第17話 宗冴くんの昔のこと
桜が満開になる頃、
珍しく空港に見送り行くと、両親とも晴れやかな顔をして出国ゲートの奥に消えていった。
父親である
母親である
セレクトショップの商品をもっと幅広く買い付けることにしたのだ。取引先の拡大をするために、華は長く家を空けることになった。
「あれほど寂しくないのかと絡んできたくせに、行くとなったらめちゃくちゃ楽しそうに出て行ったな」
先に出発する華を見送りながら宗冴は呆れて呟くと、大悟が苦笑を浮かべた。
「カラ元気だよ。あれでいて寂しがり屋だから、無理やり明るくふるまっているだけ」
「自分で好きで行くくせに」
「そういうな」
大悟はそう言ってふと手を上げかけてから、じっと宗冴の顔を見た。
「なに?」
「いや、わかっていたけどでっかくなったな」
大悟は頭に伸ばそうとしていた手を下ろして、宗冴の背中を叩いた。
「痛いよ」
結構な力で叩かれたので、思わず呟くと、大悟は微笑んだ。
「家のこと頼むな」
「うん」
そっけない返事をしながら、ふと、数か月前に家族で話し合った時のことを思いだした。
『出張に行っている間ばっかりじゃなくて、父さんは東京の本社に顔出す時はホテルに泊まりになるし、母さんも今度は2,3か月むこうに行きっぱなしになっちゃうし。1年のうちのほとんど、この広い家に宗冴一人きりになるの。それくらいなら、いっそ大学のそばで一人暮らしする?』
『……この家、売るの?』
『うーん、ご近所さんも良い方ばっかりだし今のところ売る気はないけど……、もし宗冴が一人暮らしするなら、しばらくは誰かに貸してもいいかも』
華がまじめな顔でそう言った時、宗冴は首を横に振った。
この家を離れる気はなかった。
正確には、
「宗冴」
名前を呼ばれて顔をあげる。
「大学もまあ、ほどほどで。困ったことがあったら何でも連絡しろよ。今はいくらでも連絡できるツールがあるんだから」
「言われなくてもわかっているから。つか、親が勉強はほどほどでいいとか言うかな」
「どうせ言わなくても頑張るだろうから」
確かに親に言われなくても勉強する。
これまでもずっとそうだった。学校に行かなかった中学生の時も勉強だけはしていた。別に勉強は嫌いじゃなかったし、成績が悪ければ後で困るのは自分だとわかっていたから。
「自分のやりたいことを、自由にやっていていいんだぞ」
穏やかな大悟の顔を見て、宗冴は長く息を吐き出した。
「うん。父さんたちは好きにやっているんだし、俺も好きにするよ」
「大学出るまで、金銭面では不自由させないからな!」
「ありがとう。でも俺、またバイトするからお気遣いなく。学費と生活費だけ助けてもらえれば十分」
「お前は本当に優等生だな。寂しかったらいつでも連絡して来い」
「別に寂しくないから」
「まあ、お前には牡丹さんやら
ガハハと豪快に笑う大悟に静かに返すと、勢いよく背中を叩かれた。大悟も大概体格がいいので、さすがの宗冴も少しよろけた。
「ちょっと」
避難がましく声を漏らすと
「愛してるぞ、宗冴」と、言って宗冴の身体をきつく抱きしめた。最近、気が付いたのだが、あれほど大きいと思っていた大悟の身長をいつの間にか抜いていた。
宗冴の肩を叩いて満足そうに笑うと、大悟は出国ゲートへと歩き出した。
「じゃ、無理だけはするなよ!体に気を付けてな」
「父さんもね」
大きな声で言いながら去っていく大悟に苦笑して軽く手を振る。
周囲の人が何事かと一瞬、視線を向けてきたがそれも本当に一瞬のことだ。
相変わらず大雑把で賑やかな人だ。
もう振り向くこともなく遠くなっていく背中に小さくため息をついて、宗冴も帰路につく。
モノレール乗り場には旅行帰りの人も多く、大きなスーツケースの持った人に交じってモノレールに乗り込む。
