第6話 証人の死!しかけられた罠‼

 10月9日朝方に娘が生まれた。


神藤先生!香織の父親とは今までも行き違いになっていたが夏祭りの前に顔合わせをして少しだけ話を交わす程度でそれ以来、久しぶりに香織と子供がいる病室で顔を合わせた。


何かお互いの胸の内には表裏の疑念があるのだろう。


あえてこう伝えた。


「お父さん、農協の仕事を続け、家族と共にこの地に骨をうずめる覚悟が出来ましたので、もう一つの役目は今月20日で終わります。宜しくお願いします。」


「そうですか!」の一言だけ帰って来た。


20日を迎え、後任の人間が自分の監視を含めこの村に来ている筈だった。


始め俺にもそれが誰だったか分からなかった。


公香(トモカ)も3ヶ月目に入りわ毎日成長する姿を見せてくれていた。


職場には廊下の奥側にある休憩スペースの長椅子がある。


そこに座りタバコを吸っていると新入社員の子が通りかかった。


みんなからマスコットみたいに可愛がられている子だ。


「タバコの吸い過ぎは注意ですよぉ〜!」と横に座って来た。


「かっわいい!娘さんですか?」


「高野さんに似てますね!よく見せて下さいよ!」と言うので


「どうぞ!」とお宮参りをした時の写真を見せたのは東京の短大を卒業して最近入社した総務課の横山みなみ20歳。


高野と言うのはもうしばらく前に亡くなってしまったが幼い頃にこの村に住んでいた母方の祖父の名前を名乗っている。


「ふぅ〜ん!メロメロなんだ!じゃぁ私が入るスキなんか全くない訳だ!ざぁ〜んねん!」


「バカ言うなよ!俺独身じゃないし、奥さんが居るんだからな!」


「マッジメなんだ!それとも奥さんがそんなに怖いの!」


「からかうなよ!独身者は他にも居るだろ!澤木なんかどうだ!」


「つっまらないな!私男っぽい人がいいの!だから最初っから高野さんのファンだったのにくっやしい!」と言うと写真を返して来た。


みんなゾロゾロと帰り始めて廊下を歩く人がチラホラ出て来た。


彼女は「サッ!」と立ち上がると「休暇届の申請早めに出して下さいね!お疲れ様でした!」とガラッと人格を変えて事務所へ戻って行った。


今日は早めに上がるかと机の上を片付け事務所を後にした 。


 暮れも押し迫った 12月27日、車のフロントガラスとワイパーの間にノートの切れ端が挟まっていた。


「5年前の未解決事件と同じ日に起きたもう一つの事故により瀕死の重傷を負った若い女性がいた。豊子婆ちゃんに聞いてみろ!」と新聞の切抜き字でつづってあった。 


「きっとこんな事をするのは新任の公安にしか出来ない芸当だ!後丁寧な事にフロントガラスに左手の跡がしっかりと残っていた。」


「紙を挟む時に無意識に支えた指の跡だろう!しかも…!」


「俺に何かをさせようとするメッセージなのだろうと感じ取った。」


久しぶりに豊子婆ちゃんのところへ立ち寄って見た。


「ガラガラガラ」と玄関を開け美味しそうな出汁の匂いがした。


「豊子婆ちゃん!こんばんわ!」何回も読んだが出て来ない。


「グツグツ」と煮えたぎる音と「ガチャン!」とガラスでも割れた様な音がした。


何かがあったに違いないと「婆ちゃん!上がるよ!」と言い急いで台所へ向かった。


そこには明らかに後ろから首を刺された状態の豊子婆ちゃんが流し台によたれかかっていた。


脈を取り確認したがやはり即死だったのだろう。


「ガタガタガタ!」ガラス戸を握り斉藤さんが後ろに立っていた。


「何してるんだよ!婆ちゃんどうしたんだよ!」と俺を突き飛ばし「なんだよ!婆ちゃんどうしたんだよ!スーさんどうなってんだよ!何したんだよ!」と掴みかかって来た。


「斉藤さん!違うんだよ!俺がここに来た時にはもう婆ちゃんは死んでいたんだよ!」


「110番に電話をする。あんたがやったんだな!」


「違う!違うって言ってんだろ!」


「俺は豊子婆ちゃんに5年前の事件当日、他に瀕死の重傷を負った事故にあった人がいた事について教えて貰いたかったから、立ち寄っただけだ!」


「斉藤さん!婆ちゃんの手を見て!必死に掴みかかったんだよ!髪の毛を!」


「犯人は女だ!それもまだ若い!左利きの!」


「何故、そんな事がわかるんだ!」


「髪の毛の長さ。途中から切れずに抜けている。首筋に刺さったナイフの角度が少しだけ左に傾いている。」 


「斉藤さん!髪の毛だけ持って行こう!」


「何でだ!証拠隠滅するのか?事件解決する為なのか!どちらかだろう!」


「婆ちゃんはもう何も言えなくなっちまった。」 


「その事故にあった人とはたぶん……だよ。」


「噂になっていた。でもその後、飲み屋のホステスが酔って車にはねられたと新聞に出ていた。それも前田さんの息がかかった店のホステスだった。」


「この髪の毛を鑑定に出す。そして、真犯人を突き止める。いいですね!」


斉藤さんも、うなずいた。


「ガタン!」と物が落ちる音で振り返ると秋ちゃんを抱えた若菜さんが立っていた。


「きゃぁ〜!」と叫びうろたえて後ずさりしていた。


このまま、警察に行けば拘束され証拠は処分される。


そして事実は塗り替えられ殺人犯の汚名を着せされる。


だから逃げるしかなかった,。


その場を離れると常に携帯している封筒に切手を張り少し離れた隣町のポストに投函し昔の知り合いにその証拠を送った。


そして一旦、山梨から離れ八王子にて、ある人物と会う事にした。



1995年5月24日

 同期で俺と張り合える奴は他には居なかった。


東京都の警察官新人柔道大会準決勝で今井と始めて手を合わせた!


軽く勝ち進み調子に乗り余裕をかましていた俺をわずか1分で背負い投げの見事な一本だった。


後日、聞いた話だが前の試合で痛めた右手の指の腱が俺を投げた時に切れた為、決勝は戦えなかった。


代わりに出た俺が開始10秒で今井の得意技、背負い投げで一本を取り優勝した。


優勝のトロフィーは今井に渡した。


これをきっかけにつるむ様になった 。 

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