第16話 絶対ハロウィンコスじゃない
「おーい、安藤じゃねぇ?安藤でしょ。ひっさしぶりー」
急に能天気な声が聞こえてきた。
「こんなところで何してんの?」
カブに乗ったバカっぽい男子がウチに話しかけてきた。
誰だ、こいつ?
ウチのこの完璧な変装を見抜くとはただ者じゃ無さそうだ。
「俺だよ、岩崎だよ。岩ちゃんだよー」
ヘルメットを脱ぐと茶髪のチャラそうな顔が現れた。
「嘘だ! イワケンなら坊主頭のはずだ。カツラ脱げ」
「高校生になっていつまでも坊主頭のままでいるかよ。地毛だよ」
「ウチはアンタみたいなナンパ男知らんし。安藤じゃないし。人違いだし。忙しいし。ナンパはお断りだし」
「今おれの事イワケンって言っただろうが」
「知らんし、言ってないし。安藤じゃねえし」
「安藤だろうが。そんな上から下までピンクのコスプレでウロウロしている女子って安藤くらいだろうが」
「バッカじゃないの。マスクは茶色だし。サングラスは黒だしーー」
「耳付きキャップ被ってナニ勝ち誇ってんの! ハロウィン向けのコスなの? ナンのコス? いや、待って当てるから。…エ~と、判った! ロッツオだ! ロッツオのコスだろう。当ったりー!!」
「コス違うわー! せめてピグレットくらい言えよ! なんで腹黒おっさんグマのぬいぐるみチョイスよ!」
「そうだよなー。安藤はイチゴのにおいはしなさそうだし。せいぜいハンバーグのにおいがするぐらいだよな」
「においっていうなし。香りって言え! そもそもイワケンこそ三人死んでる一万円のカブで何イキってんのよう」
「スーパーカブじゃねえよ! クロスカブだよ! お陰でバイト地獄だよう!」
「へー、良く原付免許とれたねぇ。何回くらい落ちた?」
「バカにするな、五回しか落ちてないわ!」
はー?
筆記試験だけのテストに何回落ちてんの。
行き当たりばったりでテスト勉強もしてないんだろうけど。
合格率五割以上のテストだぞ。
原付一種免許の取得で六回もかけるなよー。
おっとバカな事をしている間にニッチがやって来た。
あっ、ナギサとミユキもこっちに向かってるじゃん。
「なあ安藤。忙しいって言ってるけど暇そうじゃん」
「ちょっと黙って!」
「どっか行かない? メットもう一つあるし」
「あんた、原付一種でしょう。違反じゃん!」
「バレないって、思い出優先ってことで」
「ネットで炎上したいの。バカなの。ちょっと黙って」
ニッチがナギサたちと遭遇した。
えっ、店に入らないの。
駐車場で何やら話し始めたぞ。
「スゲーんだぜ、このクロスカブ。まだ頭金しか払ってねえけど」
あれ?店からゴスロリッ娘が出てきて何か言ってる。
「高かったんだぜ。まだローンが残ってるけど」
イワケンが煩くて集中できない。
「イワケン、うるせー! ちょっと黙れ!」
デ〇ルイヤーーーー!聴覚も向こうに全集中!!
『悪者ども! 新田さんから離れろ!!』
『お前何? 訳わかんないんですけど』
あちゃー、あのゴスロリッ娘はアンナだったんだ。
『僕のこの聖龍の瞳は悪事を見逃さない!』
そう言うと赤い右眼を指し示す。
あっ、アンナまたカラコン入れてやんの。
『岡部! アンタこんなところで何してんの』
『新田さん、助けに来たよ。こいつらは新田さんを騙してるんだ!』
『何なの、このゴスロリ女。変な言い掛かりをつけんじゃないよ』
『僕は聖龍の力を受け継ぎし正義の戦士。この服装は僕の戦闘服さ』
ああ、アンナあんた精いっぱいオシャレしてきたつもりなのね。
でもそれ只の痛い子だよ。
『岡部、もういいから帰りな! 危ないから。アーシ一人でどうにかできるから』
『新田さん、騙されてるよ。僕は昨日聞いたんだ。そいつら新田さんを拉致る気だよ。僕の聖龍の瞳はすべてお見通しさ』
アンナ、アンタが啖呵切ってる間にヤカラの三人組に囲まれてるんですけど。
『オイ、ゴスロリ。ナニカッコつけてんだ。ミユキこいつも連れてくぞ!』
『ニッタ、アンタ生意気なんだよ。こっちが下出に出てりゃあ付け上がりやがって』
アルファードのエンジンがかかってニッチ達の横に滑り込んでくる。
ヤカラの一人がスライドドアを開いた。
『放せよ! 岡部は関係ないだろう。連れてくならアーシだけでいいだろう』
ナギサとミユキがニッチを後部座席に押し込んだ。
『あっ、新田さん!』
アンナが駆け寄る。
その背中をヤカラ達が強く押した。
アンナはバランスを崩して車内によろめき込んだ。
そのままヤカラ三人はアンナも車内に押し込むと自分たちも乗り込みスライドドアを閉めた。
お前ら、アルファードに何人乗ってるんだよー。
積載オーバーだろうが。
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