第四話 授けられしイノチ

 逢瀬岬の死闘で互いの最後の一刺しで、命を絶ち合った源太陽と調川愁。どちらも死を悟っていた。愁には感情がなかったために死という物を理解していたかどうかは疑問に残る。

 互いに特殊な血を体内に流す両名。その血がしぶとく今生の別れを惜しんだのだろうか、それとも聖櫃に眠る彼の人の嘆きがそうさせたのだろうか、天上に住まう神々の戯れか、二人は逢瀬岬に最も近い海岸へ刀を差し合ったまま流れ着いていた。そこへ、朝の海岸散歩を日課とする八神皇女と佐京が偶然にも通りかかる。

「ミコかあ様、あそこに死体二つ」

「もう、物騒な物言いしてはいけませんよ。もう少し女の子らしくね、さっちゃん」

「女の子らしく?我にはその意味がわからぬぞ・・・」

「一体さっちゃんは誰の影響でそんな喋り方になったのか皇女頭が痛いです。ってそれよりも・・・」

 皇女は佐京が示した方向へ駈け出し、その場を目にした時に驚かずにはいられなかった。どちらも、知った顔が刃物で刺し合い倒れているのを見て冷静であるはずがない。しかし、母の後を追ってきた佐京は驚きもしないで、皇女の服の裾を引くと、

「かあ様、警察呼ぶのか?」

 佐京の言葉に慌てて、顔を横に振り、

「ヨウちゃんを、この子を死なせては駄目。しぃ~ちゃんが悲しむもの・・・。それになぜ・・・」

 皇女は佐京をそこに残して、近場の公衆電話を捜し、峰野義之へ連絡を入れた。

 母親が離れている間、佐京は近くにあった樹木の枝をもって、その二人の前にしゃがみこんでは突っついて反応を見ていた。

 連絡を終えて、娘の処へ戻って来る母親。皇女は佐京の行動に頭を抱え大きなため息をするも、娘はその母の行動を全く理解できていなかったようだ。

 それから三十分くらいでサイレンを鳴らさない救急車が二台その場に到着した。向かうは峰野が院長を務める国立・済世会病院。

 救急車内で簡易処置を行うもその時点で普通の手術で二人が助からない事を理解してしまう八神皇女。彼女達は脳死を避けるための処置を行い人工心肺に切り替えるとシンガポールのウィスタリア研の現所長セレナーディと連絡を取って、二つの願いを行った。

 半日して届く、詩乃の心臓と左の肺。

 詩乃の心臓が太陽に、そして、肺が愁にアダム技術を使って移植された。無論、その二人が今後そのような技術で助かったなど知る事はなかった。

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