閑話 2 不思議な旅人、アトラ



 オレは現れた女性に目が離せなかった。

異国を思わせる褐色の肌。キラキラと太陽を反射するブロンドの髪。

そして、抜群のプロポーション!


黙っていると、なんだか気が強そうに見える。

まるで女王様みたいに。

しかし、口を開くと穏やかな物腰で、好感の持てる女性だ。

旅人の彼女は、自分をアトラと名乗った。


 病に伏した父である村長の代わりに、俺は彼女に会った。なんでも、なにか物を譲りたいのだそうだ。


「これなんですけど……」


と、自信なさそうに見せたのは毛糸で作られたボールだった。

一体これは何なのか?

ボールを譲ってどうしたいのか?


アトラはまあそんな反応でしょうね、といった様子で、ボールを遠くへと投げつける。


パンッ!


ボールは眩い光を放った。まるで星のような灯りだ。あまりの輝きに、目がチカチカする。


「これ、ゾドウルフに効くようなんです。ここの村のみなさんは、ゾドウルフに困っていると聞きました。

泊めてくれたお礼に、どうぞお使いください」


と、控えめな笑みを浮かべて小さなボールの入った袋を俺に渡す。


「ぇ、い、いいんですか?」


これは閃光弾だろうか?

貧しい村には閃光弾を買うお金はなかなかない。見ると、30個はある。

俺はもう一度彼女を見た。


「ちょっとモヤモヤ……じゃなくて、試しに作ったものなので。是非、使ってください」


この閃光弾は、何度も繰り返し使えるらしい。

それはかなり嬉しい。閃光弾は使い捨てでいつもストックがなくなる。

こんなにも貰えるのもありがたい。


「あ、ありがとうございます!」


「あと、村長であるお父さまは喉が悪いとお聞きしました。夜は冷えるでしょうから、よかったらこのネックウォーマーで温めてください」


あなたは女神なのか?

とつい言いたくなるのを抑えて、俺はネックウォーマーを手にした。ふんわりと温かくて、父も喜びそうだ、ありがとうと伝えた。


アトラは……いや、アトラさんは儚げな笑みを浮かべて、馬車に乗り去っていった。


 ネックウォーマーを見た父はたいそう喜び、冷える夜は首元をこれで温ためるようになった。

それからどんどん父の病は快方に向かい、医者も驚いていた。


もしかすると……なのだが、彼女がくれたネックウォーマーのお陰なんだろうか?と、俺は元気になった父を見て、不思議だなと呟いた。

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