第4話 あばかれた聖紋

 お弁当を食べているウチを龍崎が仁王立ちになって見下ろしていた。


「なんか食べ辛いんですけど」


「フェ~ン。怖いよう~(泣)」


「ねぇアンドリン。さっさと食べてこの威圧感の塊どっかに除けてくれないかなぁ」


「ちょっと三人とも、ウチを守ってよ。生贄にされるのはヤダ」


「竜神様、この御厨がアンドリンを贄として捧げますのでお怒りをお沈めくださいませ」


「ウム、大儀である。その方らには安藤の弁当を褒美として取らせよう」


「ナンでよ~。ウチの弁当食べるな! この薄情者ども!ウチのハンバーグを返せよ!」


抵抗も空しくウチはミクリンに龍崎への生贄として捧げられた。


そしてウチのハンバーグにハイエナの如く群がるミクリンとニッチの姿を尻目に龍崎に連行されてしまった。


ウチは龍崎によって校舎裏へと引きずり込まれた。


「なっ、何かなぁ~。聞きたいことって」


「あんた、今朝左腕を抑えて疼くとか言ったたよね。変な笑い声立てて」


「イヤ、笑ってないし。痛いの堪えてたんだし」


「まあいいわ。後、授業中もしょっちゅう左腕抑えてキョロキョロしてたよね」


「エッ、そっそれは…」


「その左手の包帯、何かあるの?」


「エッ!」


「一時限目の休憩時間にトイレ行ったよね。なぜかマジック持って」


「べつにマジックで特殊な事をしてたわけじゃないからね」


「特殊な事してたんだ」


「イヤ!! そんな性癖ないし!!!」


「エ?! そっちの方」


「ちっ違うから。今の発言は忘れてっ!」


若干顔を赤くした龍崎が話を続ける。


「まぁいいや。ネェ安藤。その包帯外してくれない」


「エッ、ナンで。傷口フェチとか」


「混ぜ返さないで。包帯にマジックのインキがにじんでるわよ」


「エッ!」


ウチは慌てて左手の包帯を見る。


「別に滲んで無いジャン」


「語るに落ちたわね」


龍崎はウチに向かってそう言うと、フッと笑って素早くウチの腕をつかみ一気に包帯の端を引っ張った。


包帯が解けてサ〇ンパスの上の聖天の印が白日の下にさらされる。


顔色を無くすウチに向かって龍崎が不敵に笑った。


「やっぱり、私の思った通りね」


ウチはサ〇ンパスを右手で抑えて憎々しげに龍崎を睨み返す。


「まさか、アンタ勇者の転生体?!」


「正解のようね」


「クッ、クッコロ!」


「やっぱり安藤はそっちの趣味の人だったんだ」


「エッ?」


「違うの?」


「ちっ違うし。ウチはそんな痛い趣味ないし」




「今更否定しても遅いわよ。勇者とか転生とか口走っていたじゃない」


「アッ、アレは、ヨッシャ点線だいって言おうとして噛んだだけだし」


「言い訳にも、日本語にすらなってないわよ」


「ホントに違うのに~(涙)」


「まあ、隠れて楽しむ分には好き好きだし誰にも言わないわよ」


「違うから~(泣)」




「女々しいわねぇ。観念しなさいよ。腕に落書きまでしてるんだから」


「理由は言えないけど、誤解だから~(号泣)」


「誤解ね。誤解。解ったから。黙っててあげるから、ちょっと話を聞きなさいよ」


大きな溜息をつきながら龍崎がそう言った。


絶対こいつ解ってないし。


「安藤にお願いがあるんだよ。このことは誰にも言わないから」


この言い方はお願いではなく普通は脅迫と言います。


「岡部安奈って覚えてる?あの娘、夏休み明けから出てきてないんだ」


「エッ??? 岡部? あぁーそんな名前の子、居たなぁ~」


「目立たない娘だったんだけど夏休みから拗らせちゃったようで、このままじゃ不登校になるかもなんだ」




「エーと。それが何か?」


「同じクラスで不登校や留年なんて嫌じゃない」


「ウン…。そーだね。(棒)」


「だから一度、岡部の家に行こうと思うんだよね。安藤と」




「エッ? どゆこと?」


「だから安藤と私で岡部の家に家庭訪問に行くの」


「ちょっと待って。それが何でウチなの?!」


「だから拗らせちゃったって言ってるじゃないの」


「だからナニを?」


「決まってるじゃないの。厨二病」


「待てよ!! ウチは違うって言ってるじゃないの(怒)」


「解ってる」


「解ってない(怒)」


「解ってるから」


怒りで震えるウチのコブシを龍崎がそっと両手で包む。


怒りに燃えるウチの瞳を慈母の如き優しげな微笑みで見つめ返してもう一度ささやく。


「誰にも言わないから。内緒にしてあげる」




「せっかくモテ期が来たのに。北野君や青山君に誤解されたらモテ期が終わる」


「いや、北野 彼女いるし」


「エッ!?夏休み明けに4組の春風に振られたんじゃなかったの」


「うん。で、今は春風のツレの黒田佐和子とつき合ってる」


「えーそんなー」


「それから、青山に手を出したら潰すから。物理的にも社会的にも」


「エッー。エエエッーー」


そうだった。


龍崎は青山君を巡って4組の春風や他校の女子まで巻き込んだ四つ巴の恋愛バトルの最中だった。




「アンタは悪魔やー。悪魔の子やー」


「何で関西弁?」


ウチは膝から崩れ落ちるとさめざめと泣いた。


「それじゃあ、家庭訪問の日取りはまた連絡するからヨロシクね。」


「絶対ばらすなよー(血涙)」


「お願い聞いてくれてありがとうー」


「地獄に堕ちろーー」

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