第3話 封印の聖天印

 その後直ぐにママが車で迎えに来て、病院で検査を受けることになった。


頭を打ったのでレントゲンとМRIを撮られて、翌日の再検査で問題が無ければ大丈夫と言う事だったので、明日は学校に行き夕方再検査に行くことになった。


念の為今日は早めに眠る事にして布団に入って暫く経った頃、急に左腕がうずきだした。


「ウウッ。左腕が疼く」


暗い部屋の中でパジャマの左袖が薄っすら光っているように見えた。


パジャマの袖をめくってみると、前腕部に赤い複雑な文様が浮かび上がっている。


その文様がほんのりと光を放っているのだ。


慌てて右手で握りしめる。


「静まれ、静まれ、静まれ」


一心に念じるとやがて光は収まり、疼きもなくなった。


部屋の明かりをともすと、左前腕部に赤い文様のような痣ができている。


「アワワワワ、これは蛟龍紋だよね」


何かヤバイ属性が発現しつつあるような。


「蛟龍紋って確かウチが前世で三百歳くらいの時に出た文様だよねェ」


また光ったりすると厄介なのでサ〇ンパスを張ってその上を包帯でグルグルと縛る。


お願い、トラブルになりませんように。




 翌朝、登校するとカッチンが涙目でしがみついてきた。


「リオちゃーん。もう大丈夫なのー(泣)? 死んじゃわないー(泣)」


ミクリンやニッチも集まってくる。




「アハハハ、ウチ頑丈にできてるみたいでもう大丈夫だから」


「過信しちゃあいけないぜ。俺、見てたけど受け身も取れずに後頭部から一気に行ったじゃん。絶対死んだと思ったね」


男の声に驚いて振り返ると北野君が話しながらこっちに歩いてくる。


爽やか系のイケメンスポーツマン、卓球部員だけど。


卓球部では期待の新人らしい、卓球部員だけど。


卓球部員だけどクラスの女子の人気を二分している北野君がウチに声をかけてくる。


(別に卓球部員に含みがある訳じゃないんだよー。)


うちのテンション爆上がり。




「そうだぜ。バレーボールと一緒に跳ね上がるんだもんな。血の気引いたぜ」


いきなり頭の上からイケボが響いてきた。


クラスのイケメン二巨頭のもう一人。


青山君だった。


「痛いところとか無いのか?内出血なんかで後から痛みが出ることもあるんだぜ。あんなコケ方したら障害が出たり死んだりしてもおかしくないんだからな」


青山君は北野君ほどの派手さは無いが、面倒見が良くクラスでもリーダー格。


成績も学年上位でラグビー部員の細マッチョ。


イケメン二人から声をかけられているウチ、ナニこのシチュエーション。


来たの?! ついに来たの? ウチのモテ期到来?


「お前、内出血とか頭蓋骨陥没とかしてないか?」


「ヨシ、それじゃあ俺が見てやる」


驚いて見上げると、二人の大きな掌が四つ頭に乗せられた。


そして二人に頭を捏ね繰り回される。


「アワワワワワワワ」


頭に血が上る。


思考力が低下する。


「クックックックッ。左腕が疼く」


左腕の蛟龍紋が疼きだした。


腕が熱を帯びて、薄ボンヤリとヒカリ始めているのが服の上からでもわかる。


「「エッ?」」


「アワワワワ、なっ何でもない。おぉっお願い。やめれーぇ」


慌てて蛟龍紋を右手で握り、二人の手を払おうとしたとき。


『ガッシャーン』


南側のベランダのガラスが一枚砕け散った。


ゴメン、なんか出た。


左の掌から、ナンか出てはいけないものが出た。


そのナンかは真っ直ぐベランダの窓ガラスを貫き、ベランダに止まっていたカラスを巻き添えにして撃ち落とした。


クラスの全員が凍り付く。


ウチのテンションは急降下。


血の気が引き、全身からイヤな汗がほとばしる。


その凍り付いた状況から真っ先に回復したのはクラス委員の龍崎だった。


彼女はスタスタとベランダに出ると、眼鏡の端をクイッとあげてカラスを掴み上げた。


「犯人はこの馬鹿ガラスの様ね」


その一言でクラスの空気が一気に緩む。




「アーシはてっきり、莉凰がナンか出したのかと思った」


「ニッチ! ナンかってなんだよ(怒)」


「決まってんジャン。男日照りでほとばしったんじゃね~の」


「ハイ、あんた下品すぎ。みんな引いてるから」


ミクリンのチョップがニッチの頭を打つ。




「カラスは死んじゃったのかなあ(泣)」


カッチンが泣きそうな顔で言うと、龍崎の手の中のカラスがいきなりバタつき始めた。


「キャー」


龍崎が慌てて手を離すと目を覚ましたカラスは彼女の頭にキックをくらわして飛び去って行った。


それを見て青山君も北野君もベランダに飛び出していった。


結局 龍崎のおかげで、ガラス破損はカラスのおかげ と言う事で一件落着。


ウチの腕の蛟龍紋もクラスのみんなも平静を取り戻した。


みんなでガラスを片付けながら、偉そうに指示を出す龍崎に感謝の呪いを込めた熱い視線を送っておいた。




 朝のホームルームで割れた窓を段ボールで補修した後、一時限目の授業が始まった。


しかし授業に集中できない。


いつ又蛟龍紋が暴走するかもしれない。


多分興奮状態になると制御が効かなくなるのだろう。


対策が必要だ。


説明書をよく読んで使いましょう。


人や動物に向けて発射してはいけません。


顔に向けて覗いてはいけません。


それから安全装置も必要だ。


二時限目の始まる前に急いでトイレに行くと、蛟龍紋に貼ってあるサロンパスの上にマジックで封印の為に聖天の印を記入する。


蛟龍紋は聖紋といえども大きな威力はないので、この程度なら聖天の印で封印できるだろう。


しかし次々と聖紋が復活しだすと厄介なことになりかねない。


どうにか対策を考えなければと思案しつつ教室に戻るウチを、陰で見つめる視線にその時は気付かなかった。


二時限目の間中、誰かの視線を感じた。


授業中にキョロキョロする訳にもゆかず誰の視線かわからない。


昨日から急に感覚が過敏になっているのだが、聖天の印のおかげでそれも抑えられてしまった。


北野君か青山君か、それとも他の男かなあ。


分からないと気になるもので、封印を解こうかと迷ってしまう。


二時限目・三時限目は左手の包帯を触っては手を放し、を繰り返してばかりで時間が過ぎていった。


三時限目の授業が終わると龍崎がやってきた。


「ねえ、安藤。昼休みちょっと話があるんだけど」


「エッ? 何か用事?」


「いくつか聞きたいこととかあるから、昼ご飯が終わったら時間を頂戴」


龍崎は言うだけ言うとサッサと席に戻ってしまう。


何だろう昼休みに聞きたいことって?

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