第2話 〔名前〕ヲ、ツケテモライマシタ

「パパ〜!

 こんなに おっきな おにんぎょ ありがと!! 」

 


 井中いなか ひろし(35)の娘、井中いなか きらり(5)はとても喜んだ。

 自分の2倍はある大きな人形を、誕生日でもクリスマスでもこどもの日でもない〔普通の日〕にプレゼントしてくれる父が、とてもすごいと思った。

 母の井中いなか 夕顔ゆうが(32)は、他の人に気付かれないように夫に怒りをぶつけた。



「……ローン何年分よ、アレ……」

「……アレはネットで200円だったんだ……」



 はたから見たら、仲良く夫婦で内緒話ないしょばなしをしているように見える。

 実際じっさいは妻がドスをかせた声で、夫の尋問じんもんをしていた。またパチンコで負けたのをなんとか誤魔化ごまかそうとしているに違いないと、夕顔ゆうがにらんだのだ。



「はぁ?! 200万?!?!」



「ちょっ! バカ!! 声がでけぇよ!!」

「何、言ってんのよ! 200万なんてだまっちゃいられないわよ?!」

「〔200〕だ! って言ったんだよ!!」

「バカ言ってんじゃないわよ!

 こんなデッカイのが200円なワケないでしょう?! 送料の方が高いじゃない!!」

「知らねぇよ!

 サイトには大きさなんて書いてなかったし、200円で等身大フィギュアが買えるなんて普通思わないだろ? サイト見てみろよ!」



 夫にそういわれてオークションサイトを見てみれば、確かに200円でこの等身大フィギュアが落札されていた。



「ウソでしょ……」



 父・ひろしと母・夕顔ゆうがが言い合いをしている間、娘のきらりは身長160センチの大きな人形を口をけたままながめ回していた。



「うぁ……。

 きょうからよろしくね。おにんぎょさん」



 人形の手をとりながら話しかけると、突然とつぜん人形がしゃべりだした。



「ヨロシク オ願イシマス マスター」



 大きな人形をもらえただけで嬉しいのに、しゃべりだしたのできらりは嬉しすぎてびはねて喜んだ。



「「「「!?!?」」」」



 これには、祖父、祖母、ひろし夕顔ゆうがも驚いた。

 きらりだけが、はしゃいでいる。



「わたしはね、〔いなか きらり〕っていうの。

 あなたは?」

「マスター、〔イナカ・キラリ〕。登録シマシタ」



 ごく自然な流れのように、きらりはマスター登録された。これに、母の夕顔ゆうがは恐怖した。



「あなた!

 うちの娘が〔マスター登録〕されたわよ!!

 あのどうなっちゃうの?!」

「落ち着け。

 200円の等身大フィギュアのいうことだ。

 きっと、台詞せりふは7パターンぐらいのおもちゃさ」



 所詮しょせんは“安いおもちゃ”とたかくくる父・ひろし。母・夕顔ゆうがはその安さが、何かの陰謀いんぼうのように思えて怖かった。



「私ハ、〔Vocaloidボーカロイド/Type-R3タイプ・アール・スリー-ST-1エス・ティー・ワン〕デス」

「ぼ〜か……? え〜、ながい〜」



 長くておぼえられないと、きらりはおちこんでしまった。



「デハ、〔1号機〕ト オヨビ クダサイ」



 これを聞いて、きらり不機嫌ふきげんになった。



「え〜。〔いちごう〕は、おとこのこッポイ〜」



 ほっぺたをふくらませて不満をいう。

 きらりには、可愛かわいいお人形を、可愛い名前で呼びたいという思いがあった。



「そうだ!

 “う”をとって、〔いちごちゃん〕ね!」



 可愛かわいい名前をつけることができて、きらりはとても満足した。



「了解。

〔イチゴチャン〕登録シマシタ」



 “ピピッ”という電子音がしたので、母・夕顔ゆうがは再びおびえた。



「いやぁぁぁぁぁぁぁ!

 また、何か登録したわよ!!」

「落ち着け!

 今度はきらりがつけた名前を登録しただけだ」



 一方いっぽうきらりは無邪気に〔いちごちゃん〕に質問を投げかけた。



「いちごちゃんは ろぼっとだから、めから びぃ〜むとか でる?」

「ノー。マスター〔キラリ〕。

 私ニ、戦闘機能ハ アリマセン」


「ははぁ。それにしても、不思議じゃのぅ。

 最新のハイテク人形に見えるのに、しゃべり方は昔のロボットみたいじゃのぅ」

「そういえば、昔のSF映画に出てくるロボットのような話し方ですね〜。おじいさん」



 ただただ驚いて、動きを止めて驚いていた祖父と祖母が、〔いちごちゃん〕の存在にれてきて口を開いた。


〔いちごちゃん〕は祖父母の方に向きを変え、機械的に答えた。



「私ハ、歌ヲ歌ウタメニ 作ラレマシタ。

 会話ヲスル能力ハ 最低限デイイト

 博士ガ 判断シマシタ」

「ほぅぁ〜。最近のこどもはこんなに大きな人形で遊ぶんじゃのぅ〜」

すごいですね〜。おじいさん」



 “歌を歌える”と聞いて祖父母は、“〔ボタンを押せばメロディーが流れる人形〕の大きくなったバージョン”だと想像した。

 父・ひろしと母・夕顔ゆうがも、(大きくても、やはりこども向け)と安心した。



「この人形は確かにきららちゃん向けじゃのぅ。

 ところで……。

 いちごちゃんは、きららちゃんが幼稚園に行っとる間に、町の防犯に使えそうじゃのぅ」



 祖父は何かをひらめいたようだった。


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