閑話10 リオとリルラ
最近、やっと町を歩けるようになった。
体力はすでに回復してたし、ガリガリで骨だけだった体ももう肉がついてきてはいたけど。またあのくそじじい、奴隷商人がいつやってくるかわからないからって、オレは出歩くのを禁止されてたんだ。スキル持ちをそう簡単に手放すわけがないからな。
でも、一人ってわけじゃない。アトラのあみぐるみゴーレムと、リルラが横についている。オレが町へ出るときは必ずこんな感じだ。あみぐるみゴーレムはわかるけど、なんでリルラがいるんだか。女一人が極悪奴隷商人に太刀打ちできるわけないと思うけど。でも、アトラも神父さんもリルラにお願いをしている。
アトラもミヤエル神父も、オレを心配していた。最初は、こいつらも一緒なんじゃないかって思ってたんだ。オレの力目当てだって。
でも違った。アトラから自分も同じだって告白されたんだ。神父さんもそうだった。二人とも、同じ特殊な存在ってことで、オレのことを本当に心配してくれるのがわかった。
「やあリオ、元気かい?」
「ムリしちゃダメだからねー」
町の人がオレに声をかけてくれる。
ここの町の人たちが本当にいい奴だって、そう時間もかからずに気づいた。
みんなも二人みたいに心配してくれたし、スキル持ちだってわかっても変わらず接してくれる。
ここに来てよかったなって思う。
あそこで逃げ出してよかった。アトラの家の前で行き倒れてよかったなって。
そうつつくづく感謝している。
「なにをぼーっとしてんですか?」
リルラが横から顔を覗いてくる。いい奴だけど、ちょっと生意気。アトラにはメロメロで行儀がいいけど、それ以外には気が強いところがある。
ほんと、なんでこいつがお目つけ役なんだろ。襲われたら真っ先に捕まりそうだ。
「なんでお前がお目つけ役なんだろうなーって。ただのウエイトレスだし」
「あたしを甘く見てはいけませんよー。こう見えて強いんですから!」
右手をぶんぶん回している。また強気なこと言うよな。
「それで、グロレアさんからちゃんと力の使い方習ってんですか?」
「ああ。今、コントロールの仕方教わってる。だいぶ上手くなったんだぜ」
「ふーん。そうですか。ま、頑張ってくださいね」
絶対、頑張ってって思ってないだろ。と、リルラの顔が強張った。どうしたんだろうか。前を見て警戒している。オレも前を向くと、聖服に身を包んだ男がこっちに近づいてきていた。
「なんだ、あのガリガリ。あいつがどうかしたの?」
「もう。オルウィン司祭ですよ! お姉様を狙ってる! あなたもスキル持ちなんだから危険なんですよ!」
ああ。神父さんが話してた人か。気をつけろって言われてた。
こっちを見ているし、オレたちに話があるのは確実だろうな。イヤな予感がする。
「おや。リルラさん。スキル持ちと一緒のようですねえ」
こいつ、オレのことスキル持ちって名前で呼びやがった。コンニャロ、オレにはリオって名前があるんだぞ。オレがジロリと睨むと、そのオルウィンって男はたじろぐ。
「オレはリオだ。名前で呼べ」
「リオさんですか。ちょうど良い。貴方はアトラさんと暮らしているようですね。やはり彼女は加護持ちなのでしょうか。詳しく聞きたいですねえ」
加護持ち? アトラが?
そういや、アトラは自分のことをオレと同じようなもんだ、としか言わなかったっけ。もしかして本当にそうなのか?
