再生の魔法。

 森を出てしばらくいくと集落が見えてきた。

 だけれど、マキナはその集落への道では無く右手のはずれ、渓谷への道を行くと言う。


「俺の家はハズレにある。村の集落には居られなかったんだ」

 そう言いながら一段険しい道をゆくマキナ。

 足元は辛うじて歩くことが出来る獣道、村へゆく道は長年人の足が地面を踏み固めているのだろう足元も歩きやすくなっていたけれど、こちらは油断すると石や木の根に足をとられてしまいそうなほど。

 粗末な麻のサンダルしか履いていないマリアンヌの足は傷つき、所々血が滲んでいた。

「すみません、足、大丈夫ですか?」

 真っ白な柔肌が血で滲んでいるのを見て。

 まるでこんなところを歩くような格好ではない彼女に、あらためて申し訳ない気がしたマキナ。

「大丈夫ですよ。それよりも急ぎましょう。お父様が心配だわ」

 そう笑顔で話す彼女に改めて感謝の気持ちでいっぱいになった。


 急な坂を登った先に小さな小屋があった。

 そこがマキナの家なのだという。

「狭い家だけど、これだけ村から外れた場所だと村の結界も効かないし。野獣や魔物からも身を守らないといけないからね。不便な場所だけど、ここはその分安全なんだ」

 背後は崖。手前もすぐ崖になっている。

 崖の隙間の平地。確かにここならはいり口がこの獣道しかない分、護りやすいかもしれないけれど。でも、逆を言えば逃げ場も無いと言える。


 それでも。

 自分魔力、その匂いが魔物避けにもなっている。

 マキナはそう自覚していた。自分が留守の間でもある程度その効果が残っていることも。


「ただいま」

 扉をあけそう中に声をかけたマキナ。

「ああ、マキナ、お父さんが、お父さんが……」

 いつもと違う母の取り乱しように。

「どうした!? かあさん! 何があった!?」

 まさか! 父さん! 

 間に合ってくれ!

 そう心の中で叫び奥の部屋へ飛び込んだ。


 そこにはゴホゴホと咳き込む父の姿があった。

「大丈夫? 父さん。今日は女神の花を摘んで来たんだよ。これを煎じて飲めばきっと良くなるから」

 ベッドまで駆けつけて父の背中をさすりながらそういうマキナに、

「すまない、マキナ。とうさんはもうダメかもしれないよ」

 咳き込みながらそう弱々しく話す父。


「そんな、ああそうだ、今日はお客さんを連れてきたんだよ。医術の心得があるらしいんだ」

 そう言って後ろを振り返った。


「ごめん、君のこと紹介もしてなくて」

「ううん。だいじょうぶ。私はマリアンヌと言います。これでも以前教会の手伝いをしていた事があるのですこしは医術の心得があるんですよ。どうかお父様の様子を観させてくださいな」


 マリアンヌがそう丁寧に会釈をしながら話すと、マキナの母親も「お願いします」というように奥に通してくれた。

 白銀の髪を揺らしゆったりとベッドに近づくその姿に、マキナも、そして彼の両親さえも、女神のような神々しい姿を想い浮かべていた。



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 これは……、身体中の臓器が傷んでる。栄養の不足、ね。

 村八分が原因で新鮮なお野菜が不足していた事が原因かしら。お父様はきっと足りないお野菜は奥様や息子さんにと、ご自分はお肉ばかりを食べていたのかしら?

 そうで無くても偏食が原因なのだろうというのはわかるけど。


 ままよ。

 まずは治療。

 後のことはそれからだわ。



 あたしは両手のてのひらをお父さんの体にかざして。

 レイスのゲートからマナを放出する。

 金色の粒子が全身に吸い込まれるように入っていくと、その身体中に再生の魔法を行使した。

 表面だけの治療じゃない、体の奥底から本来の細胞の働きを取り戻していく。

 この人本来のマトリクスを、そのまま今の傷んだ身体と置き換えるように再生する。

 そんな、命の魔法。


 再生が行われていたのはほんの数刻。

 次第に彼の顔に生気が戻ってくるのがわかった。

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