夜も更けて。

 夜も更けて。


 結局あたしは晩御飯もご馳走になってそのままマキナのおうちにお泊まりさせてもらうこととなった。

 お父様(レヒトさま)にもお母様(カクヤさま)にも神様みたいに思われて困惑したあたし、兎にも角にも思いっきり否定しておいたけどそれでもすごく感謝されて。



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「おお……神よ……」

「奇跡だわ……」


 金色の光に包まれ次第に顔色が良くなっていく父、レヒト。


「やっぱり、女神さまだ……」


 両親の感嘆の声に思わずそう口走っていたマキナは、知らず知らず目の前に両手を掲げ手のひらを合わせ指を組み合わせ眼前のその少女に向かって祈りを捧げていた。


「気分はどうかしら?」


「ああ、信じられないくらいに体が軽くなりました。ありがとうございます、神よ」


「ちょっと待ってくださいな。あたしは神さまじゃありません。これはただの回復魔法ですよ!」


「いえ、これほどの御業みわざ、正教会でも見たことはありません。こんな身体の中からまるで生まれ変わったように感じる回復魔法などあるのでしょうか?」


「あるのよ! だからね、そんなに驚かないで」


 もう、と困ったように声を漏らすマリアンヌに、レヒトも妻もひたすら感謝の言葉を伝えるのだった。


 ☆☆☆☆☆


「さあ、どんどん食べていってくださいな」

 妻のカクヤが袖を捲って料理を運んでくるのをマリアンヌは少し困惑するように見つめていた。


(せっかくお料理を振る舞ってくれるというのだもの、断れないわ)


 そうは思うもののそれでなくともマキナ一家はそう裕福な状態でないことはわかっているし、自分がそんなにもご馳走してもらうことに罪悪感もある。


「ああ、でも」

 そういえば、と、思い出した。

「そういえばお父様のご病気は栄養不足が原因だと思われましたよ? 身体の中の栄養素が長年不足した時におこる症状が出ていましたもの。これからはなるべく偏食はやめて、お野菜も摂ってくださいね?」

 と、かわいく叱るように話すマリアンヌ。


「そうだよ。父さんは肉しか食わないからだめだ」

「そうね。お野菜、なんとか増やしましょうね」


「ああ、気をつけるよ」


 本当は妻や子に食べさせたくて自分は残していたのだろうというのはわかる。

 でも、それではせっかくこうして治った身体もまたダメになってしまう。


 それは避けたかった。


 でも。


(もう心配はいらないかも、ね)


 こうして仲良く家族で食事をしている景色を眺めながら、マリアンヌの胸は温かい気持ちでいっぱいになっていた。


(お野菜を自給自足できるようになればいいのだけれど)


 庭を見ても地面は岩盤でとても植物が育つような環境ではなかった。

 土も、水も、足りない。


 やはりこの村八分の状態をなんとかしなければいけないのかもしれない。

 そう思いながら。


 用意してもらった寝床のお布団に潜り込んで、マリアンヌは何かいい方法は無いかと考えているうち。

 いつのまにか眠りに落ちていた。


 風が少し強めに吹いているのか。ガタガタと揺れる外壁の音が響いていた。

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