閑話12 「アトラはうちの」


「なあ、オズさん。アトラは本当に加護持ちなのかね?」


 と、隣の雑貨屋の店主が聞いてくる。目の前ではオルウィン司祭が「アトラは加護持ちだ」と喚いていた。声高らかに言っているのだろが、私には喚いているようにしか見えない。まあ、どうせアトラの力目当てだろう。黒い噂の絶えないオルウィンが、善意からこんなことを言っている訳が無い。


 確かに、アトラは変わった娘だ。突然、ミヤエル神父様に連れられてやってきた不思議な娘。褐色の肌に、ブロンドの髪は腰まで波打つ。情熱的な唇。それとは正反対な、穏やかな青い瞳。物腰も落ち着いており、どこか神秘的な雰囲気を醸し出していた。

と思えば、編み物や糸紡ぎの話になると目を子どものように輝かせ、その魅力を語る。子どもたちともすぐに打ち解けた。ギャップのある彼女に、皆、好感を持った。なにより神父様の太鼓判があったのが大きな判断材料だろう。


 なんでも昔、神父様の勤めていた孤児院の孤児だったそうだ。なるほど確かに、その容姿はカルゼインの者ではない。異国を思わせる容姿に納得した。

帝国で暮らしていたようだが、アトラには合わなかったとかで帰ってきたのだと言う。この穏やかな彼女に、弱肉強食な帝国の暮らしが合わないのはなんとなく腑に落ちた。


「確かに、アトラは不思議な力を持っているけどねえ」


「ああ、それでおれ達も救われたところはあるぜ」


肉屋や八百屋の主人や女主人も口々に言う。うむ。そうだ。アトラのお陰で、ナランは良い方に変わっていった。

彼女の作ったあみぐるみゴーレムにより、魔物による作物の被害がなくなった。王都へ向かう街道も、ゴーレムが護衛をしてくれるお陰で危険な目に会うこともかなり減った。

夏になると、頻発に出ていた謎の病もアトラのお陰で「熱中症」と呼ばれるものだと言うことがわかった。水をこまめに飲んだり、アトラの冷感編み物グッズで体を冷やすことで予防も容易になったしな。

保冷コースターのお陰で冷たい水もいつでも飲める。品質保持のバックで野菜が痛むこともなくなった。


そして、町長の息子までもがアトラの編み物で助かったのだ。さらには領主様のご令嬢、マルガレッタ様の病弱な侍女がアトラの編み物で見違えるほど元気になったと聞く。マルガレッタ様ご自身や、あのレオナード様も懇意にしているらしい。


アトラは確かに、不思議な力でナラン全体を変えた。

あの編み物の力が「神のご加護」と呼ばれるのもわかる気がする。


彼女が加護持ちだとしても、驚かない気がするのだ。

だが、


「アトラはただの魔道具士だ」


そう自然と口に出た。


「おお、そうだそうだ」

「そりゃそうだろ」


皆も頷き始める。オルウィンはその様子に狼狽えているようだ。


 ああ、そうだ。アトラはただの、編み物が好きなナランの町娘さ。

私も自分で自分にそう言い聞かす。そうであってもらいたい。たまに見せる彼女の寂しそうな目の色を、減らしてあげたい。


もっともっと、私たちの力で。


「アトラはうちの魔道具士だもんな!」


そうだ。アトラはうちの子だ。

あんなタヌキ野郎に渡すわけがない。彼女の幸せと、ナランの平和を、守ってあげたい。


アトラはうちの子だ。

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