第4話 カルゼイン王国へ
やっとカルゼイン王国領へと、相乗り馬車が入ったようだ。
ここでユナちゃんとユナちゃんのお母さんとは別れることになった。二人はこの近くの村に用事があるらしい。
「アトラお姉ちゃん、またねー!」
手を振るユナちゃんが小さくなっていく。
「やっぱり寂しいもんだねぇ」
おじさんがぽつりを呟いた。
わたしはユナちゃんの姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けた。
さらに時は流れて、馬車は王都に着く。
その間にも相乗りだった人たちとは別れて、最後の三人だったおじさんたちともここでお別れだ。
「アトラ嬢ちゃん、ありがとう。この靴下、あったかくて気持ち良いんだよなぁ。たくさん使わせてもらうよ」
「ワシもありがとうの。またの!」
「なんかあったら、ウチに来いよ!」
そう言って、別々の道を歩き始める。
「おじさんたちにプレゼントした靴下にも、不思議な力があったりするのかな?」
あれから神様の加護? について、わたしはいろいろと試してみたりしていたけどまったくわからなかった。
そもそも不思議な力、加護があるのかも、よくわからない。ボールは閃光弾になったけど、それ以来編み物をしても何か力があるのかさっぱりだった。
わたしはおじさんたちと別れると、王都を歩き出した。深緑の都と呼ばれる王都。
家並みには木々が生え、王族の住む宮殿には御神木と呼ばれる巨大な樹木が息づく。
人気なのだろう、人の混雑するパン屋を覗く。
「そういえば、このパン屋さんのパンがいつも食べたかったっけ」
アトラスの懐かしい記憶が刺激される。 つい店に入ってしまった。パン屋のおじさんは今でも現役らしく、白髪を帽子で隠してお客さんと話していた。
それに孫の女の子も手伝っている。
アトラスがカルゼイン王国にいたころは、とってもちっちゃかったのに。
二人ともわたしには気づかない。
当たり前か。窓越しに眺めていたアトラスは、彼らとは一度も話してなかったのだから。
そこでジャムパンを買って、わたしは広場で昼食をとった。やっぱりおいしいかったな、マリオさんのパンは。
それからまた当てもなく王都をブラつく。
うーん、手芸屋に行こうかな。
確か王都にも大きな手芸屋があったはず。
いい毛糸に出会えるかもね。
「ねえちょっと、そこのお姉さん?」
声に振り向くと、紺色のローブを着た……男の人かな? が、わたしの肩に手を置いた。
「アナタ、困ってるでしょ?」
「へ? ……いえ、別に」
ナンパ? 客引き? あきらかに怪しすぎる。
わたしがドン引きしながらローブの人を見つめると、彼? 彼女?はフフフと笑った。
「アタシには見えるのよ。アナタは悩んでいるわ。……そうね、自分の不思議な力に」
不思議な力? わたしの心が反応する。
もしかして、あのなぜかボールが光ったことと関係しているのかな。
さっきまでわたしが考えたことだ。でもなんでわかるんだろう。
当てずっぽうで言ってないよね?
「見える……見えるわ。アナタは自分の力に戸惑っている。アタシは全てお見通し。
そう、アナタが神から授かった力はいずれ世界を巻き込みアナタは聖女になっ」
突然、メイド服の少女が現れ、ローブの人をぶん殴った。
ぶん殴っ、そう、ぶん殴った。
本の角で。
「サクナさん? 何アホなことペラペラペラペラと喋ってるんですか。ほら、お客さんドン引き通り越してかなりのドン引きですよ?」
と、メイドさんがサクナと呼ばれた人に向かってため息を吐く。
大丈夫かな、サクナさん。死んでたりしないよね? あれはかなり痛そう。
「あの、大丈夫ですか……」
「ドン引き通り越したらドン引きじゃないわ。メガドン引きよ!」
「ひい」
つい悲鳴が出たよ。むくりと起き上がって叫ぶので、周りの目がいっそうサクナさんに向けられる。
誰かがまたかよサクナ、と呟いていたので、二人は有名人なのかもしれない。
「アホ。塵になって消えろ」
サクナさんをぶん殴った本がバックにしまわれる。かなり分厚かったのによく生きてるなあ。
「もうひっどいシーアったら! アタシ泣いちゃう!」
泣き真似にシーアと呼ばれたメイドさんが再びため息を吐く。
「泣く前に本題に入りましょ? お客さん置いてけぼりですよ?」
確かについていけない。これは何のコントなんだろう?
