閑話13 マルガレッタとレオナード
レオナード様のお顔を見つめる。そして、あたくしはアトラさんとレオナード様が並んだ姿を思い出していた。
「女子会」なるものに参加する為に、久しぶりにナランへ来た。少しナランの魔道具店に寄ってアトラさんに顔を見せようとしたら、レオナード様がいた。
何か慌てているようだったけど、どうしたのかしら?
アトラさんは「いじわる!」とアーレンスさんの頭を思いっきりハタキで叩いていたわ。どうも、レオナード様が貴族だったことを知らなかったみたい。
アーレンスさんも確かに意地悪ね。アトラさんのことが好きなの、バレバレですけど。アトラさんは気づいていないみたいだけど。意外とあの方、鈍感なのよね。
「ど、どうしたんだい? マリー」
「いえ、なんでもありませんわ」
扇子で顔を隠して、そっぽを向く。あたくしもあたくしよね。好きな殿方に素直になれないんですもの。
「……ナランの魔道具店でお買い物でもしてらっしゃったのですか?」
「え? あ、ああ。あそこは珍しい魔道具があるって聞いたからね。どんなものがあるのかと思って」
どこかソワソワしているレオナード様。まだ何かありそうなのは確かね。
「それだけですの?」
「も、もちろんだよ!」
ふうん。言わないのですね。やっぱりなにか理由があるのだわ。
私はジロリとレオナード様を見る。目を逸らされた。
もしかして、アトラさんに気があるのかしら? あたくしというものがあるのに、アトラさんを好きになられたのかもしれないわ。
でも、仕方がない気がするの。だってアトラさん、美人ですもの。ブロンドの長い髪に官能的な唇。ミステリアスな目元。スタイルも良いし、優しくて性格も良い。
こんなワガママで気の強いあたくしより、とても素敵な女性ですもの。貴族じゃなくてもものにしたいはずよ。つい頷いちゃうわ。ええ、ええ。
そうよね。負けちゃってるわよね、あたくし……。
レオナード様も、アトラさんのような方がいいのでしょうね。
でも嫌よ。レオナード様はあたくしのものなんですから。許嫁だったからとかでもなく。
少し気は弱いけど、優しくて誠実で、こんなあたくしにも嫌な顔なんてひとつもせずに真摯に受け止めてくれる。
レオナード様は、あたくしにとって大切な方ですもの。
それなのに、いつも気持ちが伝えられないのだけど。アトラさんはあたくしのことを「ツンデレ」だって言うけど、デレたことさえないんですもの。
ダメよね。素直にならなきゃ。
「負けるもんですか」
「ん? どうしたんだい、マリー」
「え、い、いえ。なんでもありませんわ」
つい口に出ていたみたい。恥ずかしいわ。
再び扇子で顔を隠す。赤くなってるわ、きっと。
翌日、レオナード様があたくしの館を訪ねてきた。なぜかはわからないけど、会えるのは嬉しいわ。
「マルガレッタ様! 素直になってください。素直に! ですよ!」
「わかってるわよ、もう。やれてたら最初からそうしてるわ」
「頑張ってください!」
メイに励まさられながら、庭でお茶会を始める。素直に、素直に。……ああ、無理だわ! どう話せばいいの? 二人きりで話すなんて無理よ。メイ、来ないかしら? いないわよねえ。
ダメよダメ。可愛らしい女の子にならなきゃ。
「そういえば、レオナード様。このコースター、素敵でしょう? アトラさんが作った保冷保温魔法のついているコースターよ。とっても便利なの」
って、なんでアトラさんの話をするのよ! あたくしのバカ!
「ああ。お茶が美味しいね。アイスティーもアトラさんのアイデアなんだろう? 紅茶を冷やすなんて驚きの発想だね」
「確かに、そうですわね。冷たい紅茶も美味しいわ」
「魔道具士としても一流だし、何者なんだろうね、彼女は」
そうねえ。突然ふらりとナランに現れたんですもの。孤児とは聞いているけど。
確かにミステリアスなのよねえ、アトラさん。
もう! だから、なんでアトラさんの話なのよ。
やっぱりレオナード様はアトラさんに好意があるのかしら。そうよね。美人で優しくてスタイルも良くて。あたくしもあれくらい胸があれば……。
「あのさ、マリー。その、これを受けとってくれないかな?」
一人で悶々と考えていると、レオナード様が包みを取り出してきた。
プレゼントの包装で、レースのリボンがついている。
「君に、プレゼントだ」
「え、あ、あたくしに?」
突然のことに、驚いてしまう。
「そうだよ。開けてみて。頑張って作ったんだ」
作った? レオナードさまが?
ぽかんとレオナード様を見つめていると、微笑んで包みを開けるように促してくる。
震える手で包みを開けると、白い繊細な作りの、でも少し大胆で豪華な、そんな付襟が顔を覗かせた。
「これ……」
「アトラさんに教えてもらいながら、作ったんだ。マリーを思って。気に入ってくれると嬉しいのだが」
ああ、それでナランの魔道具店にいたのね。そして、アトラさんに教えてもらって、今まで秘密にしなければならなかった。
謎が解けてほっとし、小さくため息を吐く。
「やっぱり、気に入らないかな」
レオナード様はあたくしのため息を見て、子犬のような悲しい目をする。
そんなこと、ないわ。
素直に言わないと。
「いえ。あたくし、てっきりレオナード様がアトラさんに惚れたのだとばかり思って……心配していたのです。これを見て、安心しましたわ」
「アトラさんに? 確かに素敵な女性だけど、僕にはマリーしかしないよ。君しか見えない」
「そ、そんなこと言って……」
恥ずかしくて顔を逸らしそうになるけど、メイの言葉を思い出してそのまま微笑む。
「嬉しいですわ。あたくしも、レオナード様しか見えませんもの」
「そ、そうかい」
頬を赤らめながら笑うレオナード様。でもきっとあたくしも顔が赤いんでしょうね。頬が熱いのがわかるから。
「とっても素敵なつけ襟ですわ。嬉しいです。レオナード様の手作りだなんて……本当に、幸せだわ」
「よかった。今度、つけてみてくれるかい?」
「ええ。明日、さっそくつけますわ。ちゃんと見てくださいまし」
「ああ。楽しみだよ」
アトラさんにはお礼を言わないといけないわね。本当に不思議な人。
レオナード様はなにがあっても渡さないけど、ね。
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