第2話 九月の空は青く晴れて

『バカヤロー、ヤローヤローヤローー』


 頭の中でリフレインが響く。


「グワーー! 勇者! ブッコロス!!」


 ウチは叫びながら飛び起きた。


「リ、リオちゃん。大丈夫?!(泣)」


「エッ? アレ? エッエッ? ナニ?」


 涙目のカッチンに抱き着かれて混乱して変な声をあげてしまった。


「ブッコロスって、不穏当な発言だねえ」


 ミクリンが冷静に突っ込みを入れてきた。


「リオちゃん、心配したよー(泣)。死んじゃうかともったよー。どこも痛くない?(泣)」


 そう言いながらカッチンが私な頭を捏ね繰り回す。


「バレーボール踏んづけて脳震盪って、チョーウケるんですけど」


 ニッチが呆れ顔で言う。


「話だけ聞けばコミカルに聞こえるけど、目の前で見ると笑えないよ。あたし血の気引いたもん。本当に死んだかと思ったよ」


 ミクリンがニッチを諭す。


「カッチン、心配してくれてありがと。ちょっと頭痛いけど、ウチはもう大丈夫だから。ミクリンとカッチンがウチを運んでくれたんだ、サンキュー」


「莉凰の着替えとカバン持ってきたし。あんたの家にも連絡入れたら迎えに来るって言ってたし、それまで休んでなってセンセーも言ってたし」


 ニッチは悪ぶっているけど面倒見は良い。


「それじゃあ、授業有るからあたし達行くね。ゆっくり休んどきなよ」


 ミクリン達が教室に帰った後、保健室に残されたウチはまだ混乱したままだった。


 ウチの前世は封印された邪神龍だったんだ。


てっ、ちょっと、ちょっと待って、ナニ? この厨二病な設定。


って、設定て言うなし。


そもそもウチは邪神龍じゃなくて青龍だし。


聖なる力で山と森を守ってきた由緒正しき青龍だし。


邪神龍なんて森を荒らす人間が勝手につけた名前だし。


 って、ナニこの痛い記憶は。


頭が痛い、精神的な意味で。


イヤ、後頭部ぶつけてるから生理学的な意味でも痛いんだけど。


700歳で巣立って、あの森に来て900年。


そろそろ一人前になったから、カッコいいイケメンの雄龍でも見つけてとか考えていた矢先に封印だもんなあ。


初体験どころかキッスもまだだったんだぞ。


ウチの青春を返せよ、糞勇者!!


青龍なのに青春が無いなんてシャレにも成んないぞ。


そもそも世界の全生命道連れにしてウチ一人を封印ってナニ。


バカなの?


死ぬの?


って言うかもう死んでるけど。


ウチはたった一人で五千万年封印されたんだぞ。


せめてつがいで封印しろやワレー!


もう世界に雄龍がいないんだぞー。


まあ、今更雄龍に壁ドンされても困るんだけどね。


魔力的にも物理的にもね。




 あれ?


ちょっと待って。


記憶が戻ったってことは、封印が解けかけてるの?


イヤ、それ困るんですけど。


マジで、マジ、マジ。


ウチ、タダの彼氏いない歴16年の女子高生だし。


初エッチはおろか初キッスもまだだし。


通算50001616年未経験だし。


彼氏いない歴50001616年ってウチはどこの閣下だよ。


ナニ、この悲しすぎる現実。


ウチが何をしたっ!


まだ、してないわ!


いますぐでもしたいわ!


荒み切ったウチの心には、死に際の勇者のドヤ顔が浮かんできた。


憎い、勇者どもが憎い!!


涙ながらに窓から見上げた9月の空は澄み切って青く晴れ渡っていた。

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