点てる理由1

 翌日、他の学年同様1日授業が始まりだした。いきなり1日と思うかもしれないが受験率が高く、難しい学校であるなら次の日から授業が始まってもおかしくはない。

 それから長い長い授業を耐えた僕はすぐに部活へ行く準備をする。

 よしやっと部活に行ける。少しでも早く行って多く練習しないと。

 そんな思いが頭の中でいっぱいになる。

「よっ、悠真。一緒に行こうぜ」

 教室を出ると雄二と陽菜の姿が。

「あ、ああ」

「それにしてもいきなり授業ってしんどいな」

「確かにな。でも1年だけ午前中でおわっつえ部活まで待たされるのも嫌だから僕はこっちの方がいいかな」

「悠真君は本当に茶道が好きなんですね」

「まあ」

 それから昨日教えた事を復習しながら部室へと向かった。

「失礼します」

 中に入るとすでに先輩たちの姿が。

「あれ、今日は2人だけなんですか? 」

「他の2人は兼部をしていてな。昨日は無理言ってきてもらったんだ」

「そうなんですね」

「それで入部届は持ってきたか? 」

「勿論です」

 3人とも鞄から入部届を取り出し先輩に手渡した。

「うむ。記入漏れはない。ようこそ茶道部へ」

 これでようやく茶道が出来る。

「では早速活動をと言いたい所だがまずやるべき事があってな」

「何ですか? 」

「部室の掃除だよ。茶や菓子は体の中に入る為少しでも場所を綺麗にしておかなければならない。それに昨日は沢山の生徒たちが来た。という訳で掃除だ」

 もう一人の先輩が箒と乾いた雑巾をこちらに持ってきた。

「さあ早くしないと活動する時間が減るぞ。折本」

 その言葉を聞いて僕はすぐさま掃除の準備を始める。

「よし、それでは役割分担だが」

 役割は先輩たち2人と陽菜が箒、僕と雄二が雑巾係りに決まった。

「1年2人組は私たちが掃いた後を拭いていけ。しっかりやらないとやり直しさせるからな」

 そんな! やり直しになんてなれば活動時間がどんどん減ってしまう。それにしっかりとしたやり方を教えてくれないと言う事は僕たちを試してるのかもしてない。もしそうなら1回で掃除を終わらせる為には……。

「雄二。今から畳の掃除のやり方を教えるからしっかりやってくれ」

「おう、俺も早く練習したいしその方が助かるぜ」

 まず畳の掃除方法は畳の目に沿って掃除する事。今回の場合横に拭く事によって畳の目に沿る事が出来る。これを知らない人は割と適当にしてしまいがちで掃除出来たとは言えない。そしてどの掃除でも言えるけど端っこにゴミが溜まる。だからこの2点を気を付けて掃除をすればやり直しをさせられる事はない。

 それから15分程部室の掃除をした僕たち。

 雄二は教えた通り掃除をしてくれたお陰でかなり綺麗になったと思う。

 ただそれを判断するのは先輩であり、僕たちの自信はあまり意味をなさない。

「どうですか? 先輩」

「……」

 先輩は全体をぐるりと見て回り、ごみが残っていないかチェックし始めた。 

 何て言うか判決を待つ囚人見たいな感じだ。

「……及第点と言った所だな」

 ふぅー。

 やり直しでない事が確定した為安堵の息が漏れる。

「だが次はもう少し丁寧にしろ。いいな」

「「は、はい」」

 何はともあれこれでやっと活動が出来る。

「では本日の活動だが君たち3人にはこれを使い慣れるまでは他の活動を禁止とする」

 そういって取り出したのは茶せんだ。

 茶せんとは茶を点てる為に必要な道具の1つである。大体の物が竹製であるが流派によっては竹の種類や色が違うらしい。

「まずはそこの2人だが茶を点てた経験は? 」

「私はありません」

「俺もです」

「ならやってみるといい。いかにこの茶せんに慣れるのが需要か分かるはずだ」

 そういって先輩たちはそそくさと茶を点てる準備を始める。

 先輩だけはお湯を入れて2人の目の前に座った。

「それじゃあまずは思う様に点ててみてくれ」

「「は、はい」」

 少しおぼつかない手つきで点て始める。

 まあ点てた事が無いなら当たり前か。

「やめ。自分たちの茶を見てみろ」

 僕も後ろから2人の茶を見る事に。

「どうだ、折本」

「混ざってはいますね。でもそれだけです」

「そうか。でも2人共昨日飲んだ茶とは何が違うと思う? 」

「えっと点て方ですかね」

「勿論それは大前提だ。そうではない、茶の状態はどうだ? 」

「泡が無い? 」

「正解だ、橋本」

 そう言われて2人共自分の茶を見る。

 確かに昨日の先輩たちが点てた様なお茶ではない。

「では次は手首で点てる様にしてみろ。こういう風に」

 先輩は用意したお湯で点てる動作をし始めた。

 2人は言われた通り点て始める。

 すると……。

「凄い、泡立ってる」

「ホントだ! すげー」

「だから君たちにはこれを慣れるまでは他の活動は許さない」

 先輩の言っている事は分かる。この基礎が出来ないと茶を点てる事は難しい。

 でも……。

「なら僕が参加する意味ないですよね? 」

「何故そう思う」

「僕はそれが出来るからです。なのでもっと別の事を」

「駄目だ」

「なっ! どうしてですか」

「では折本。君は一体何の為に茶を嗜んでいるんだ? 」

「っ! ぼ、僕は…‥」

「それがすぐに答えられないなら君がやる事は2人と一緒だ」

 そういって先輩は自分の器具を片付け始める。

「2人共、その茶は飲む様に。その後は先程やった様にお湯で練習する。いいな」

「「はい」」

 僕が茶道をする理由……。

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