においつきの英雄

りんもくゆず

第1話

「夏休みはいつもと違ったことをしてみましょう」

夏休み前の定型文とも言えようそんな言葉。

それにあやかり私は初めて料理をしたのであった。

お受験ママの元に生まれた私は、小学生のころ勉強ばかりしていたので、当然一人で料理を作ったことなどない。

超進学校に無事に入れ、勉強しろしろコールや塾の日数が落ち着いた今こそ、新しいことをするチャンスなんだ!

そう決心したらあとはあとは早かった。

「てってれてれてれてっててー」

下手くそな歌を口ずさみ、レシピ通りに具材を突っ込む

「油をしいて、加熱してー。

お肉とニンニク炒めますー。

カット野菜をぶちこんでー。

さっと仕上げるー!」

間延びした声がキッチンに響く。

なんかアホっぽい。

初めてとはいえ、カット野菜を使った上にレシピにしたがった、ただの野菜炒め。

親が心配したダークマターの生成も起こることはなく美味しい野菜炒めとなった。

私も調子にのっていた。

「やったー!簡単じゃん。俺、やっぱり天才!美味しいー」

帰ってきた母と父にも自慢気に話した。勉強以外で褒めてもらえたことがとても嬉しかった。

褒められたことを聞いた弟の顔、その羨ましげな表情で私は有頂天になって興奮したまま、床についた。


異変に気づくのは翌朝であるとは露とも知らない私であった。

翌朝…

「んー、良く寝た。おはよ!」

父と母への挨拶。珍しく弟が私より早く起きていたがいつもと同じ朝だ。

という訳ではなく…

「「「くっさぁー」」」

「ん?、お父さんが?加齢臭か。」


「うぐぅ」→精神攻撃がお父さんにヒット!ライフが10削れた


「いやいや、俺じゃないわ!臭いのはお前だ!めちゃくちゃニンニク臭いぞ!いつそんな食った?」

「はあ?そんな食べてないよぉ。だいたい、家族なんだからメニューいっしょじゃん。」

「あんた昨日野菜炒め作ったって言わなかったっけ?」

「レシピ通り1個しかいれてないよー」

沈黙。

空気が冷たくなる。

暫し後、声を絞りだす母親。

「レシピを良く見なさい」

「う、うん」

場の雰囲気に押し潰されそうになりながらスマートフォンを手にとり、調べる。

青ざめた彼の手によりレシピが見せられる。

「はい、これ。間違えてた…」


~簡単!野菜炒め~

以下の材料をまぜるだけ!油を引いたフライパンに、上から順に入れて、強火で加熱しよう!

胡椒とミリンを、適量いれて、

豚バラ肉 →100G

ニンニク →一かけ

タマネギ →半個

ニンジン →1/3本

ぶなしめじ→50G

キャベツ →200G

モヤシ →100G


「これ、か…一欠片じゃん」

愕然とする。

「御愁傷様!」

陽気に、振る舞う父親。

空気を変えようと…いや、楽しんでいるかもしれないが。


朝食はおやつな時間、ではなくお通夜な時間となって、終わった。


「ぷはぁ勘弁してよ、」

1日のおわり、家の布団で心身ともに疲れきっている男がいた。

体中からニンニクのにおいがする状態で1日を過ごすというのはなかなかに酷だったようで…


塾にて、

「換気扇換気扇換気扇!!」

においが広まらぬよう、換気扇のしたに座る。

「先生、質問があります!」

質問するときにもソーシャルディスタンス。

「はあ、はあ、」

電車だとにおいが籠るからあるいてかえる。


公園にて、

「ごめん、体調悪いから帰るね」

仮病をつかって、においがばれないように。


家にて、

「にいちゃん、臭い」

家族から隔離された。


そして父に言われた言葉

「あと、2日はにおい抜けんよ。」

絶望である。

「神様仏様誰でもいいから私のニンニクの臭いを消してください。

布団の上での神頼み。

叶うはずも…

「汝の望み叶えてやろう」

「はあ、なにも起こんないよな」

「汝の望み叶えてやろう!」

さすがに気づく。

「本当に?!」

おい、口使い。

「ああ、叶えてやる。代わりに役目を果たせばな。」

「何でもやるから、臭いを消して!」

「承知した!」

とたん、景色が変わった。

「うお、まぶし」

何故か草原に現れたニンニク臭。

そう、彼だ。

「あれ、本当に神様だったのか…」

そう呟いて変な場所へと飛ばされた彼は放心状態となる。

「そなたは私の使徒として、そこで英雄となりなさい。」

あ、神様再び。

ただ、彼は放心状態。

「…」

「そなたはその地で神の使徒として、英雄になるのだ。魔王がいるからそれを倒せ。」

声は届いているが放心状態なので朧気にである。

「よし、いけ!」

ドカッ

見えない力に突如おされた。

神の力だろうか、ともすれば手荒な神である。

ドサッ

「いってえなー英雄だ?モヤシ体型なのになれるわけないだろ」

今はニンニクだろとは誰も言わない。

「勘弁してよ神さ…「ギャー!、」

かきけされた。すぐ近くからの、女性の大声によって。

恐る恐る横を振り向いてみれば、女性に悪魔のような化け物が襲いかかろうとしていた。

はっとして、女性を守ろうと飛び出た。

「やめろーーわー」

ずてん。

ころんだけれど。

ただ、いつまでたってもなにもこない。

痛みも、声もなにも。

「うっ」

なんだか呻き声。

男の声だった。

助けたはずの女性の方に顔を向けてみる。

「(くっくさい)あ、ありがとうございます。」

(あれ、なんかいやそう)

「いえいえ、大丈夫ですか。」

「なにかあったのか教え「ぎぃやーーーお前なんなんだ!」

「くさすぎるわーー!も、もう無理。ぐえっ。」

「あ、倒れた」

「つ、強いです。触れることなく倒してしまわれた。」

なんだか、尊敬されてる!

