第19話 魔物なんてこわくない
マルガレッタさまと考えたケープ。それには王都の手芸店に行く必要がありそうだとわかった。
そんなわけで、馬車に乗り王都へ向かうことにしたのだけど。
「ダメだ。行かせられない。魔物が出るかもしれないんだぞ? 襲われたらどうする?」
アーレンスに王都行きを禁止されそうになっている。
というのも、王都へ行く道に魔物が現れたとの情報が入ったのだ。幸い、王都行きの相乗り馬車は一便だけ出ている。
それに乗ろうと思ったら、魔物が現れたと聞いたアーレンスがやってきて猛反対をしてきた。
「確実に出るかはわからないでしょ。大丈夫かもしれないし」
「だから! もし出たらどうするんだ! それを考えないのか?」
いつも穏やかなアーレンスが激昂するので、かなり驚いている。わたしを心配して怒ってくれているのはわかる。だけど、マルガレッタさまの為にもケープを作りたい。
「わたしは行くよ。対策はしてあるの。安心して」
にっこりと笑うわたしに、アーレンスはため息を吐く。で、チラッとミヤエルさんを見た。
ミヤエルさんはわたしの性格から何を言っても無駄というのがわかっている。
それに、わたしの「対策」についても知っているしね。
困り顔で頷くミヤエルさんを見て、アーレンスは深々と息を吐いた。そして。
「じゃあ、俺も行く。何かあれば君を守るから」
「ごめんなさい、アーレンス。でも、ありがとう」
心配してくれているのだから。
でも、それでもわたしは行かないといけない。
「なら、あたくしの使う強力な魔物除けの香を渡すわ」
振り返ると、マルガレッタさまが教会にいた。
事情は今ので聞いているみたいだ。
「マルガレッタ様」
「アトラはあたくしのワガママを聞いてくださったのだから、できることはするわよ。護衛もつけるわ。それなら良くて?」
「……わかりましたよ」
アーレンスが引き下がる。
ごめん。そしてありがとう。でもきっと大丈夫。わたしには秘策があるからね。
「あの、お姉様。あたしも……あたし、実は……」
隣で聞いていたリルラちゃんの肩に手を置く。
「大丈夫よリルラちゃん。本当に対策は打ってあるの。すぐ帰るから安心して!」
わたしは何でもないように明るく言った。
そんなわけで相乗り馬車に乗っている。わたしとアーレンス、マルガレッタさまが付けた護衛のハミットさん。
ハミットさんは女性だけど、王宮騎士団にいたほどの剣士だそうだ。男性より女性の方が楽だし話しやすい。ありがとうございます、マルガレッタさま。
日は少しずつ暮れ、薄暗くなる。近くの村まであと少し。
アーレンスはかなり警戒している。ハミットさんもじっと周りの変化を伺っているようだった。
わたしはリュックから毛糸玉を取り出して編み物をしていたけど、この暗さに負けてぼんやりと景色を眺めていた。
「いますね」
ハミットさんが呟いた。うん、わたしもわかるよ。遠くから魔物の唸り声が聞こえる。魔除けの香が効いているからか、近づいてはこないけど。
「アトラ。こっちに来い」
仕方なくアーレンスの隣に座る。
わたしはあみぐるみを手に持ち、じっと見つめた。その瞬間、人間の叫び声が響く。
「だ、誰か! 誰か助けてくだせえ!」
男の人が助けを呼んでいる。わたしは身を乗り出した。道の先に、魔物の群れに追いかけられている男性がいた。
「アトラ! こっちに来たら巻き込まれる!」
アーレンスがわたしの手を掴んで引っ張る。
「何言ってるの。放っておけるわけない」
わたしはアーレンスを睨んだ。一瞬怯んだような表情を見せる。
「アーレンス。だから大丈夫だって。わたしは何もしないから。この子たちに任せる!」
リュックをひっくり返すと、あみぐるみが落ちてくる。魔法が発動する感覚を得る。
すると、あみぐるみたちが動き出し、ゆっくりと立ち上がった。
それにアーレンスとハミットさんが目を丸くする。あみぐるみたちは立ち上がりわたしの元へやってくる。
「みんな、魔物をやっつけてくれる?」
「りょうかいでーす!」
七体のあみぐるみが返事をすると、馬車を飛び降り魔物の群れに突っ込んだ。
薄暗い視界の中で、どうやらイノシシ系の魔物だということがわかる。もちろんイノシシだろうがウチのあみぐるみたちは負けちゃいない。
「アトラ、あれ、あれって君の……」
「そ。魔法で作ったあみぐるみゴーレム。魔物討伐用のね」
「魔物討伐用?」
「ええ。魔物に反応して攻撃するように意思を組みこんでいるの。魔道具の種類に、護衛用のゴーレムがあるって聞いたから、わたしも試しに作ってみたんだ」
ゴーレムみたいないかつい形じゃないけどね。
グロレアさんの座学でゴーレムについて勉強したから、作ってみようと思いつき本当にできてしまった。さすが加護の力。チートね。
「魔物たおすぞー」
「おー。たおすぞー」
あみぐるみたちは声を上げながらイノシシの魔物にぶつかっていく。その威力は強くて、イノシシを吹っ飛ばすほどだ。わたしのぽんぽん閃光弾を使い出す子までいる。有能なあみぐるみで生みの親は嬉しいよ。
そのうち状況が悪いと判断した魔物たちは鳴きながら逃げていった。あみぐるみの勝利ね。
「私、いる意味あったのだろうか……?」
いやほら、男の人を引っ張り上げて助けてるし、必要だったかもしれないですよ。
魔物に襲われていた男の人は、今日わたしたちが泊まる村の人だった。
泣きながら彼の家族も喜んで、助けてくれたお礼だとふかふかなベッドと美味しい料理を振る舞ってくれた。
頼みがある! と、ゴーレムのあみぐるみが欲しいというので、作ってあげることに。またオーダーが増えちゃったな。
アーレンスは心配して損したと何回もため息を吐いていた。
「お父さんが魔物に襲われて亡くなったの、ミヤエルさんから聞いた。魔物が現れたと聞くといつも性格が変わるって。心配かけてごめんね」
「なんだ。聞いてたのか。……俺の大切な人が、また居なくなると思うと怖くてさ」
悲しい瞳のアーレンスを、わたしは覗き込んでにっこり笑った。安心させるように。
「大丈夫。わたし、しぶといからそうそうあなたの前から消えたりなんかしないよ。今日のでわかったでしょ?」
「はあ。そうだな。よくわかったよ。これで心配せずに魔法士学校に行けるってもんだ」
お互い笑い合って、勧められた酒を飲む。
気になって後ろにあるわたしのリュックを見ると、あみぐるみたちがひょっこり顔を出していた。
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