座席はいっぱいで宗冴は窓際に立った。窓の外を見ながら宗冴はぼんやりと昔のことを思い出す。
小学生の時から両親は留守がちだった。もっと小さなときはシッターや家政婦が出入りしていたが、宗冴が小学生になると家政婦だけになった。
両親は自分をかわいがってくれたが一緒にいる時間はひどく短い。
今なら宗冴にもわかるが、両親は自分のやりたいことが我慢できない人たちだ。その為には他の何かを顧みることはなく、ともかく目的の為にすべてを捧げる。
それは決して悪ではない。
夫婦はお互いに合意の上で仕事に打ち込んでいるし、衣食住に困ったことはない。宗冴の為に可能な限り時間を割いてくれている。
だが、そんな
それを知ったのはあの家に引っ越して、
宿木家は母親を早くに亡くしていたが、いつも家族が一緒にいて仲良く暮らしていた。
そう『暮らして』いたのだ。
みんなそれぞれ学校や会社に行っても、必ず家に帰ってくる。
毎日顔を合わせて、つまらないケンカもするが、身を寄せ合って暮らしている。
大げさな愛情表現はないが毎日挨拶をかわし、一緒に食事をし、他愛のない話をする。落ち込んでいる家族がいれば話を聞いてくれる。
傷ついた時には優しく頭を撫で、手を握りハグしてくれる。
まるでおとぎ話に出てくるような善人で構成された家族。
最初は宿木家が特別なのだろうと思おうとした。
『よそはよそ、ウチはウチ』なんてよく聞く言葉だ。
そうやって割り切ろうとしたが、気持ちがついていかなかった。
広い家に帰っても、大抵誰もない。
親と2、3日顔を合わせないなんて普通のことだ。テストで百点を取ったことも、剣道の段位が上がったことも、研究課題が最優秀賞をとったことも知らなくて当然。
服のサイズが変わったことを母親が知らず、家政婦から伝えられることがなんだというのか。
そのくせ顔を合わせた時に、痛みを感じるほど抱きしめて頬にキスを繰り返し、一方的に「大事だ」「かわいい」「愛している」とまくしたて、時間が来るとなんの未練もなく、そっけなく家を出ていく。
使い切れないほどのお小遣いが渡されることに嫌悪などあろうはずがない。
何不自由ない生活だ。
だがどれだけ裕福で自由な生活ができていても、宿木家の温かな空気に触れてしまうと、ダメだった。
愛し愛されている家族の見本みたいな宿木家の空気は毒のように心を蝕んだ。
父親とは違うが穏やかな気配りをしてくれる泰輔や、優しい犀、それに気配りにあふれ母性の塊のような牡丹にかわいがられることは苦痛に感じられた。
それからは徐々に宿木家からは足が遠のき、だんだん夜の町で遊ぶことを覚え始めた。
学校にも行かなくなった。
成績は落としていなかったので教師も文句は言わなかったし、学校では大人しくしていたので体調がすぐれないと言えば特に注意を受けることはなかった。
道場に行くのをやめていなかったのも心証がよかったようだ。一つのことに集中するのと身体を動かすことはストレスの発散になっていたからちょうどよかっただけなのだが、学校に来ないだけの真面目な生徒と勝手に勘違いしてくれた。
夜の街に出る時は服装や髪形に気を遣えば中学生に見られることはめったになく、自分でもうまくやっていたと思う。
クラブに出入りし、そこで初めてこれまでは知り合うようなこともない人種と知り合った。両親に連れられて海外に行きまくっていた子供の頃に覚えた英語も役に立った。
年齢も上の人たちの方が、同世代の日本人より気が合う奴も多かった。そういう連中に酒と女を教えられてからは自分でも驚くくらいにハマった。
他にもタバコや薬を進められたが、タバコは性に合わなかったし、薬も手を出さなかった。そこまで落ちるほど理性を失ってはいなかった。