わたしが口を開けて呆けていると、サクナさんがフードを脱ぎ顔を見せた。
紫のおかっぱ頭で、猫のような金色の瞳。
首元にはジャラジャラとしたネックレスと、ネックレスと同じデザインのイヤリングをしている。
どうやら、男の人みたいだ。
「そうね、本題に入りましょうか。ねえアナタ、不思議な力を持っているでしょ? それについてちょっと教えてあげる。知らなくていいならついてこなくてもいいわよ」
にっこり笑って、歩き出す。
わたしは迷ったけど、どうしても気になって彼の後を着いていくことにした。
シーアと呼ばれるメイドさんはわたしの隣を歩いている。
わたしを気にしているんだろうか。
小さな屋台に着くと、サクナと呼ばれた男の人は咳払いをして、なにか呪文のようなものを唱えた。
なんだか空気が濁ったような不思議な感覚。
サクナさんのつけているネックレスの石が、キラキラと光り出した。
これが魔石かな。珍しいって聞くから、わたしがアトラスに憑依してからは一度も見ていない。
「盗聴されないようにね。遮断魔法をかけたの」
魔法が使えるんだ。魔術師かな?
「アタシは超有名な占星術師のサクナ。こっちは助手のシーアよ。よろしく」
占星術、つまり星占いの占い師ってことね。
それにしては魔法も使うし、不思議な人。
わたしはサクナさんに名前を名乗り、シーアちゃんにも会釈をする。
シーアちゃんはプラチナの髪にちょっと大胆に胸の開いたメイド服。
ジト目でクールかつ毒舌な印象を受ける。
胸はアトラスの方が大きいかもしれない。
勝った……の?
「自分で超有名って言いませんからね、サクナさん」
まあ、言わないよね。
「もう! とにかく、本題に入るわね。アナタ、どうやら加護を受けているみたいよ。なんとなくわかるでしょ?」
加護って言われても、ちょっとしか思い当たる節がないんだけど。わたしは控えめに話す。
「ええと、よくわからないんです。わたしが編んだボールが閃光弾みたいに光ったくらいで、後はさっぱりだし」
わたしはゾドウルフに襲われた時のことを説明した。話していいか少し迷った。
サクナさんは怪しそうな雰囲気だし、でも見るには悪い人には見えないし。
なにより、不思議な力について気になる。
「ふうん。じゃアナタの加護は魔法付与の加護かしら? 普通はできないことよ。何かモノに魔法を付与するには、魔法石が必要だし」
珍しいものなのかな? と、首を傾げる。
それを見てサクナさんは「わかってないわねえ」と眉をひそめる。
「あまり人には言わない方がいいわよ。加護持ちって珍しいから、悪用しようとする人もいるわ」
正直、自分の加護についてさっぱりなのに、悪用なんてできないんじゃないかな。
まあ、珍しい力なら、確かに安易に話す必要はないか。
「わざわざ教えてくれてありがとうございます。あまり人に話すことはしないようにしますね」
お礼を言って、屋台から離れる。
そういえば、梟亭で赤蝙蝠がわたしがいないように振舞っていたけどあれも加護の力だったりするんだろうか。
あのポンチョ、試しに使ってみたいけど自称勇者のお兄さんに渡しちゃったからなあ。あの人ずっと口説いてきてうっとうしかったし。
すごいもの渡しちゃったのかな?
「よくわかんないけど、まあ、言わなきゃいいよね」
そろそろ孤児院に行こうと、わたしは街を歩き出した。
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