第5話 復活の邪神龍

 龍崎から痛い子認定をされてから二日後の金曜日の夜。


ウチは龍崎に教えてもらった岡部安奈のフェ〇スブックを見ていた。


一学期の間はマンガやアニメ・ラノベの紹介や感想が毎日書き込まれていたのだけれど、期末試験を終わるころからお気に入りの作品の二次創作やオリジナル小説の書きかけみたいなコメントが増えだした。


夏休みに入る直前くらいから一人称が私から我に、二次創作の設定が自分の設定に変わっていった。


夏休みに入るとさらにヒートアップ。


封印されし龍族とか、聖紋の復活とか、腕の封印が疼くとか。


痛いわー、これ。


おまけにコメ欄で煽ってる馬鹿どもが出てくるし。


ナニこのコメ、堕天の聖紋の書き方って。


訳の分からない落書きに聖紋なんて名前つけるな、堕天って言ってる時点で聖じゃねえだろうが。


岡部――。


お前もお前だ。


ナニお礼のコメ上げてるんだ。


これでしばらく邪神の力を抑えられたって、抑えられる訳あるかぁー。




痛い。


痛すぎる。


痛い痛い痛い。


本当に頭が痛くなってきた。


あっ、明日は新月じゃん。


ヤベェ―――。


魔力が解放されやすくなって封印の力が弱まってる。


ヤバイよ、ヤバイよ。


明日は龍崎と岡部の家庭訪問ジャン。


ナニかトラブルが起きそうでマジヤバイ気がするんですけど。


この痛みはバフ〇リンルナを飲んだらおさまるかなぁ。


取り敢えず痛み止め飲んで寝よう。




 バファ〇リンが効いたのか翌朝の頭痛は収まっていた。


今日は朝十時に駅前で龍崎と待ち合わせだ。


おまけに制服指定ときたもんだ。


何が悲しくて龍崎と制服デート(怒)。


休日だというのに目覚めの気分は最悪である。




顔を洗おうと洗面所の鏡を見ると、頭は寝ぐせでバサバサ。


おまけに左目は充血して真っ赤になって…。


真っ赤に、黒目が真っ赤に、真っ赤になって青龍紋が浮き出てる!!!!


ナニこれ。


オッドアイって、何なの。


いや、両目とも赤くなったらもっと困るんだけどね。


それよりナンで今日なの。


いや、他の日でも困るけども。


ヤバイよ、どうすんのこれ。


大急ぎで龍崎に熱が出て今日は行けないとラ〇ンを送る。


すぐに既読がつくと“それは大変ね。お大事に。”と返事が返ってきた。


これで一安心。


あとは左目対策だ。


大急ぎで着替えて机の引き出しをひっくり返すと、昔買ったサングラスを引っ張り出す。


ハート形のサングラスって、ナンでこんな物買ったし、ウチは!


けれど今、眼を隠すものはこれしかない。


ハートのサングラスをかけて、ディ〇ニーシーで買ったピンクのミ〇キーの耳付きキャップを深くかぶり、ピンクベージュのスプリングコートの襟を立てて、マスクを付けて、ドラッグストアーへ走った。


ピンクキャップにピンクのコートってどこの林家だよう。


朝からハートのサングラスって、完全に危ない人だようー。


すれ違う人の目線が痛いようー。


ドラッグストアーの店員の視線も痛いよー。


大急ぎで眼帯を探すと無言で千円札と一緒にレジにたたきつけた。


「レジ袋はどうされますか」


ウチは小声で呟く。


! !」




眼帯の箱とお釣りを握りしめて大急ぎで店を出る。


うつむいて小走りに家路をたどる。


そして家の前までたどり着いた時、


“カシャ”


シャッター音がした。


「あら、安藤さん愉快な格好をしているのね」


龍崎がスマホをかかげて楽しそうに笑っている。


「イエ、人違いなのにゃ。ワチシハ読切新聞の購読セールスレデーなのにゃ」


「あらあら、そうでしたの。マスクで声がコモって良く聞こえませんわ」


そう言うとウチのマスクをゆっくりと外した。




“カシャ”


「ナンで又、写メとるし!」


「ゴメーン(テヘッペロ)。なんとなく条件反射」


「ナンでうちの家の前に居るし」


「お見舞いに来たのよ、安藤―。熱が出たんじゃなかったのかしら」




「そっ、そうなんだよね。それでドラッグストアーに行ってたので…」


「熱が出たから眼帯買いに行ってたんだ」


わたしの手から眼帯の箱を奪い取る。


「いや、これはビオフェ〇ミンと間違えて…」


「熱冷ましに下痢止めを買いにゆくんだ」


今度はサングラスをはぎ取ると、


“カシャ”




「カラコンなんて結構気合入ってるじゃない」


「違うの、聞いて。誤解なの。説明はできないけど誤解なの」


龍崎は箱から眼帯を出すとウチの左目にそれをあてる。


そしてその上からハートのサングラスをかけてウチの手を引っ張る。




「やめて、待って、このサングラスは外させて」


「さあ、行こうか」


引っ張る手にさらに力が入る。




「おねがーい。この格好で駅に連れて行こうとしないで――」


龍崎は無言でサングラスを外すとウチのコートのポケットにしまった。


そして私の手をもう一度引っ張ると、


「さあ、行こうか」


「お願い着替えさせて。後生だから。許して」


「大丈夫よ。電車でたった二駅だから」


「この格好で電車に乗せないで。お願いしまース」


「グズグズしてると電車に乗り遅れてしまうわ」


ウチの手をぐいぐい引っ張って行く龍崎に懇願する。


「ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ」




「さっさと制服に着替えてこい!!」


津軽の地吹雪のような声がウチの心臓に向けて放たれた。


「イエッス、マム!!」


ウチは必死で家の中に駆け込んだ。

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