そうやってうまく立ち回っているつもりだったが、やはり溺れていたと思う。
特に女に関しては見境なかった。
誘われれば誰とでも寝ていたくらいだから、今となってはよく妙な病気を移されなかったものだと感心するほどだ。
ただ彼女たちの軽薄な愛情とどこかわざとらしい明るさが心地よかった。
彼女たちが口にする言葉はどこかで聞いたことのある薄っぺらさだった。
「かっこいい」
「好き」
「上手だね」
耳元で囁かれるそれらは両親から向けられる愛情にとても似ている。
その時は思っていた。
誰にでも寄り添うキツイ香水の香りの柔らかで温かい肌。
馴れ馴れしいのにすぐに興味を失い、あっという間に離れていくそっけない愛情。
これが普通なんだ。
これが当然で、当たり前なのだ。
そう自分に言い聞かせた。
当時の自分を思い返すたびに愚かさに恥ずかしくてのたうち回りたくなるが、今なら正直に認めることができる。
どんなに体が成長し要領よく立ち回ってみても、精神は幼稚なまま愛情に飢えていたのだ。
そう思い知らされるのは、案外早かった。
学校に行かなくなってはいたが、まったく行かないという状況ではなかった。
卒業が危ぶまれるほどに欠席をしては面倒なことになるし、何より引きこもりだとかクラスの担任が動かなくてはならないような状態になりかねない。
そんなことになったら夜遊びをしていることがバレかねないし、そうなったら唯一の安息の場が奪われる。
かったるいが行くしかない。
そんな気持ちで登校した日の帰宅途中だった。
どうしてそんな時間まで学校にいたのか思い出せないが、夕暮れ時。家の近所まで歩いていると、前を歩いているカップルが目についた。
女の方はあまり声が聞こえないが、男の方がやたらと話しかけている。
頭の悪そうな軽薄な声にやたらねっとりとした話し方が耳について、こんなうざったい男と付き合っているなんてどんなバカ女かと思ったが、目を凝らすとそれは牡丹だった。
後から犀に確認したが、どうやら大学の先輩だったらしい。
何とも言えない気まずさと間の悪さを感じたが、距離もあったし夕闇に紛れていたので、このままやり過ごしてしまおうとなるべく気配を消すようにして後ろを歩いていた。
宿木家の門前までくると、牡丹は律儀に頭をさげてお礼を言っていたようだったが、男がふいに牡丹の腕をとった。
一瞬のことで無防備な牡丹は男の腕の中に抱き込まれ、そのまま唇を奪われた。
「……は?」
自分の口からこぼれたのは、間の抜けた小さな声。
二人はもみ合い牡丹は満身の力で男を突き飛ばすと、家の中に逃げるように駆け込んでいった。
遠目にそれを見て呆然とした。
モニタの向こうのことのようにすべてが遠かったが、衝撃だけは生々しかった。
自分の中で一等、美しく清らかな何かに泥を塗りたくられた。
頭の先から血が一気に下がり、心臓の音が耳元で大きく響いて吐き気と憎悪で眩暈がする。
牡丹にとっては満身の力だったのだろうが男は軽くよろけただけで、勢いよくしまった宿木家の扉を忌々しく睨むと舌打ちをして踵を返した。
男は宗冴の方に歩いてくる。その場で動かない宗冴に気づくと顔をゆがめた。
「何見てんだよ、ガキ」
かすれた声はざらざらと耳障りな響きで、途端に腹の奥が煮えたぎるような怒りが湧いた。
殺してやろうか。
男に視線をやると、びくりと身体をすくませて「気味悪ぃな」と吐き捨てると逃げるように足を速めた。
そそくさと逃げる男の気配が遠のくのを感じながら、殺意を飲み込む。宗冴の足は宿木家に向けて走っていた。
家の前まで来てインターフォンを押す。
信じられないくらいに息が上がって苦しい。
『……はい?』
インターフォン越しに聞こえてきた声は小さく震えていた。
