閑話-2 オートドライブ付きクロスカブ(ニッチ視点)

 約束通りミス〇に着くと店の前で、ナギサとミユキに出くわした。


多分そうだとは思っていたけどセイコは来ていない。


セイコが会いたいって言ってるからという理由で呼び出されたけどほぼ嘘だと見当はついていた。


ナギサは荒ポコ町の”ジャンクヤード”って言うカラオケ店で待ってるからと言い張っている。


そもそもカラオケ店なんてアーシは行くつもりが無い。


それならスマホで連絡を取れとアーシが言うが、色々言い訳をして連絡を取ろうとしない。


アーシはナギサたちと言い争いになっていた。


そのうちにヤカラ然とした男子が三人やってくる。


ミユキが空手部の先輩だというが胡散臭い。


アーシの手を引っ張るナギサを振り払おうとしたとき店からゴスロリッ娘が走り出てきた。


「悪者ども! 新田さんから離れろ!!」


驚いて振り向くと岡部安奈が胸をそらして仁王立ちしていた。


「お前何? 訳わかんないんですけど。」


ナギサが岡部に捲くし立てた。


岡部ー、あんた何でそんなフリフリゴスゴスの衣装でこんな所に居るんだよー。


「僕のこの聖龍の瞳は悪事を見逃さない!」


そう言うと赤い右眼を指し示す。


何それ、右目だけ赤い瞳ってオシャレのつもり?


平日の夕方にその恰好は痛いよ。


まあアーシにはいつもピンクの痛い恰好をしてる親友が居るけどさあ。


「岡部! アンタこんなところで何してんの」


岡部、あんたがこんなところに来ちゃダメだろう。


アーシ一人なら何とかなるけどあんたが巻き込まれる必要はないんだよ。


「新田さん、助けに来たよ。こいつらは新田さんを騙してるんだ!」


「何なの、このゴスロリ女。変な言い掛かりをつけんじゃないよ」


「僕は聖龍の力を受け継ぎし正義の戦士。この服装は僕の戦闘服さ」


ゴスゴスのエプロンドレスが戦闘服って、斜め上過ぎるだろう。


いつも気合い入れて明後日の方向のピンクの服を着てくるバカもいるけど。


「岡部、もういいから帰りな!危ないから。アーシ一人でどうにかできるから」


「新田さん、騙されてるよ。僕は昨日聞いたんだ。そいつら新田さんを拉致る気だよ。僕の聖龍の瞳はすべてお見通しさ」


岡部、あんた啖呵切るのは良いけど、回り囲んでるヤカラの三人組もナギサたちの仲間なんだよ。


あんたの瞳なにも見通せてないから。


「オイ、ゴスロリ。ナニカッコつけてんだ。ミユキこいつも連れてくぞ!」


「ニッタ、アンタ生意気なんだよ。こっちが下出に出てりゃあ付け上がりやがって」


アーシが岡部を止めに走ろうとしたけどミユキとナギサに両腕を掴まれて動けない。


そして目の前に黒―大きなワゴン車が横に滑り込んでくる。


空手部先輩とかいうの一人がスモークガラスのスライドドアを開けた。


アーシはナギサとミユキに引っ張られる。


岡部は果敢にも空手部とかいう二人の男の手を振り払っている。


サッサと逃げろよ岡部。


「放せよ! 岡部は関係ないだろう。連れてくならアーシだけでいいだろう」


ナギサとミユキがアーシを引っ張って後部座席に押し込んだ。


「あっ、新田さん!」


バカ!岡部、こっちに来るなサッサと逃げろ。


叫びかけたけど、空手部の男に胸を押されて声も出せずにシートの上に転がされてしまった。


岡部が駆け寄ってきてナギサとミユキを押しのける。


その背中を空手部の二人が強く押した。


岡部はバランスを崩して頭からアーシの胸によろめき突っ込んできた。


空手部の男たちはそのままアンナと車の中に押し込んで自分たちも乗り込んでくる。


ナギサとミユキも乗り込んでドアを閉めてしまった。


でっかいワゴン車だけど後部座席に七人も乗ると狭苦しい。


岡部は頭から突っ込んだせいで上半身がシートからこぼれて逆さになっている。


アーシが岡部を引き起こすと空手部の一人がその肩を掴んで叫んだ。


「大人しくしろ!」


脅しをかけたつもりだろうけど岡部はひるまずに言い返す。


「乱暴するな。僕を怒らせるとただじゃおかないぞ」


「岡部は放せ。アーシだけにしろ」


その間にミユキが手を伸ばしてドアロックをかける。


車が走り出した。


「岡部のバカヤロー。なんでこんな事したんだよー」


「新田さんはリオの友達だから」


「だからって、あんたまで危険な目にあったら莉凰が泣くだろう!」


アーシの事情に岡部を巻き込んだら莉凰が絶対泣く。


そうなったら莉凰にあわせる顔が無い。


「友情ゴッコも良いけど、アンタら状況考えなよ」


「ニッタもだけど、アンド―も鼻につくんだよね。バカのくせにワタシラ見下してんじゃないよ」


コノヤロー、アーシはともかくアーシの親友をバカにすんじゃねえよ。


「莉凰はそんな奴じゃねーし。あいつは見下されても人を見下したりしない」


「そうだ!リオは良い人だ。僕の師匠だから」


・・・師匠?


莉凰を師匠にするのはさすがにお勧めできないかな。


「こいつ何なの。アンドーの弟子って何言ってんの。バカなの、バカの弟子」


うっ、反論できない。


「リオは優しい正義の人だ!バカにするな。正義の力を持った聖龍様だ」


さっきから聖龍とか言ってたのは莉凰の事だったのか。


なあ、莉凰。


岡部に何を吹き込んだんだよー。


「ねえ、ニッタ。この娘、頭いってない?」


ミユキ、アーシに同意を求めるな。


「うるさい。新田さんはリオに変わって僕が守る」


そうだよ。


どんなに言われても莉凰は莉凰だよ。


アーシの大事な親友だ。


アーシがバカにしても、お前らがバカにしていい奴じゃないんだよ。


岡部だって、莉凰を慕ってるクラスメートじゃないか。


「お前ら人をバカにしやがって。莉凰も岡部もアーシのクラスメイトで大事な友達だ。指一本触れさせるかよー」

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