「オレは知らない」
「またまた」
ニヤニヤ笑っているのがすごくムカつく。だからオレは知らねーっての。アトラ自身に聞けよ。お前にはぜえーったい言わないだろうけど。
「よかったら、貴方の安全を確保しましょうか? 奴隷商人に狙われているのでしょう。私がどうにかさせることもできるのですから」
どうにかできるって、あの奴隷商人を黙らせられるって言いたいのか? ガリガリの癖に。あいつは絶対、姿を見せない。奴隷商人だってバレたら捕まるからな。手先を使う狡猾な奴だ。そりゃ、教会の力なら見つけられるのかもしれないけど。
「別にあんたには頼んでないし、いらない」
「そうですか。それなら、貴方の身の危険は放っておくしかありませんねえ。野放しになっている彼をどうにかしたいとは思っているのですがねえ。残念です。貴方が捕まっても仕方ありませんね」
「どうせ、あなたが匿っているんでしょう? どこにも姿を見せていないということは、誰かが匿っているということ。オルウィン司祭様なら、上手く隠せますのもねえ。それで、お姉様とついでにリオも手に入れるつもりなんじゃないですか?」
「ふん。王宮の犬が! ……後で泣いても私にはどうにもできませんよ? あの奴隷商人なら手加減はしないこと、貴方もよく知っているでしょう?」
最後の言葉はオレに言ったらしい。こちらも向いてにっこり笑う。
リルラの言うとおり、あのくそじじいとこいつは繋がっているのかもしれない。
仕方なく、オレは少しだけ力を使うことにした。グロレアさんから教わったことを、試したかったしな。
ちょっとだけ風が吹いたのを合図に、オレは力に集中する。
ザザザザ!
木々から葉っぱが大量に落ちて、オルウィンにぶつかった。
「いたたたた! な、なんなんだ!」
「行きましょう、リオ!」
リルラに手を引っ張られて、その場を走り去る。オルウィンはまだ体にひっついた葉っぱに苦闘していた。ザマアミロだ。
大通りを走って、広場にある商業ギルドの前で足を止める。オレは後ろを振り返った。オルウィンの影は見当たらなかった。
リルラは髪をかき上げて、息をついた。オレをじっと見つめている。
「スキル、使いましたね?」
「別に傷つけてないから、大丈夫だろ。風が葉っぱを運んだんだよ」
「まあ、そういうことにしときましょうか」
ザマアミロですね、とリルラが言うので、同じことおもってんだなってちょっとおかしかった。
「それで、アトラって加護持ちなのかな? 確かにスキル持ちとは言わなかったけど。それにお前、王宮の犬ってさ」
「秘密ですよ?」
リルラは口元に人差し指を当てる。やっぱりそうなのかとオレは口を閉じた。
「あたしは監視人なんです。加護持ちであるお姉様を見張っておくように言われてるんですよ。もちろん、お姉様があたしのお姉様には変わりありませんけどね!」
ブレねえなあ。
「へー。監視人だったのか。アトラは知らないのか?」
「薄々気づいているかもしれませんけど……」
不安げな表情で俯く。
「まあ、別にバレてもいいだろ。アトラなら気にしないだろうし」
きっと気にしない。アトラはそんな奴じゃないしな。
「そうでしょうか……」
オレがそう言っても、気になるようだ。
「いっつも調子がいいのに、変に落ちこむなよ。らしくないぜ?」
「あたし、自分の力のせいで人を傷つけたことがあるんです。だから、ちょっとその……怖くて」
なるほどな。オレはそういうことはたまたまなかった。でも、もし力が暴走して人を傷つけたらとは思う。グロレアさんも、その為にしっかりコントロールを教えてくれた。
それに、スキル持ちってだけでも偏見を持たれることもある。利用されることだって。オレみたいに奴隷にされることも。
「お前ならもう大丈夫だよ。一緒にアトラを守ろうぜ。オレも、オレを拾ってくれたことの恩返しをしたいんだ」
「そうですか……。もちろんあたしも、お姉様をお守りします。監視人ってこともあるけど、お姉様の妹としても」
「ああ」
妹が重要らしく、そこを強調している。どんだけお姉様好きなんだよ。
まあ、好きすぎるから逆に監視人って知られたくないのかもな。傷つけるんじゃないかって、怖いのかもしれない。
なんとなく励ましたくなって、リルラの頭をぽんぽん叩いてみる。
「ヘあっ? な、なななななななにしてんですか?」
オレの手を振りほどくけど、顔は真っ赤だ。
「ぷぷ。意外と可愛いとこあんだなー」
「ちょっ、マジでスキル使いますよ?」
おっと。殺気を感じでオレは駆け出した。これはさすがにヤバイかもな。
「待ちなさいっ! こらー!」
って、意外と足早くないか? 追いつかれそうだ。そもそもなんのスキルなんだよ?
オレを殺すなよ?
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