多分、犀も泰輔もまだ帰ってこない家の中で、あの男がまだ家の前にいるのかと怯えているのだ。
「……あの、俺」
自分は何をしたいのか全然わからなかったが、ともかく黙っていたら余計に牡丹が怖がるだろうと思って声を絞り出す。
途端に、バタバタと音が響いて勢いよく扉が開いた。
「宗冴くんっ!?」
飛び出してきた牡丹に、息を飲む。
随分久しぶりだったのに、あんな声で自分だとわかるのか。
「……っ、久しぶりだね」
ほっとしたような声。
自分に微笑む牡丹の目が潤んで見えて胸の奥が突かれた。
「どうしたの? 犀に用事?」
「いや、……犀じゃなくて……」
「犀に用事じゃないの? それじゃ華さんから何か頼まれごとかな?」
ぼそぼそとそんなことを言っていると、腕をとられた。
「ね、せっかくだから上がっていって。いま、帰りなんだ? 制服姿の宗冴くん見るの、入学式以来かも」
随分聞いていなかった、柔らかな優しい声に胸の奥が苦しくなる。
牡丹は宗冴の腕を引いて、家の中に招き入れた。
なすが儘に玄関まで入ると、牡丹の指からかすかに震えが伝わってくるのに気が付いた。
「牡丹、手」
思わず呟くと、牡丹は「え」といって、自分の手をまじまじと見た。
震えていることに自分でも気づいていなかったみたいだった。
「……私もね、今帰ってきたところなんだ。今日寒いよね。いまエアコンつけるから」
この時は秋口で、比較的暖かい日だった。
震えるほどの寒さなど日が落ちてからもなかった。
牡丹の指が力を失い、宗冴の腕からゆっくりと離れる。
「ねえ、何か温かい飲み物いれるね。なにがいい? コーヒー? 紅茶? ココアもあるし。宗冴くんなにがいい?」
背中を向ける牡丹に涙が出そうになった。
とっさに手を伸ばして、もう一度今度は宗冴の方から牡丹の手を掴んだ。
「……ぁ」
息を飲んだ。
牡丹の手、こんなに小さかっただろうか。
冷え切った手は頼りなく、指先は細く折れてしまいそうだった。
「どうしたの?」
不思議そうに聞かれて言葉を探す。
「俺、体温高いから、その……牡丹が、寒いなら……ちょっとは温かいかも」
自分でも意味が分からない。
他の人間が相手なら、もっとうまく立ち回れるのに。
牡丹は握った手をそっと握り返すと
「ホントだね、温かい」と、小さく呟く。
「ありがとう」
両手で宗冴の手を包むと、視線をあげてほほ笑んだ。
「背が伸びてる。いつの間にか私より高くなっていたんだね」
すこし俯いていた牡丹が、顔をあげると優しい香りがした。
宗冴が抱いてきたどの女とも違う、温かくて清潔で心地よい香り。
愛おしさと後悔と忌々しさで、頭の中がめちゃくちゃだった。
牡丹のそばにいると、自分の周りにある『普通』が壊される気がしていた。本当は誰も、自分のことなんて愛していないと見せつけられるようで。
でも、牡丹が見ず知らずの男に無理やりキスされているのを見て、頭がおかしくなりそうなほど腹が立っていた。
最初はあの男に腹が立っているのだと思った。
でも違う。
俺は馬鹿だ。
どうして牡丹のそばを離れたんだろう。
いくら辛くても牡丹のそばから離れるべきじゃなかった。
控えめで目立つことはないが、誰にでも優しくて素直な牡丹。
その分、面倒ごとを押し付けてやろうとするずるい奴や人を踏みつけにしようとする人間には付け込まれやすかった。
小学生の頃からそんなことはわかっていて、牡丹がそういう連中に近づかないようにさりげなく仕向けた。それでもしつこく牡丹に絡んで来ようとする相手には、犀と協力して二度と近づかないように画策もした。
今でもそうしていれば牡丹はあんな下種に指一本触れられることはなかったのに。
自分が離れていた間に、どれだけの人間が牡丹を傷つけた?
