第3話 修道女として



 しばらくしてガーゴイルの亡骸は浄化されたように塵となった、この銃と弾は私達の持つ聖書や十字架と同じような効力を持つのだろう、私達は少し落ち着き馬と男性の亡骸を近くに埋葬し祈りを捧げ、馬車の荷物を持てるだけ持ち速やかにその場を離れる事にした。


 少し歩いた所でアドレナリンが切れたのか、それとも、思い出したのかカーマは涙ぐみながらも震えた声で話し出した。


「...アタシ、...人をあやめてしまったんだよな」


 皆その事には触れなかったが...いや"触れられなかった"が、カーマ自らその事を口にした。


「気にしないで、いや...気にはした方がいいかもしれないけど...ごめん...仕方なかったんじゃないかな...多分」


 カーマを慰めたい気持ちもあったが、突然色んな事が起き過ぎて頭の中が整理出来ず支離滅裂な事を言ってしまった...カーマ...ごめん。


「...カーマ、助けてくれてありがとうね」


 ミカリが明るい声で言ってくれた、してしまった事は修道女である私達にとって許される事ではない、しかしカーマにとっては1番の慰めにはなるだろう。


「それに、私達も動揺していたわ、ミカリを救えるのはカーマだからできたのよ、そうでしょ?アズリル」


「はい、私もそう思います。」


 カフリ様も口を開いた、今は本当に私達にしてあげられるのはこのくらい、これからどうするかもわかっていない、わからないことだらけでいっぱいだった。


 ミカリは凄く考え事をしている表情だ、恐らくカーマはそれどころではないが他の皆んなも同じ事を思っているだろう、祓魔銃ふつまじゅう若しくは信仰弾しんこうだんの説明で王都が嘘をついていたこと、司祭様が嘘をつくメリットはない恐らく王都の仕業だろう、それと今になって1番驚いているのは、悪魔は元来女性にしか憑かないと言われていたにも関わらず、男性に取り憑いていた事だ、修行中習った事だがノス地方での悪魔祓いでも男性に悪魔が取り憑くのは聞いたことが無い。


 少しだけ気になったのはミカリの事だ、時々冷たい時はあるが決して、人を傷つける事はしない子だったと思う、盗賊の事は命の危険を感じた脊髄反射のような物だろうか、そんな事を考えながら沈黙の中私達は歩き続けた。


「今日はこの辺で休みましょう、皆さん今日は疲れたでしょう、とりあえず休んでこれからの事を考えましょう、あそこにちょうど岩の裂け目があります、雨風も凌げるでしょう、皆さんそちらへ」


 カフリ様はそう言って岩の裂け目に向かって歩いた。


 それからしばらく簡単な寝床と小さな焚火を作りパンとジャガイモを焼いて食べた、焚火がこんなにも暖かくパンと焼いただけのジャガイモが美味しく感じたのはいつぶりだろう、私はそんな小さな幸せを噛み締め、涙を流した、それを見たカーマも泣いてしまいカフリ様とミカリにまた迷惑をかけてしまった。


 食事を終えた私達は簡単な見張りの交代の話をしそれぞれ眠りについた。


 夜が明けてから私達はビスケットで簡単に朝食を済ました。


「いやぁ〜よく休めたよ、欲を言えばベッドが良かったけどネ」


「あはは、そうだね、自然のベッドじゃ少し身体が痛むね」


 カーマと笑顔で会話をしたがカーマも人間だあんな事があったすぐに立ち直る事なんてできないだろう、私ならそうだ、多分私達にこれ以上迷惑をかけないように無理をしているのだろう、でも今はそのカーマの強さに少し甘えさせて貰った。


 その後再度周りの安全を確認した私達は、これからの事について少し話し合うことにした。


「今私達の居る場所は恐らくノス地方とイスト地方の境目だと思うわ、生存者が居るかもしれない今の状況じゃあここからノス地方に戻っても大きく時間をロスしてしまう、まだ食料も水も余裕ある事だしイスト地方に進もうと思うのだけれどどうかしら?」


 確かにカフリ様の言う通り、ここからどっちに行っても3日はかかると思うそれならより早く生存者の捜索に行った方がいいだろう、それに人が残っているのならば馬や馬車もあるかもしれない、何せ歴史書で学んだ通りならイスト地方は農業の盛んな広い平地、馬が居なければ生活は厳しいだろう...生きていればの話だが。


 これからの行動については皆賛成したがミカリが意外な事を喋った。


「...これからは生存者と言えど最大限警戒しましょう、それと...」


 皆少し黙り込んでしまったがミカリは続けた。


「...それと、私達は今は教会の人間である事を忘れた方がいいでしょう...」


「!」


「あ...あなた、なんて事を言うの⁉︎私達は教会の祓魔師である前に修道女なのよ⁉︎それを今更やめると言うの⁉︎」


 カフリ様は少し声を荒げミカリを今にもビンタしそうな勢いで問い詰めた。


「何も辞めろと言っている訳ではありません、神様に祈りを捧げ信仰することは修道女でなくともできます、しかし男性の悪魔を見てしまった以上、この先何が起こるのかどんな悪魔が居るのかもわからない、その中で純粋無垢に生存者のみを救える自信が私にはありません」


「それを何とかするのが私達"祓魔師"でしょう⁉︎」


「先日の悪魔を見てわかりませんか?カフリ様この先私達の常識が通用する相手ではありません"修道女"としてではなく、"ただの"祓魔師として戦う事を覚悟しなければ」


 ミカリがおかしい事を言っているのは私にもわかる、それはカフリ様も同じだと思う、しかし、誰もミカリの言う事に反論できなかった。


「...わかりましたわ、でも、それはできません」


「カフリ様!」


 カフリ様は若いとは言えどこの中ではベテランの優秀な祓魔師であり修道女、そんな簡単にほとんど新人の私達の言う事をおいそれと受け入れてくれるはずがない、そう思っていた。


「私達は修道女として祓魔師としても正しい事をしなければなりません、この先何があろうとそれだけは変わりません」


 ミカリは肩を落とし少しだけ呆れた様子を見せた。


「ただし!何が正しい事か、何がすべき事なのかは各々の判断に任せます、それがどんな事であろうと私は目を瞑ります、それに私達が世の為人の為にした事なら神様もきっとわかってくれるでしょう、私は神様を信じる"教会の修道女"ですから」


「...カフリ様...」


 少しだけ、4人に亀裂が入ったと思っていたが、カフリ様の最後の言葉に全員救われたと思う、そう、私達は正しい事をしにイスト地方を目指しているのだから。


 カフリ様はノーブス司祭の言う通りにそれぞれの意思を尊重しつつ私達を1つにまとめた、

本当にカフリ様がいてよかったと思う、ミカリも柔軟な考えを持ち未知の出来事に順応している、カーマもまだしばらくは時間が必要だが何にせよミカリの命を救ったのは間違いない。


 何故か私はそれが誇らしくも悔しくもあった、まだまだ私も頑張らなければここに居るからには足を引っ張ってはいられない。


 それからしばらく今日の移動の予定を立て荷物をまとめてその場を後にした。

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