魔王の魔王たる所以。
「大丈夫? 俺、走るけどもし無理ならゆっくりくればいいからね?」
なんだか力がみなぎった感じになっているマキナ、あたしにそう気を遣って。
まあここまで来るまでのあたしを見てたらこの獣道を走っていくなんてできそうにないって思うよね。
「ええ、ちょっと姿、変えますから」
あたしはそういうと心のゲートを開けマナを放出、そしてそのマナの膜を眼前に現した。
あたしを写す等身大の鏡のようなそんな膜が目の前に現れ。そしてその鏡の表面に手を合わせる。
前世の姿のキオク。そのキオクから作り上げたマトリクスという写身をその鏡の膜に描く。
そして。
ふわんとその鏡の幕に身体を預け、通り過ぎるように横切った時。
あたしの姿はそれまでのみすぼらしい麻の貫頭衣ではなく真っ白な光沢のあるワンピースに変わる。
背には真っ白な鳥の翼がはえ、頭には白銀のティアラが嵌った。
足元は編み上げのブーツ。腕にも同じように編み上げの手甲がはまる。
「ああ。やっぱり。綺麗だ」
見惚れるようにそう声を漏らすマキナ。
「ふふ。ありがとうマキナ。これであなたの足手纏いにはならないですむわ」
あたしもそうにっこりと微笑む。
このマキナがデウスによってこの世に誕生した魔王の後継者なのはもう間違いない。
あたしが封印した魔王から、どうかして魔王石を抜き取って新たに命を吹き込んだに違いないの。
そうじゃなかったらデウスがグラムスレイヤーをこの子の父親レヒトに託すわけがないもの。
その辺はちょっと今度デウスさまに会ったら文句の一つも言ってやらなきゃなんないと思うけどそれでも今はね。
この子の、マキナの心を汚しちゃいけない。
魔王が魔王たる
負の感情が強くなればなるほど魔王石は真っ赤に燃え、そして力を増幅させる。
しまいには理性がその感情をコントロールできなくなり、暴走するのだ。
そうして魔に飲まれた強大な魔力の持ち主は、魔王と呼ばれることとなる。
この子の
まだまだそんな魔王になるような片鱗はカケラも見えていない。
だから。
この子はあたしが守る。
魔に堕ちないように、きっと。
☆☆☆☆☆
走るマキナの後を空中を滑るように滑降しついていく。
抱いて飛んであげてもよかったけど、それじゃ彼のプライドが許さないだろう。
だから。
あたしはその分後ろをついて。
彼のサポートに回るつもりだった。
村の入り口に着いたところで数匹のゴブリンが徘徊しているのを見つけたけど、そいつらはマキナの姿を見るなり怯えて逃げていってしまった。
やっぱり。
この魔王の魔力紋が魔物にはわかるんだ。
魔力紋、魔力の波紋は人それぞれによって違う。
マキナの魔王石から発するこの波紋は、魔王のそれと魔物には感じられるのだろう。
特に、今のグラムスレイヤーを持った彼の魔力は小さい魔物にとっては脅威でしかないのじゃなかろうか。
一目散に散っていく魔物を見ていると、そうとしか思えなかった。
村の中央にいくつもの穴が空いているのがわかった。
そして。
その穴の一つから強力な魔力を感じたと思って身構えた時。
ギャアオオーと雄叫びを挙げながらドラゴワームがその巨大な顔を持ち上げた。
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