シスター・シアター
茅野あした
第1話
私のお姉さまは、不幸のかたちをしていた。
私は妹で、私にはお姉さまがいた。
お姉さまは太陽のような郝灼の色をした髪を流して、悪魔のような緑の瞳の中に、きらめきを湛えていた。
お姉さまは私の太陽だった。やさしくてあかるくて、そんなお姉さまが大好きで、そんなものは総て私の夢だった。幸福な夢を観ていた、映画のように。
かちり。
映写機の歯車が噛み合って、回り出す音がする。
かちり。
いつから?と私は思う。いつから歯車は回っていたのか。何を以って歯車が回り出したとするのか。
私は幸せになりたかったのかもしれない。でもそんなことはもう知らない。
ある日、絶望が私の骨を喰んで、花のように散らした。石榴を破ったような脳髄を夢視ながら。
拍動する無花果の種がまろびでる。
雑踏の路上に、人々の足下に、私の夢の中に。
私は人形。狭い箱庭の中で踊りつづける、人形。私は病人。精神病棟の寝台で睡りつづける。私は不幸から逃れられない。私のそばに、お姉さまがいる限り。
親に捨てられた仔のように、罪を赦された咎人のように、神に見限られた人間のように、糸の切れたマリオネットのように。
人形が踊るように。病人が睡るように。妹がきょうだいに幻想を懐くように。
私はお姉さま無くして生きていけないのだ。
だから私は屍んだ。
シスター・シアター 茅野あした @tomorrowchino
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