失礼なと思ったが事実だから黙っていた、確かに僕も気になってはいたことだ。  

 二人とも特進クラスでは実力はトップに近かったし、特進クラスの方が多くの利点がある。



 授業料免除や大学進学への推薦、将来の就職にも有利だし、それに最大の利点は探索範囲が拡がることだろう。  



 それは遺跡の探索には国が定めた『探索法』があるからだ。  探索法では、探索が許可される階層は、高校生は、一年で1階から最大5階まで、二年で5階から最大10階、三年で10階から20階、

 大学生で、20階から50階、プロ資格者で最大99階となっているが、特進だと大学生と同じ探索範囲となっている。



 深い階層ほど未発見の貴重な『遺物』があり、発見者は多くの富と名声が得られることから、学生は特進クラスを目指すのが当たり前だった。



(プロになるなら、有利なはずなのになぜだろう)  



 そう思い、二人をじっとみていると、



「私は、自由がなかったからかなあ」    



 上を向きながら要さんは言った。



「自由? 」    



 そう太陽が聞くと、



「そんなことも知らないのねシロアリ、何で特進クラスなんてあるかってこと、公益の学校とはいえビジネスなの、遺物獲得は学校側に巨額の利益をもたらす、だから、優秀な人間を特進クラスにいれ、効率的に遺跡探索を行わせるの、プライベートも管理され自由なんか無いのよ、その分利点もあるけどね」  



 太陽の虫クラスを下げながら来名さんは言うと、   



「かごの鳥は哀しいから」    



 要さんは目を伏せながら答えた。



「まあな、せっかく探索するなら自由な方がいいよな、じゃあ、来名も自由になりたくて普通クラスにきたのか」


 

「私は......あの先生が、なんか気にくわなかっだけよ」


「あの先生ってあいつか、今日の試験考えた、元プロのいけすかねえ特進の教師、名前なんだっけ?」  



 その話を聞いて、頬がこけ冷たい目をした不遜な態度のあの男の顔を思い出した。

 僕を特進クラスから普通クラスに落とした人物、 



 鑑直実かがみ なおざね



 1年前、僕は職員室の鑑に呼び出された。



「普通クラスに行けって急にそんなこと言われても!」


「当然だろう、貴様はここでさしたる成果も出せずにいるのだからな」  



 鑑は、こちらをみることもなく机で作業を続けながら淡々と言った。



「でも、授業料の免除がないと学校をやめないと......」  



 僕がそう言うと、フンと鼻をならし



「知らんな、学校も私も使えないやつを育てるほど暇じゃない、 人間には絶対的な差があるし、むしろ隔てるべきなのだ、必要な者とそうでない者をな」  



 それだけ言うと、一度もこちらを見ることもなく席を立った。    



 その後、僕はなんとか奨学金を得て、退学は免れたのだった。



「そうよ、鑑、わたしあいつが嫌いなのよ、プロかは知らないけど、尊大で傲慢な感じがいやなの。だから出ただけ」


「ほう、なかなかやるな、来名誉めてつかわそう、小さな胸に反して大きな決断をするやつだ」       



 と言った瞬間、炎が太陽を包む。



「やめろ来名! 何回! オレをこんがりさせんだ! 」   



 そう太陽が叫んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る