「どういう状況なのですか?」

とりあえず状況確認。

可愛い女の子の前、転移のことなど忘れて、格好つけている。

「あの倒れている吸血鬼に襲われて、臭いあな、ゲフンゲフン。あなたがオーラで倒してくれたのです。」

転移しても臭いと言われてしまう少年。

「そうだったのですか。良かったです。まにあって。」

吸血鬼ってニンニクに弱いよね。そう思いだし、今自分は不本意ながら無敵であると気付いてしまった彼である。

けれど、気付いたならば早いこと。

「もしかして!あいつらに親玉とかいます?」

「え、ええ。けど、事情をしらないんですか?」

「…いなか者ですんで。」

「はあ。まあいいです…」

その後、彼女は用を足してから状況を説明してくれた。

彼女の言うには吸血鬼の魔王がいて、彼らに攻めいられた人類が滅びかけている、と。

で、

「下っぱだとは言え触れることなく気絶させたあなた様にどうか、あの魔王を倒して頂きたいのです。」

(あ、テンプレ。)「はい、分かりました。私でよければ。」

倒し方のわかる彼はうなずく。

「ありがとうございます!いきましょう。」

そういって連れていかれた…

で、ついた。

途中にグギャーとか言って、攻めてきていたはずの吸血鬼が倒れていったが気のせいだ。

「ぬ、おぬしたち誰だ。ここには誰もたちいらないように命じておるぞ!」

「はあ、誰もいなかったぞ!」

あなたのニンニクの臭いで気絶したのです、そう言ってくれる吸血鬼は勿論いない。

気絶しているのだから。

そして最初に助けて、ついてきた女性も彼のニンニク臭故か、はたまた魔王を怖れてか、(前者であろうが)近寄らないため指摘することはない。

魔王はまた訪ねる。

「どうやってここまできた?」

「そこの女性についてきた。」

いぶかしげな表情の魔王。

「知ってるはずないのだがな?嘘か?」

「いや、本当。」

実は彼女に襲いかかったあとニンニク臭にやられ倒された吸血鬼、彼から情報が漏れている。


~女性が助けられた後…

「ちょっと、用を足してくるから覗かないでくださいね。(上目遣い)」

頬染めるニンニク男

「は、はい。目をつぶってます。伏せておきまふ!」

「まっててねー」


吸血鬼を引っ張って木の裏へ…

パァン

「ぶへっ!」

「おいてめえ、親玉どこにいやがる?答えないならあいつのところつれてくぞ?なんか知んないけど、あんた、あいつに近寄れないんだよなあ?!」

吸血鬼

「いうわけないだろ!脅しか?近寄れるし」

「今度は殺されるかもなあ?」

「はい。話します」

そうして、彼女により道案内が行われた。~


時を戻して…

「まあいい。とりあえずここを知ったのなら死ね!」

凄まじいスピードで近寄る、牙を出して、ブスッとなるはずもなく。

「くっくっせーーー!!うぐっ」

急停止する魔王。

ニンニク臭には魔王も敵わないようで。

彼は

「臭い臭いって、悲しくなるなぁ」

自業自得であるがそう呟いていた。

そして、一歩踏み出す。

「臭い臭い臭いー近寄るなぁー」

どっからかヒョコッと出てくる女がいう。

「これに懲りて、人間襲わないことね!」

したたかである。

ただ、英雄にならないと、ニンニク臭が消えない彼は気にせず近づく。

「臭い臭い臭いっての!勘弁して、人間のこと攻撃しないから。本当にやめて。すまんかった」

骨抜き魔王の吸血鬼は叫ぶ。

「はあ、しょうがないなぁ(ほっ)」

殺す能力のない彼はほっとする。

そこでふたたびしたたかな女性の一声

「言ったわね!じゃあ謝罪しなさい。大勢の前で!」

「この御方を私逹に近づけないのであれば。」

臭いが嫌なのがバレバレである。

「分かったわ!この英雄、におそれをなしたのね!これで一件落着だわ!」

臭いのことは隠しているが、それが彼を傷つけているとは分かっていない。

だが、なにはともあれ彼女の言う通りこの件が彼、ニンニク男によって解決に導かれたのは定かだ。彼は英雄として祭り上げられた!

誰も殺さず魔王を服従させた男として…

彼に付き従った彼女も莫大な恩賞をもらい高笑いしていたというが、それは別のお話。

そして彼は祭りの後、王宮の離れ(勿論臭いから)で休息をとった。


目を開けてみれば見慣れた天井がある。

「戻りましたね、お疲れ様です。臭いは消しておきましたよ。」

彼は飛び起きる。

そして、家族に顔をしかめられないこと、「臭くないよ」と言われたことに歓喜する。

「やったーー!神様、ありがとう!」

そうして、彼の冒険は終わった。彼は転移してた世界にて、臭い付きの名もなき英雄としてあがめられる。彼は神の使徒だと言われ、神も満足した。

ニンニクの奇跡である。

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