終 章

終幕の予感

 二〇一一年十二月二十四日、土曜日。不安が拭えないまま私は会議に出席し、心では苦悶を浮かべつつ会議の内容もはっきりと覚えられないでいました。

 その重役会議が終わった後、苦渋色の私と槙林が会議室に残っていました。会議の内容を二人でまとめていると、私の携帯電話が震えだした。

 スーツの裡側からそれを取り出すと、画面に映る発信者を確認したのち、対応・・・、・・・、・・・、私はその内容を聞いて空いていた手で大きな会議卓を力強く平打ちすると、その勢いで立ち上がった。

 槙林は私のその行動で何事かと思い、驚いた表情と仕草を作る。私が驚くほどの内容とは何か?一昨日の藤原医研謎の武装集団襲撃事件の裏に草彅の影があったとの情報だ。

「社長どちらへ」と槙林の声。急いで会議室を出ようとした時、今度はその室内の電話が鳴る。対応したのは彼女。

「大河内社長、正面受付からです。八神慎治さんと言う方と、藤原翔子氏が社長に面会をしたいとの事です。いかがいたしましょう」

 私は下唇を軽く噛む。一体なぜこんな時に・・・。しかし、藤原龍一よりも早く私の処へ到達したのが八神皇女氏のご子息。多分、翔子氏は彼と私の面会をさせようとする強制力だろう・・・。彼等が表われた意図が掴めない。

 詩乃さんの事を想うなら、草彅の方を速やかに対処すべきと思ったが私は二人が訪れた真意に興味があった。面会するだけなら、それほど時間もかかるまい。

「わかった、ここへお通しするよう、受付へ伝えてください」

「本当によろしいのですか?」

 私は彼女の言葉に頷き、受付への返答を促しました。

「大河内社長、そのままの御顔で二人にお会いになられるのですか?」

 私は顔を横に振り、両手を首と顔の付け根に当て、親指を少し立て、素顔の上の薄皮一枚、アダム技術と珪素素材が融合してできた人工皮膚を剥いだ。ウェットティッシュで顔の蛋白性粘着質を落とし、更に和風柄のハンカチーフで湿り気を払う。

 拭い終わって、顔を上げた時に妙な疼きを心臓に感じ、その場所に手を当て、掴むように手に力を入れていた。

「どうかなさいましたか、大河内社長」

 苦しそうな顔を造っていたのであろう私を見た槙林はその様に言葉を掛けてくれるも、

「嫌なんでもない、気にしないでくれ」

 私は眉間を揉み、疼きを払う様に顔を横に振って格好を付けた。私がその疼きを抑え込もうとしている間、八神慎治青年と藤原翔子氏が私の処へ確実に近づいていました。

 二人と私の邂逅は草彅を追う事とどちらが良かったのか・・・。その答えは。

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