第7話……レベルの味

 連れ出されて騎士団の外へ。


 パラディス帝国は広く、人の往来も多い。よって、有名人であるベリルが一歩でも歩くと大注目を浴びる。



「きゃー! 騎士団長様よ~!」「おぉ、今日もお綺麗ですね」「美しい……美しすぎて目が、目があああああ」「心臓が壊れるぅ!」「結婚したい……」



 たった一歩でざっと十人に視線を送られている。凄いな。これ程、人気があるとは。隣の俺はまるで視界に入っていない。



「行こう、エド」

「行こうって何処へ?」



「もちろん、侯爵様に挨拶をしに行くのだ」

「侯爵様って……まさかクソ親父に!?」


「そうだ」


「そうだ、じゃねぇよ!? 俺は追い出されたんだぞ。もうハークネス家の屋敷には帰れないよ。それに俺自身も帰るつもりはない。この【レベルイーツ】の力で見返すまではな」


 そうだ、その為にも俺は……このクリスタル騎士団でまずは身と心を鍛え上げ、レベルアップしていく。それでいいじゃないか、うんうん。


 ――などと一人納得していると、



「おい、てめぇ!!」



 とまぁ、いきなり俺は胸倉を掴まれたのである。何事ォ!?




「……えっと、俺なんかしました?」

「おめぇ、ベリル様の何だよ!? あぁん!?」



 背の高い男が鋭い目つきで俺を睨む。というか、胸倉強く掴みすぎだろ!! 息ができねぇだろうが……!!


 ぎゅうぎゅう掴まれ、マジで息苦しい。

 俺の体すら軽々と持ち上げられ……苦しさ倍増。やべ、意識が朦朧もうろうとしてきたぞ。



「ぐ、ぐるじい……」


「いいか、ベリル様に相応しいのはこの俺様だ。てめぇみたいなガキじゃ釣り合わねえんだよ!!」



 だから、そんな胸倉をぉ!!



「やめろ」


「あぁん!? ……って、ベリル様」



 大男はいきなり手を離す。そのせいで俺は地面に転がって落ちる。……頭を打った、痛い。



「大丈夫か、エド!」

「へ、平気さ。これでもLv.334なんだぜ。余裕余裕」



 ちょっと痛かったけど、ほんの少しだ。ダメージ換算にすれば『3』って所かな。つーか、この男はなんだ!!



「……チッ、案外タフな野郎だ。おい、ヘボ太郎! 俺様はマックスっていうんだ。ベリル様に相応しい男だ! おめぇは騎士団長の隣になんか歩いているんじゃねえ!!」


「誰がヘボ太郎だ! お前なんかジャイアントオークのクセに!」


 と、俺が言い返すとマックスはブチギレた。



「んだとおおおおおおお! てめえええ!!」



 おっと、拳が飛んできた。

 短気なヤツだなあ……そう思いながらも俺は【レベルイーツ】を展開した。食卓展開!


 ほうほう、あの大男マックスは『Lv.25』か。

 どうやら冒険者のようだが……そのレベルを喰ってやる! これで男は平和的におしまいだァ!!



 世界を反転させ、俺はヤツの『レベル』を捕食者プレデターの如く奪う。そして、黒々としたモノを口に含み、食す!




『おえええええええええええええ……ッ!!』




 まず! クソまっず! あの男のレベルまずうううううううううううううう…………うおえええええ……。なんだこの泥水ウ●コみたいな味。



 やっぱり、女の子じゃないとダメだな。



 泥水ウ●コ味のレベルを涙目になりながらも何とか平らげ、俺は視界を速攻で戻す。




「!? な、何をした。まあいい、殴り殺してやる!!」



 ブンっと右ストレートが飛んでくる。

 ベリルが俺を庇おうとするが、させなかった。レベルの高い俺の方が動きがよく、彼女の壁となる。




 ――ガンッと顔面に拳を食らう。




『ボギリ……ッ!!!』




 拳の砕ける鈍い音が鳴り響く。




「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」




 マックスの右拳は、どうやら粉砕骨折し――更にその衝撃で全身を複雑骨折してしまったようだ。何故か両足も明後日の方向を向いていた。いくらなんでも骨折しすぎだが、自業自得だ。



「……この男、エドを殴ったら拳が粉々になって……あらゆる部位が折れてしまったぞ!! まずいぞ、誰か、誰かヒールを使用できる者はいないか!」



 そうだな。彼の自爆とはいえ、いくらなんでも大ダメージすぎて可哀想だ。



「はい! わたくし、初心者ですけどプリーストです!」



 めちゃくちゃ清楚な少女が名乗りを上げた。……おぉ、どこかのお嬢様みたいだな。シスター服がとっても似合っている。


 彼女はマックスの前で腰を下ろし、両手を向けた。




「ヒール!!」




 赤いオーラがマックスを包む。



 そして――





『ドォォォォォォォォォォオォオン!!』




 ヒールが大爆発しちまった。




「あああああああああああ、マックスがああああああああああああ!!」

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