双子

「お父さんお母さん、おはよう」


「あらっ、桜ちゃん今日は早いのね」


「なんか舞が熱っぽいから体温計取りにきたんだ」


「そうなの、桜ちゃんはそういう気遣いができてえらいわね」


「当たり前でしょ、双子の姉妹なんだから」


 体温計を手に取ったその時だった。突然の二階からの悲鳴にお父さんとお母さんは目を丸くして驚いた。お母さんが二階へ駆け上がろうとするが、私は慌てて階段の前に立ち塞がった。


「た、たぶん夢か何かでうなされてるだけだと思うから、私に任せて! ね?」


 強引にお母さんを納得させて私は二階に駆け上がり部屋のドアを勢いよく開けた。舞はベッドに突っ伏し、切り離された自分の髪の毛束を握りしめて、泣き崩れうなだれていた。


 私は昨日と同じように、懲らしめてやろうと口を開いたその時、舞は大粒の涙を零しながら私を睨みつけて声を荒らげた。


「私が何をしたっていうの! 何でこんなにされなきゃいけないの! 『明日から双子じゃない』ってこういことだったのかよ!」


 舞は握りしめていた毛束を私に投げつけるが、私の所に届く前にふわっと空中で散らばり、はらはらと舞落ちて床の一部を黒く染めた。気がおさまらない舞は、鬼のような形相で傍にあった手鏡を振りかぶった。私はヤバいと思った。明らかに殺気のようなものを感じっとったのだ。


 私は瞬時に机の上のハサミを手に取り、自らの髪にあてた。不可解な私の行動に不意をつかれた舞は、投げようとした手鏡を下ろした。それを見た私は間髪入れずハサミをゆっくりと動かした。パラパラと私の髪の毛が舞落ちる。


 この行動の意味を舞は理解しただろうか。私も自ら髪を切ることにより、喧嘩両成敗となることを。そうなった時、親はどちらの味方をするのかを……。


 理解してほしかった。何故なら昨晩のように口が回らないのだ。今にも破裂しそうな舞の激昂ぶりを初めて目の当たりにして、本能が危険だと判断し、喉が上擦ってしまっている。簡単に言えばビビってしまったようだ。


 自分の髪を切ったのは、ああでもしなければ収拾がつかないと直感したからだった。そして私は震え上がる心を悟られまいと、舞の眼を睨み返し、震えそうになる声をごまかすように強い口調で言い放った。


「アンタ熱があることになってるから、学校休んで髪切ってきなさいよ!」


 蔑みの言葉をたくさん用意していたが、それだけしか言えず、逃げるように部屋を後にした。


 さすがに今回ばかりはやり過ぎた。舞をショートヘアーにさせるため、バッサリ切ってやろうと思っていたが、明るい部屋で見た切り落とされた毛の量と、右側の髪がない歪なアシンメトリーを見た時、一瞬だが気の毒に思ってしまったくらいだ。


 リビングに戻るとお母さんが心配そうに駆け寄ってきた。


「どうしたの? 桜ちゃんまで顔色悪くなってるわよ。移されちゃったんじゃないの? それに大声で怒鳴ってたけど……」


 私は笑顔を作る。


「な、なんか私が舞の腋に体温計を挟んであげようとしたら、怒鳴られちゃったの」


「あら、酷いわね」


 苦し紛れの言い訳さえも簡単に信じ込んでしまうお母さんは舞について考えることをやめた。やめさせた、と言ったほうが適切かもしれない。私は舞の居場所をこのようにして毎日少しずつ奪っているから。

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