激情

 私のシナリオは完璧だった。完璧過ぎて可笑しくて愉快で仕方なかった。ただ、黒板に落書きをしたあの日、家で一悶着あるかと思っていたけど、舞は私に何も言ってこなかった。それだけは予想外だった。


 あんなことぐらいでは動じないということだったのだろう。家では平然と振る舞って見せても、私にはわかる。ふるふると小刻みに揺らぐ、その心がね。だって私たち双子だものね。以心伝心よね。うふふ……。


 あの落書きを虐めに発展させたのは、実は私だったりする。双子の姉の言う事は何よりも説得力があったようだ。舞のクラスのリーダー的な子にそれとなく信憑性のあることを匂わせてやれば、勝手に想像し、いや、必要以上に想像を膨らませ、事を大きく大袈裟にして吹聴し、クラス中はお祭り騒ぎ。虐めというイベントは加熱し、舞と草井とかいうデブは御輿に乗せられ担がれた。


 だけど、完璧だと思われたシナリオに想定外の事が起こってしまった。


 トイレで用を足していた時だった。突然のことに状況を把握するまでに時間を要した。これまでに経験をしたことのないことにパニックに陥ってしまった。なんせ大量の水が天井から落ちてきたのだから。それは雨やシャワーのようではなく、水の塊が落ちてきたのだ。頭に強い衝撃があり首肩、背中に不快な冷たさが張り付いた。


 間髪入れず下の隙間からホースで放水され、まるで制服のままプールに飛び込んだかのように、頭から足の爪先まで、ぐっしょりと濡れてしまった。


 不測の事態に思考は停止。前髪から滴る雫が濡れていることを再認識させた。ブラウスが透けて肌の色が透けている。


 なんで? どうして? でも、すぐに気付いた。舞と間違えられたのだと……。


 なんで? どうして? 私がこんな目に遭わなきゃならないの?


 私は自棄になりトイレットペーパーを大量に巻き取り、髪や身体を拭きまくるが、紙が溶けて制服も長い髪も白いカスだらけになってしまった。


「なんなのよ! もう!」


 涙が溢れてくる。私は保健室に逃げ込み、制服を脱いだ。髪に絡まったトイレットペーパーのカスがこびり付いて取れない。


 私は濡れた制服を袋に入れてジャージで電車に乗った。とても恥ずかしく感じる。車窓に映り込む自分の顔を見て私は思った。舞は毎日こんな惨めな思いをしているのか、と。そして窓の中の自分を睨みつけた。


 あいつが私に似過ぎているからいけないんだ。私が本物でアイツは私の出来損ないの偽物。なんでアイツのせいで私がこんな惨めな思いをしなければならないんだ。

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