鶏の唐揚げ2

 社内販売の唐揚げ弁当は、売り切れの事も多い大人気商品だ。雲雀もかつて一度しか食べた事がない。何とそれが、今日は運よく手に入った。さっさと自分のデスクに戻る。同階の食堂や階下のカフェテリアでもいいが、昼時なので混雑しているだろう。騒がしい場所より、静かですぐに仕事に戻れるデスクがいい。蓋は透明なので中身が丸見えだ。

 蒸し野菜、出汁巻き卵、黒ゴマの掛かった白米に、その隅に詰められた赤紫の柴漬け、そして狐色の唐揚げ。作られてから時間が経っているはずだが、弁当屋の気遣いで軽く温め直されている。

 手を合わせ、早速鶏の唐揚げに箸を伸ばす。やはり揚げ物はなるべく時間が経たない内に食べてしまいたい。一度冷めたので衣はサクサクとはいかないが、薄い衣は軽く砕ける。弾力があるのに容易く解ける肉の繊維、滲みだす肉汁。醤油とニンニク、生姜でしっかりと味付けされた鶏の味が口の中に広がる。

 すぐさま白飯を頬張ると、米の甘さが鶏肉の旨味を受け止める。罪深くて、素晴らしい。合間に副菜を挟みながら、雲雀は弁当を食べ進めていく。

 一口サイズに切られた蒸し野菜は、それその物自体の味が醤油ベースのドレッシングとよく合う。インゲンは柔らかく、人参は甘く、ブロッコリーは瑞々しい。出汁巻き卵は口の中でふんわりと崩れ、しっとりした断面から染み出す出汁が、卵のコクと混ざって優しく舌を撫でる。柴漬けも白飯によく合う。

 あっという間に食べきってしまってから、雲雀はペットボトルの烏龍茶をちびちび飲む。売り切れるのが速いのも当然と思う程の味と満足感である。

 鶏の唐揚げを見かけるたび、妻の事が頭をよぎるので毒されているなと自嘲した。ついでに漬け物は苦手だ。

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