三 思い出は幻のように

 あれから、僕らは別れた。

 ヒカリさん、アイリさん、アヤさん三人は、まだ他の屋台を遊び尽くしてないから、と何処かへ行ってしまった。僕はというと、家族の元へと戻った。思えば長い時間が経過していたのだ。家族の元へ戻ると心配したぞと怒られた。携帯を持っていたら連絡も取れただろうが、そんな高価なものは持たせてくれなかった。

 怒られていても、ちっとも辛くなかった。涙も出てこなかった。彼女らのことを考えていたからだ。異性と話したことはない。いつも一人だからである。だから、彼女らと出会ったのは衝撃というか、初めての体験というか、未知との遭遇に近かった。そのことばかりが頭で回って周りの声が入ってこなかった。


 ―――翌日

 お盆最終日。この日は家に帰る日である。僕は荷造りを終えており、後は両親を待つのみである。その間、昨日と同じ部屋の縁側で、昨日と同じゲームをしていた。昨日と違うのは、彼女らとの記憶があるかどうかである。虚無感も寂しさもなかった。彼女---ヒカリの横顔が忘れられず、そればかりを反芻していた。ゲームのプレイもミスしてばかり。時間だって今までよりも流れる速度が速くなっている。僕はどうかしてしまったのだろうか。風鈴の音だけが、緩やかにリズムを奏でている。


「楓、帰るよ」

 そう呼ばれて我に帰る。どうやら両親は帰る準備が整っていたようだった。

 おじいちゃんに駅まで車で送ってもらっていた。僕は後ろ、窓の席から、空を見上げていた。さっきは一体何分が経過していたのかと。ずっと彼女のことを考えていたのかと。


 ―――花火を見終わり、その後は彼女たちとしばらく話をしていた。

 彼女たちは中学二年生だと言う。僕とはニ歳差ということだ。彼女たちは僕と同じく、お盆のタイミングでこちらに来ているようだった。そこでたまたま去年に知り合ったのだという。ただ、そうは言っても普段から連絡は取り合っているらしく、ガールズトークが日々繰り広げられているそう。

 彼女たちの話から、僕の話になった。

 僕はというと、学校では常に一人である。所謂ぼっちである。いつもは一人で本を読み、一人で昼食をとり、一人で帰宅する。そんな毎日である。この話をすると、三人とも優しく肩に手を置いた。

 来年も来るのかと尋ねると、彼女たちは首を傾げる。「あーどうだろうね」と。来たい気持ちは山々だし、例年通りなら来るという。三人ともそれは共通して同じのようだ。僕もそうである。それを知るとアイリが「来年は四人だね」と言ってくれた。僕はその一言が嬉しかった。来年も会えるのかと思うと、少しワクワクしていた。

 話題になったのは、家の場所である。こっちだとどこなのかという話になり、僕とヒカリは近いことがわかった。徒歩だと少しかかるが、行けない距離ではない。アイリとアヤはバラバラで、花火の会場までは態々遠くから車で来ているらしい。



 ふと昨日のことを思い返していると、いつの間にか自宅に着いていた。時間は過ぎ、ほぼ夜になっていた。過ぎる速度は早いもので、長い時間電車に乗るのが億劫だったのが、今日に関しては彼女たちのことで頭がいっぱいだった。出会いとはこんな効果までもたらしてくれるのか、不思議なものである。

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