異質。

 バッシャーン


 血飛沫をあげ地面に落ちるドラゴワームの頭。

 それが完全に沈黙するのを確認するかのように、村の奥から人がそろりそろりと顔を出した。


 あたしはワームの体を穴から引き出すべく空間操作の魔法を発動する。

 最初ちょっと驚いたような顔をしたマキナも、なんだか呆れたように納得して?


 まあ、しょうがない。

 あたしのこの力はきっとこの世界では異質なものだ。

 だからこそ王都にいた頃はほとんどこんな力誰にも見せたこともなかったから、あの人たちはきっと知らないだろうと思う。

 流石にここまでの力を一介の令嬢風情が使ったら、聖女どころか化け物扱いされかねないし。

 それは避けたかったのもあるんだよね。

 まあそう言う場面に遭遇しなかったっていうのも本当だけど。


 よっこらと巨体を持ち上げるのは空間操作と重力操作の合わせ技。

 上空から吸い上げるのとワーム自体の重さをゼロにすることで可能になるわけだけど。

 あ、流石にね?

 こんな大技、ワームが絶命してるから安心してできるってもので。

 こんな力があるのなら自分で倒せばいいじゃないとか言われるかもなのはまあ置いておいて。

 不可能、ではないよ?

 あたしの力をフルに使えばこの程度の魔獣倒すのはたぶん容易い。

 でも。

 そうじゃないの。

 あたしが人から脅威を取り除いたところで、それは一時的なものでしかない。

 手を差し伸べることはやぶさかじゃないけど、それだけじゃダメだとも思ってる。


 人が、本当の意味でちゃんと自立できるかは。

 与えられるものだけに頼っちゃダメだってそう思うから。



「おお、マキナではないか……」


 ドラゴワームを穴から引き上げそれが完全に生き絶えていることを確認したところで。

 人々がたぶん全員防災豪より出てきたのだろう、中でも長老風な老人がマキナに声をかけた。


「村長、もう大丈夫、です」


「お主がこれを?」


「ええ。父から受け取ったこの剣のおかげです」


「ああ、レヒトの剣、か。確かにあれは技量の高い冒険者であったが……。感謝する、マキナよ。そして、悪かった」


 村長はその頭を下げ、マキナに謝罪した。


 良かった。

 そう思ったのも束の間。


「しかし、村の皆の中にはお主がおったからこそこの村がドラゴワームに襲われたのではないかと噂するものもいる。申し訳ないが……」


 って、何? それ!


 このごに及んでそう言うことを言うの?

 異質なものを受け入れられない、そういうことなの!?


 村人たちは遠巻きにあたしたちを見ている。

 それは村を救った英雄に寄せる瞳ではなく、異質なものを見るような視線。

 恐怖が入り混じったそんな。


 ころん


 手前に抜け出してきた女の子がその手にしていたものを落とした。

「あ、りんご」

 コロコロと、それはマキナの足元まで転がって。


 さっとそれを拾ったマキナ。

 一歩前に出てその子にそのりんごを返そうと手を伸ばす。


「ああ、マーヤだめ、ああ、お助けください」

 そういうと少女の背後から母親だろう女性が飛び出して。

 そのマーヤという少女をぎゅっと抱きしめると庇うようにしゃがみ込んだ。


 りんごを持った手を伸ばしたまま固まったマキナ。

 ちょっと悲しそうな顔をして。


 ああ、だめ。


「行こう、マキナ」


 あたしはマキナの手をとって村人たちとは反対方向に足を進め。

 ちょっと振り返り、言った。


「村長さん? そこのドラゴワームの魔石を街の正教会に持っていけば新しい結界石に加工してもらえるはずです。外皮や肉も結構高値で流通していますから、それで村の再建も可能でしょう」


「よろしいの、ですか?」


「ええ。いいわよね? マキナ」

「ああ、マリアンヌ。俺は……」


「さあ、行きましょう。あなたはここにいない方がいいわ」


 そういうとそのまま手を引いて村の外まで歩く。

 村人たちは露骨に安堵の声をあげていた。


 あたしは、マキナの心が心配だった。

 負の感情は彼にとってあまり良くない結果をもたらす。

 だから。無理矢理にでも目を逸らさなくちゃ。そう思って急足で帰って。

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