第21話 キラーズ!キミカ奪還そして脱出‼

 2人は縦に重なり1人になり、指笛を鳴らした。


「ピィュ〜フィ!」


次の瞬間「ガッチャン!」とブレーカーが落ちて暗闇が広がって来た。


「キュゥ〜ン!ビィゥ〜ン!キュゥ〜ン!ビィゥ〜ン!キュゥ〜ン!ビィゥ〜ン!」とギターの弦を張る様な音の後に

「ザァッ!ザァッ!ザァッ!ザァッ!ザァッ!」と何かが擦れる音が響いた。


この暗闇に目が慣れて来て、前に立つ男の姿だけはかろうじて分かった。


「洋平!…スマホまだ若々しいバッテリー大丈夫か?」


「まだ50%チョットあるけど!」


「ライト付けてくれ!」


ライトの点灯したスマホを受け取った町野は正面を照らした。


青い拳法服を着ていた男はそこにはいない!


姿見の布と黄色く光るガラス玉によって幻を魅せられていた!


その後ろ側にシルバー?パープル?

いや、ピンクに近い糸の様な物が張り巡らされ輝いていた!


「何だよ、これ!」と洋平が叫ぶと

「ワタル!これ何だかわかるか?」


「これがあいつらのいつもの手!

ピンクに見えるのはレンゲツツジの花の成分を濃縮させ染み込ませてある。

だから体に傷を付けそこから染み込めば毒素が身体中に回り皮膚が壊死して行く!

そして糸もステンレス製カラス防除用ラインテグスを用いて0.3ミリとカミソリの刃先と同様にこすると皮膚は切り込まれていく。

罠にはまったんだよ!」


「あいつらは何処へ行ったんだ!」


「あの暗闇になった瞬間、あの女と護衛2人そして洋平のお姉さんは後ろの暗幕の裏から地下へ移動したんだろう!」


「あの双子のピエロは何処へ?」


「多分上にいる。空中ブランコだ!」と上を照らすと道着では無い深い紺色の全身タイツで2基のブランコに別々に座りこっちを見ていた。


「ホォーホッホッホッホ!」と笑いながら右側の奴が下がって来た!


するともう片方が天井付近、地上5m位まであがっていった!


「皆さん!前ばかり見ているから上にいる我々に気が付かないのであ〜る!

そして、後ろもであ〜る!」


振り返るとドアのある入って来た側の壁にも同じ網が蜘蛛の巣の様にかけられている。


町野が両手を前の床に付き

「そろそろ立ち上がるか!足が痺れて来たな!」と言うと一斉に前方回転で「ヒョイッ!」と回転しブランコを取り囲んだ。


「形成逆転だな!」と京がフェイスガードを外した。


「あらあら!顔色が悪くなって来た!最初っからか!」と仁志が言うと皆んな一斉に「ワッハッハ!」と笑い出した。


「兄貴!そろそろ交代だよ!」と上の奴の声に一瞬、目線が天井へ向けられた。


一歩前にいた京と仁志が後ろに飛ばされた!


公平は両側に居た2人の手を掴み後方の毒網へ飛ばされて行く体を引き戻そうとした。


町野の手首がこれ以上反り返らない限界点を超え指先から離れる…!


指先に2人の腕か微かにかかった状態で止まった!


仁志の後ろから腰に洋平がブロックし食い止めていた。


あのブランコに乗りながら体をひねり左足をムチの様にシナラセ頭部へ向かってジャックナイフが襲い掛かって来た。


2人共一瞬の動きにより危険を察知し後ろに下がっていた!


「もう少しであの口の悪いコ2人はやれたのに!」と言うとスルスルッと登り、次にまたもう1人が下がって来た。


「皆さん!お待たせしました。

まだご無事の様ですね!兄貴は僕と違い、控えめで優しい性格なので!」と言うとブランコの上に立ち上がりユラユラと漕ぎ始めた。


「お待たせしました!誰も待ってねぇーよ!」とブランコの揺れに合わせて、町野が先制攻撃の右足の横蹴りを高い位置でレバー辺りを狙い放った。


それを片足を後ろに上げ、残した左足を座椅子部分の後方面にずらし体も腰を引きギリギリで交わしその勢いでブランコをより高く振らした。


「残念でした!ではそろそろ始めますか!」


後ろに大きく引き加速して向かって来る!


