第6話 封印されし邪神龍(偽)-1

 岡部安奈の家は郊外の結構デカイ一戸建てだった。


インターホンを鳴らすと、


「こんにちわ。一昨日連絡した同じクラスの龍崎ともう一人です」


『ハーイ、今開けますね』


岡部の母親らしき女性の声が返事をする。


「オイ! もう一人ってナニ!」


「イヤ、同類と思われるのもちょっと恥ずかしいかなぁッと」


「アンタが巻き込んでおいてナニその言い草は」


「シッ、来るよ」


ボブカットのスレンダーな女性が玄関の扉を開いた。


「ごめんね、龍崎さん。何度も来てもらって」


「いえ、近くに用事もあるしそのついでですから」


「青山君の家この近所なの?」


「ウルサイ、ダマレ」


「ナニそのリアクション。図星でやんの」


「ウルサイ、コロスゾ」


岡部のお母さんがウチを一瞥する。


「あら、今日はお友達と一緒?」


「ええ、安奈さんと話が合うかと思って」


「合わねえし」


「安藤、私待ち受けを今日撮った写メに変えようかと思うんだぁー」


「ウチ、安奈さんとは結構仲良かったんですよぉー」


「まあ、そうなの」


安奈ママは不審げな視線でうちをチラ見すると、


「安奈は部屋に居るのでどうぞ上がって頂戴」


そう言ってウチらを先導して二階への階段に向かう。


「お邪魔します」


「お邪魔っす」


靴を揃え直して急いで後を追いかける。


「安奈、お友達が見えたわよ。入ってもらうわね」


そう言うと返事も待たずに部屋のドアを開けた。


「どうぞ、ごゆっくりね」


そう告げると安奈母はさっさと下に降りて行った。


「あのお母さん神経質そうでナンかヤダ」


「まあ、そうだねぇ」


「さっきの写メ消せよ」


「岡部さん久しぶり」


「無視すんな」


「岡部さん、元気してた?」


「千年の齢を持つ僕にとって八日など瞬きの如きもの。久しくなどないわ」


ヤバイ、僕っ娘だ。


「岡部さん元気そうで何より。今日は安藤も来てくれたんだよ」


「無理やり連れてこられたんだよぉー。お前にな」


「岡部さん入るわね」


「無視すんな」


カーテンを閉めた部屋の中でパソコンのモニターに向かって彼女は座っていた。


「安藤って、あの安藤さん?!」


驚き顔でモニターから顔を上げるその瞳は赤と青、唇はパープルのリップグロスだ。


アチャー、ヤラカシてる。


この娘メッチャ、ヤラカシてる。


「安藤、良かったね。眼、お揃いだよ」


「お揃い違うわ! それから写メ消せよ!」


「それから、岡部。あのってナニ? あの安藤さんってどういう事?」


「なんでもない。僕はそのようなことは言っていない」


「言ったし、ハッキリ言ったし」


「それはねぇ、安藤。学年一の突っ込み女って事だよ」


「なんやねんそれ! だれがゆうとんねん! 学年一って三百人の頂点か! いつコンテストやってん!! 本人おらん間にきめるなや!!」


「岡部さん、来週から出ておいでよ」


「サラッと無視すんな」


「僕は岡部ではない。我が真名は邪神龍リントブルム」


「お前もか、岡部」


「もうすぐ文化祭だしさぁ。クラスの出し物も決めるし」


「それより邪神龍に突っ込んでやれよ」


「十六年前に封印されし僕の力が満月の今宵解き放たれる」


「十六年って短いな! それに今日は新月だし!」


「割とベタだけどクラスで喫茶店とかやってみたいよね」


「お前ら会話する気ないだろう! 三人居て一切会話が成立してないんですけど!!」


「ネッ、安藤もいるし爆笑ものだよ」


現世うつしよのお笑いも良いかもしれない」


「誰がお笑い芸人だ! てっ、ウチの話題だけ会話が成立するんかーい!」


「それにさぁ、岡部」


「岡部など居ない。僕は闇の血族、邪神龍リントブルム」


邪神龍という言葉にイラっと来る。


その言葉を聞くと50000000年前の事を思い出して怒りが爆発しそうだ。


「だから、邪神龍なんていない」


「違う。僕はリントブルムだ!」


「安藤―。ちょっと待ってよ」


「ウルサイ。邪神龍なんて人間が勝手につけた名前だよ! ウチが水龍として900年守り続けた山河と森を身勝手に荒らしまくって、あげくの果てにウチの封印と引き換えに世界を滅ぼした糞勇者どもが勝手に呼んだ名称なんだよぉ(激怒)」


あの糞勇者のドヤ顔がちらつく。


「エッ」


岡部の眼が見開かれた。


「安藤、落ち着きなよ」


「放せ! 理性も自重もへったくれもないんだよ。ウチら龍族は大地と命の調和と安寧を守って穏やかに暮らしてたんだよぉー。それをあの糞野郎どもは己の欲望のために森を焼き魔獣を殺し、あげくの果てに人間同士の争いのために大地をえぐり清流を穢し、魔石を貪りつくしやがって」


「安藤にもともと理性はないし」


「ウン、でも自嘲はした方が良いかも」


「岡部!字が違―う。素に戻って嘲笑ってんじゃねえよ」


「イヤ、素に戻ってないよ。僕は邪神龍…」


「だから、邪神龍って言うな! 水の聖龍だ! それに龍族に名前なんてないし。そんなもの無くても常に自然と大地の中に厳然と存在するものだったんだ。それを、それをあの糞どもが穢し尽くしたんだ。判ったか岡部!」


「ㇵッ、ハイ」


「そういえばリントブルムも水龍だったよね」


何だよ龍崎、誰得の豆知識だよぅ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る