これ以上、何かあれば牡丹はまた誰かのいいようにされるだろう。
優しくて清らかで、愚かな牡丹。
「宗冴くん?」
黙り込んだ宗冴を不思議に思ったのか、牡丹は少し首をかしげて覗き込んできた。
視線が合うと、愛おしさで胸の奥が焼け付く。
あんな男の捌け口にされるなんて絶対にあってはならない。
いや、どんな男であってもダメだ。
牡丹に触れようとする男、全員この世から消したい。俺以外の人間が、牡丹に触れるなんて考えるのも嫌だ。
ずっと勘違いしていた。
牡丹に対する気持ちは家族に対する慕情だと思っていた。
侵すことのできない聖域。
清らかで優しい可憐な姉のような存在なのだと思っていた。
だが夜の町でこれまで知らなかった欲望を知った宗冴は、牡丹に対する本当の自分の気持ちを自覚した。
「あのさ、牡丹。俺また……ここに遊びに来てもいい?」
視線を合わせてかすれた声で呟く。
「なに、改まって。いいに決まっているでしょ。いつでも遊びに来て」と、少しだけ背伸びをして宗冴の頭を撫でた。
髪を梳くように撫でる牡丹の手にたまらなくなって、その華奢な身体を抱きしめる。
小学生の時に犀と一緒にふざけて抱き着いていたせいか、牡丹は小さく、
「どうしたの?」と、微笑んだ。
あんなことがあった直後なのに、宗冴のことを突き飛ばさなかったのは、きっとまだ家族だと思ってくれていたからだ。
「ちっちゃい頃に戻っちゃったみたいだね。学校で何かあった?」
自分の方が怖い目にあったばかりだというのに、どこまでも宗冴のことを甘やかしてくれる。
弟としてだけど、それでもいい。
今はまだ牡丹の『弟』として傍にいて、守っていられればそれで。
それからすぐに夜遊び歩くことは辞めた。どうせ受験もあるので控えようと思っていたところだった。
足繫く宿木家に通い、犀とも疎遠になっていたが、再び話すようになった。
犀はなんとなく宗冴の夜遊びのことを知っていたようだったが、何も言わなかった。
***
空港から帰宅すると、ちょうど3時になるところで妙に中途半端な時間だった。
大学の準備といってもまだガイダンスも先の話だ。
高校の時の教科書や参考書は整理してしまったし、やることもない。
リビングのソファに身体を投げ出して、長く息を吐き出す。
目を閉じると、そのまま眠気が襲ってきた。
このまま少し寝るか。
こんなにだらだら過ごすのは久しぶりだなと思いながら、ゆっくりと意識を手放した。
***
どこかで、ヴー、ヴーというスマホのバイブ音がする。
「……?」
目を覚ますと周囲は暗く、完全に陽が落ちていた。
「寝すぎた」
呟きながら、無意識にスマホを手繰り寄せて受信ボタンを押す。
「……はい」
喉に絡む声で答えると
『宗冴くん?』と、甘い声が耳朶に響く。
一気に目が覚めた。
「牡丹?」
『うん、今どこにいるの?』
「えっと……家」
『お家の電気ついてないのに? 何してるの?』
くすくすと笑う声が耳にくすぐったい。
「寝てた。今、電気つけるけど……なに?どうしたの?」
少し気恥ずかしくなって言うと
『うん、お花見に行かないかなと思って』
「花見?」
『そう、夜桜見物。懐かしいでしょ』
初詣にもいく神社の境内から参道、それに続く道の両脇が桜並木になっているのだ。
時期になると屋台も出るので、子供の頃、何度か桜を見に行ったことがあった。
「いいよ、行く」
答えながら犀も一緒かなとぼんやりと思う。
相変わらず宗冴を意識ながらもこれまで通りにしようと努めている牡丹が、二人で出かけようというとは思えなかった。
「これから準備してそっちに迎えに行く」
『うん、それじゃ待っているね』
通話が切れると、額を押えてからぐちゃぐちゃと髪をかき回す。
顔洗って髪整えて、着替えは……しなくていいか。
考えながらふと外に視線をやると、月が煌々と輝いていた。
部屋の中が明るいわけだ。
立ち上がって部屋の電気をつけてまわると、宗冴は改めて欠伸をした。
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