何が起こるんだ!とその時、黄色い物が左から町野の前を横切った!


「パチンッ!パチンッ!パチンッ!ブスッ!パチンッ!ブスッ!」と暗闇の中、ボーガンの矢が真ん中に居た町野を目掛けて撃ち抜かれていた!


前でその矢を蛇の剣で叩き落とし皆んなを守りきった!


「余計な事を!蛇のボウズは下がってろ!」


背中から次のボーガンが用意され様とされていた。


ワタルは膝を付き町野が支え、見ると左腕を貫通し、腹部にも矢が突き刺さっていた!


「し・・・失敗しました!

気を付けて下さい。

あの矢にも毒が塗られています。

大分痺れて来ました。俺は毒蛇じゃ無いんで!」


「シッカリしろ!ワタル!」


「あと、前と後ろをあの毒糸で隠したのは暗幕を開けさせない為だから!

次また来ますよ!

真下より奥へ潜って下さい!

一番狙えない場所を探して!あと、さっきの抑えた時にカカトを糸に擦っちゃって!」


「皆んな動け!」1人だけその場に残っていた!京だ!


「早く来い!」


「やれやれ!死にたいのがもう1人いるとは!」


「ブスッ!ブスッ!シュー!バァリン!バァリン!」


ピカァッー!と光が差し込み、割れた窓から吹き込む風が暗幕を揺らし光の通り道を作った。


そこからより明るい光が室内や床を照らし、そこには 大きくなったり小さくなったりする首の無い影が写っていた。


「大丈夫か!乱(ラン)!」


返事は帰って来ない!


「心臓は外したから命には別状ない筈だよ!」と京が上を向き伝えた!


右肩と腹部を貫通し矢は止まっている。


後は後ろのガラスへ向かった矢が左耳をかすめたのだろう。


血が流れている。


この矢が意識を無くし気絶した原因だった。


上でロープを結び固定してから、ゆっくりと弟側のロープを掴み降りて来てロープを持っている手を掴み「乱!オイ!乱!俺だ!分かるか!」と声を掛けた。


「・・・エッ?・・・眩しい!」とゆっくりと目を開け首を振り


「兄貴!あいつらに最後のトドメを撃つんだ!ボーガンは?俺のボーガンが無い!」と周りをキョロキョロと薄目で見回していた。


「蘭!俺達の負けだ!もう終わったんだ!降りよう!」とまず自分が降りて両手を伸ばし傷んだ弟の手を掴み下に降ろした。


「俺達の完敗だ!もうこれ以上闘えない!

俺もさっきのあんたの蹴りで肋が折れている!弟もこの通りだ!」


町野も頷き・・

「そうか !ワタルと弟の方を何とかしないと体に毒が広がる!」


「解毒剤がある!ただし、裏の地下室に!

その為にはこの糸を切り落とすしか無いんだ。」


「だったら、さっさと金バサミか何かを持っているだろ!」


考え込んで答えた。


「あの女!恵子が持って行ったんだ!

俺達がこうなる事を予測していたんだろう!」


「あのボーガンで叩き切れないか?」


「無理だ!あのステンレス製の糸はミクロの繊維が織り込まれている。」


ボーガンを掴み「やってみます!」と仁志が力任せに振りかぶった!


「待ってェ〜!」とピエロの兄貴が叫んだ!


「分かってると思うけどあの糸に触れるとあなたの体にも毒が回る!

この手袋を付けて下さい!」と自分のを取り仁志に手渡した。


その手袋をはめボーガンを振り下ろした。


「ビィゥ〜ン!」と言う音が響きビクともしない!


それだけではなく、ボーガンの枝の部分にまで斬り込んで抜けなくなっていた。


その光景に目も向けず町野だけが一点を見つめていた!


「俺達の体の厚みはどれ位ある?」


皆んな周りを見回しながら…「20〜30センチ!」


「そうだよな!ピエロ君達!…あ!悪かった!キラーズのお2人さん!」


「ああ!それと俺は錯(さく)!弟は乱だ!あんた何をしようとしてるんだ!

