〔ボーカル・アンドロイド〕デスガ、頑張ッテ目カラ〔ビーム〕ヲ出シタイデス

第1話 〔オークション〕デ、200円デ落札サレマシタ

「やったぞ！！

　遂（つい）に……、遂（つい）に完成した！！！！」

　爆発したような白髪（しらが）頭。ヒョロヒョロの体。同年代の人と比（くら）べれば高めの身長の〔酢五井（すごい）　太郎（たろう）〕博士は、おんぼろアパートの2階の配線だらけの薄暗（うすぐら）い一室（いっしつ）で、歓喜（かんき）の声を上げた。

「16歳の頃（ころ）からロボット開発に興味（きょうみ）をもち、今日までコツコツコツコツコツコツコツコツ60年！

　遂（つい）に〔ボーカル・アンドロイド〕の完成だ！」

　海の色のようなサラサラの長い髪。ツルツルで透（す）きとおるような色の肌。身長160cmの、まるでアニメの世界から飛び出してきたような機体。

　夢にまで見た〔ボーカル・アンドロイド〕略（りゃく）して〔ボーカロイド〕が完成した。

　酢五井（すごい）博士が喜びを噛（か）み締（し）めていると、突然（とつぜん）玄関のドアが開き黒ずくめの男達が入ってきた。

「税金の滞納（たいのう）により、12:00（ヒトフタマルマル）。

　これより、差（さ）し押（お）さえ作業に入ります」

「ふぉっ？！？！」

　何が何だかわからない〔酢五井（すごい）太郎（76）〕。

　その場でキョトキョトするが、その間に黒ずくめの男達は年代物（ねんだいもの）のTV、ラジオ、炊飯器（すいはんき）、凹（へこ）んでいるヤカンにまで【差し押さえ】の赤い短冊（たんざく）型のシールを貼（は）っていった。

　そして、今、完成したばかりの〔ボーカル・アンドロイド〕にも赤い短冊（たんざく）型のシールを貼（は）られたので、酢五井（すごい）博士は必死に止めた。

「これだけは！　

〔Vocaloid（ぼーかろいど）/Type（タイプ）-R3-ST-1〕だけは勘弁（かんべん）してくれ！！」

「今すぐいくらか税金を納（おさ）められるなら、可能です。お金ありますか？」

「えっ……。

　…………………………………………無い」

　酢五井（すごい）博士に、お金など無かった。

　給料は全（すべ）てボーカロイドの開発に注（そそ）ぎ込んできた。

　黒ずくめの男の話を聞いていると、どうやら60歳で定年を迎（むか）えた時に正規（せいき）雇用（こよう）から非（ひ）正規（せいき）雇用（こよう）に切りかわったあたりで、何か手続きを忘れていたらしい。

　だが、人性の全（すべ）てを注（そそ）いできたのだ。

　そうやすやすと取られたくなかった。

　もっと強くお願いしようと、強引（ごういん）にボーカロイドと黒ずくめの男の間（あいだ）に入った。

「うぉっ！！」

「ふぉっ？」

　ドンッと、勢（いきお）い余（あま）って黒ずくめの男にぶつかってしまった。

　倒（たお）れる黒ずくめの男。

　それを見て驚（おどろ）く、他の黒ずくめの男達。

　酢五井（すごい）博士も驚（おどろ）いた。「すまなかった」と手を差（さ）しのべようとしたとき、

「抵抗（ていこう）したぞ！！」

「まさか、暴行（ぼうこう）するなんて！！」

「なんて凶悪なマッドサイエンティストなんだ！」

「公務執行妨害（こうむしっこうぼうがい）だ！」

「逮捕（たいほ）しろ！　逮捕――――――！！」

　酢五井（すごい）博士は、またたく間に逮捕（たいほ）された。

「クソ〜！

　せめて、せめて郵便物の確認をちゃんとしていれば、督促状（とくそくじょう）に気付（きづ）いて対応できたものを――――――――――！！」

　こうして、アニメのキャラクターが現実世界に飛び出てきたような〔Vocaloid（ぼーかろいど）/Type（たいぷ）-R3-ST1〕は日本政府に押収（おうしゅう）された。

　押収（おうしゅう）されたボーカル・アンドロイドはすぐに官公庁（かんこうちょう）のネットオークションに載（の）せられることになった。

「これ、アニメの等身大（たうしんだい）フィギュアかなにかですかね？

　登録はどのジャンルにしますか？」

「アニメ関係なら〔おもちゃ〕でいいだろう」

「〔おもちゃ〕なら200円スタートですけど、200円でいいですか？」

「かまわんだろう。見たところ有名なアニメでもなさそうだしな」

　酢五井（すごい）博士が60年かけて作ったボーカル・アンドロイドは200円でネットオークションにかけられた。

　落札（らくさつ）したのは、とある田舎（いなか）の自治会（じちかい）会長の息子〔井中（いなか）　宏（ひろし）（35）〕だった。

　彼は5歳の娘のお人形遊びにちょうどいい物を探していた。　　

「アニメのキャラクターっぽい人形が200円！　

　これにしよう！！」

　パチンコでお小遣（こづ）いをほとんど使ってしまったので、とてもいい買い物ができてよかったと〔井中（いなか）　宏（ひろし）〕は喜んだ。

　商品が届いて井中（いなか）家の者は皆（みな）驚（おどろ）いた。

「でけぇ……」

「普通の人間と同じぐらいあるわよ？」

「おっきな、おにんぎょ！」

「あなた！　また無駄遣（むだづか）いしたの？！」

「えかったのぅ。くるみ」

　オークションサイトには、商品の大きさが載（の）っていなかった。