あの硬い糸はホッチキスやタッカー、釘打機の様に壁や床にがっちりと先が打ち込まれ固定されている。

あのネイルガンが無いと抜こうとしても簡単にはあの糸に触れない!」


「そのネイルガンは何処なんだ!」


「それも恵子だ!それとカッターなども無くなっている。」


「鳥かごの中に閉じ込められたって事か!」


「先生!さっきの体の幅の事だけど!何か考えがあったんですか!」

「やって見ないと分からないが打ち込んだ床・壁 ・天井、材質で木・コンクリート・鉄、どれが引き抜き易いか考えた。

木の床部分を抜き持ち上げる事が出来れば僅かだが隙間が出来る!」


「町野さん!具体的にはどうやるの?」


「あれとあれだよ!」と糸に刺さったボーガンとブランコを指差した!


その後、先ほど糸が刺さったボーガンの枝の部分から横に揺すったり引っ張りを繰り返しながら引き抜き、下から二番目の糸の下からもう1度仁志がバカヂカラでアッパーカットの様に叩き付け2本とも糸をめり込ませた。


2人はケガで登れないから京が登り結んで固定してあったロープを外し、ブランコの左右のフック部分を通し結び三角形に人が座れる高さで固定した。


そこからロープを1本で繋ぎ、長く伸ばし、

それを天井のフックを通し下へ降ろし2本のボーガンのトリガー部分の輪へ通し結びボーガン自体も胴体部分もグルグルと巻き付け固定した。


「先ず仁志が乗れ!右に洋平!左は作兄!

バランスをとって!まだダメか!

京!仁志の後ろに乗って!」


「ギリ・・・ギリ・・・」


公平はロープでグルグル巻にしたボーガンの中心を下から蹴り上げた!


「ギリ・・・ギリ・・・ギリ・・・ギリ・・・」と軋む音がした。


「京と洋平!あと作兄!3人共、俺の蹴りに合わせ一斉にジャンプで体重をかけてくれ!分かったか!」


3人とも頷き町野の動きをジッと見ていた。


「じぁあ、いくぞ!3・・・2・・・1・・・でドン!だからな!」と言うと3人は勢い良くブランコに飛び乗った!


「待ってよ!先生!」


「オイッ!」


「頼むよ!父さん!」洋平の一言で、一瞬その場が静まった!


「ガリッ!ガリッ!」仁志がその空気が読めず、


「洋平!父さんって!コーチ!どう言う事?」


洋平も頭を掻きながら恥ずかしそうにしている。


町野も「あいつは俺の息子だ!なぁっ!洋平!」


「そうだね!父さん!」


皆んな一斉に「えぇ〜!」と反応され、町野も照れ臭そうにボーガンのロープを蹴り上げた!


「ガァン!・・・ダァン!ダァン!ダァン!ダァン!ダァン!」と5本が引き抜けた!


「よし!もう一回だ!いくぞ!」


「ガァン!・・・ダァン!ダァン!ダァン!ダァン!」と新たに両側の2本づつが引き抜かれ、最初の5本が上にあが5cmだけ上がった。


「仁志!手袋かしてくれ!」


手のひらとこうの部分が厚く指の部分は動かしやすい皮で出来ている手袋をはめ5本の糸を上に折り曲げてみた!


町野の力でもそり上がらせるのがいいところで5cm上がり合わせて10cm位で誰も通れない!


「町野さん!これ1番下の糸、少し緩んだんだったら抜いちゃえば!」


「どうするんだ!」


「出来るかどうか分からないけど、ボーガンで両サイドの壁に突き刺さった糸の根元を撃ち抜く!

それでも抜けなければ矢を糸に絡ませ撃ち抜く!

矢尻が引っかかり引っ張る力で糸が壁から抜けると、上手く行けばだけどね!」


「洋平!いい考えだ!さすが俺の息子だ!」と指を指した。


「誰がやるかだ!」


「町野さん!俺にやらせてくれ!」とピエロの作が言い出した!


「・・・ん!」一端は考えた町野だったが


「作兄!が1番的確に的を狙える筈だ!任せるよ!」


「了解!」


「そうしたら、京が代わりに左に乗ってくれ!俺が後ろに乗る!」


乗り換えると「ブチィッ!ブチィッ!」と床の糸がまた2本抜けた!


「作兄!いつでもいいぞ!」


「行きます!」


「ビィゥ〜ン!カンッ!バァン!」とコンクリートに弾かれた!後、矢は3本!


「もう一つのやり方を試して見ます!」


「頼む!」と町野が言うと糸に近づき、振り返りボーガンをブランコの方に向けた!


「ビィゥ〜ン!」と町野の顔の横を通り暗幕の裏側から町野達を狙うナイフがキラリと光った。


見事に胸を貫き、前に倒れ込んだ。


方向は変わったがそのナイフは飛んで来た!


「危なかった!作兄!俺を狙ったかと思っただろ!皆んな!大丈夫か!」と後ろを振り向き町野が「あいつ誰だ!」と言うと


「ケイン・シマダですよ!コーチの肩書きで、威張り虚勢を張っていますが、ただのコバンザメ!何にも役に立たない奴だ!」


「作兄!次の矢を頼む!」


あと2本になった内の1本を矢先に糸を1周巻き付かせ、ブランコから一旦、皆降りて貰い壁と反対方向へ向け狙った。


「じゃあ!行きますよ!」


「ビィゥン!ドゥンッ!タァゥン!タァン!タァン!タン!タン!タン!」と矢は床に落ち転がった。


「どうだ!」と皆がそこに近づいて…


「ぬ…抜けた!」手袋をした町野が糸を外して行く。


「よし!30cmはある!ここからなら抜けられる!」

「作兄!良くやった!京と洋平と錯兄は俺の後に続け!仁志は2人と残ってくれ!

直ぐに解毒剤と金切りバサミを持って戻る!」


「ダメだ!・・・町野さん!・・・俺も行けない!」と作兄が苦しそうに言うと倒れ込んだ。


その背中にはさっき投げられたナイフが突き刺さり大量の血が流れていた!


「仁志!作兄もワタルと弟の方と同じくだ!それぞれ良く見ていてくれ!急いで戻って来る!」と言うと糸をくぐり抜け暗幕の前に倒れている男の横を通り裏のドアを出た!


そこから地下へ階段を降りて廊下を進んだ。


左に曲がり正面にさっきの黒服の男2人が立っていた。


「そろそろ来る頃だと思ってました。」


パッと京が前に出て臨戦体制をとった。


「待て!京!こいつらは敵じゃない!」と町野が京の肩を抑え前に出た。


「元警視庁警備部公安課町野公平さんですね!

我々は国際刑事警察機構に所属し、訳あってここに侵入しています。」


「インターポールか!察しはついている!

そこは勝手にやってくれ!俺は娘を助けに来ただけだ!トモカは何処だ!」


「中で眠らせてある!あの女もだ!あなた達のお蔭で、ペラペラと喋ってくれた!

もう少しだけ利用てし、8月にあの国の大使館主催の船上パーティーがある。

それまでに証拠を掴んでおきたい事がある!だから、あなた達はあの娘を連れて早く脱出した方がいい!」


「・・・レッドノーティスか!」・・・ ・

a Red Notice〔国際刑事警察機構が加盟国の申請により発行する通知。

その国で逮捕状が出ている被疑者などについて人物を特定し、発見したら手配元の国に引き渡す方向で協力するよう各国に要請するもの。red noticeとも表記される。〕

2人はそれ以上は話さなかった。


「これを取りに来たんですよね!」と工具が入った黒いケースとジュラルミンのケースを手渡して来た!


「この中に解毒剤が入っています。

10ccづつ注射して下さい!それだけです。」


「傷の治療は街の病院へ行った方がいい!」


町野はトモカを背中に担ぎ、また廊下を歩き出した。


振り返り「ありがとう!あなた達も気をつけて!それと一つだけ頼みがある。

森の向こう側にある地下施設の事だ!

あの研究所と青い魚体となってしまったマリさんの事は明らかにしないで欲しい!」


「なぜですか!」


「家族愛、夫婦愛の哀しい結末が産んでしまった悲劇がそこにはあるからだ!」


「・・・おっしゃる事は分かります。

ですが・・・それがこの事件の始まりなので見過ごす訳にはいかないんです。」


「ん・・・そうだな!」と言って解毒剤を待つ道場へと向かった。


ケースからネイルガンを出し、逆回転にして糸を通しスイッチを押すと、糸は壁から引き抜かれた!


キミカを床に寝かせ、自分の上着を脱ぎ掛けると指示を出した。


「京と洋平は糸を抜き続けてくれ!

抜いた毒糸にも気を付けろ!

俺は解毒剤でワタルと乱の手当をする!

仁志!手伝ってくれ!」


全ての毒糸を抜き終えるとワタルの肩を京が担ぎ、乱の肩を洋平が担ぎ、作を仁志が背負い、キミカを町野が背負い出口へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る