第4話 眠れる森!吸血生物現る‼
お母様の話は納得が出来た。
しかし恵子さんが姿を消したホコラと裏側に広がる森が気になったままだった。
森の反対側は村民の墓地を作り、各自の庭や周辺にあるお墓を移設し村営の墓地としたらしい。
資金は全てお爺様が出された様だ。
その隣に県外から来られる遺族の方々の為に20台は駐車可能な設備と社務所と墓石管理者宿舎が併設されていた。
この屋敷と墓地とは別の敷地と思っていたがよく見るとあの森を挟んで同じ敷地内になっている様に思えた。
これ以上深く踏み入らなければこの事件にもこの森の中に隠されていた物にもこんな形では無い関わりになっていたのかも知れなかった。
駐車場には品川ナンバーで年式の古いわりにはよく整備され磨かれていたカルマンギアのシルバーコンバーチブルが1台停まっていた。
そう言えばこの車をよく見ていた。
香織が入院していた病院の駐車場に頻繁に停まっていた。
この屋敷への行き帰りにも、複数回すれ違った様にも思えた。
それともっと前だ!あの村の人達への聞き込みの時だ!レンゲツツジの花を乾燥させ薬草と混ぜて脱法ハーブ作りを手伝わされていた村の老人達のところだ。
ただ誰からの依頼だか誰一人として把握していなかった。
毎週水曜日に決まって運ばれて来た箱に先週分の賃金と新しいレンゲツツジの殻が5キロ入った段ボールが吉田の婆さん、豊子婆の所に届く。
薬草は山にある物を皆で集めて一緒に3〜4日間天日干しする。
その段ボールに詰めて火曜の夜に豊子婆の納屋の前に置いて置く。
この繰り返しだったと言う。
その話を聞きに行く前にもあの車が役場近くの駐車場には停まっていた。
確か水曜日の9時頃だった。
この村では珍しい車の為、目に付いた。
今まで気に留めていなかった為、気が付かなかったがナンバープレートから登録者は直ぐに調べがついた。
香織の父親、茜さんの旦那の神藤雅之教授だ。
東京帝都大学【発生・再生研究・ システム・生物学ゲノム再生研究 】この分野で、日本の研究者では唯一海外の研究者からも注目をされていた。
生物のデザインを決めるゲノム(遺伝情報)の再生メカニズムと、その破綻が引き起こす細胞老化、がん化の機構を研究。
また細胞内シグナル伝達機構の動的な仕組みを実験と数理モデリングを用いたシステム生物学により解析し、肝臓の形成、炎症、再生のメカニズムの解明。
肝芽細胞はじめ肝臓を構成する各種の細胞を分離・培養するシステムを開発し、成熟肝臓を形成する機構、病態と再生機構の解明に取組。
成体肝臓は再生能力を備えたユニークな臓器であり、外科的に肝臓の一部を切除した場合には、残存肝細胞の肥大と増殖により肝臓は元の大きさに戻る。
一方、薬剤などによる慢性肝障害は、肝前駆細胞様の細胞が増殖する胆管増生や細胆管反応(ductural reaction)と呼ばれる現象が知られ肝臓はウイルス感染や代謝異常など様々な原因による肝炎が慢性化する。
そのメカニズムの解明を目指し、ヒトのゲノムDNAは約30億塩基対からなるDNAは紫外線や化学物質によっても傷つき、ゲノムの損傷は修復されて完全に直す事は不可能。少しずつ「変異(異常)」が蓄積していき、細胞は徐々に働きが悪くなり「細胞老化」変異が細胞増殖に関わる遺伝子に生じ「がん化」する事があり、ヒトの体には約60兆個の細胞があり、それらすべてのゲノムDNAを健全に維持するのは大変な作業である。
ゲノムの維持が特に重要なのは寿命が長い生殖細胞や幹細胞で、次世代へ命をつなぐ重要な細胞で、変異(異常)を放置せず幹細胞も個体が生きている間、新しい細胞を供給し続ける。
これらの細胞ではゲノムの修復は追いつかず「再生」レベルを研究室で酵母、マウス、ヒト細胞を用いて、ゲノム再生の分子機構を研究し安定性が低い「反復配列 」に注目し異常な構造をとりやすいDNAの複製の妨げになる。
中でも巨大な反復配列であるリボゾームRNA 遺伝子は最も危険で酵母でリボゾームRNA 遺伝子の安定性を人為的に変化させると寿命がそれに応じて伸び縮みし、リボゾームRNA 遺伝子細胞の増殖を減衰させる「老化シグナル」の発生源と考えていた。
公安本部からの報告書を読んでもオレにはチンプンカンプンで理解出来なかった。
ただ人の命を延命させる研究者である事は理解できた。
一方で国内の学会ではこの時代では行き過ぎた研究・創造神を超える生命への冒涜だ介入だと否定され支援や援助してくれる企業 ・団体はいなかった。
西湖の水、レンゲツツジ、遺伝子研究者、生命の再生、週6日行方知らずの母親。
この時点では「5つの共通点」に謎を解くカギが隠されていると辞職前にする事では無かったが使命感に火が付いてしまった。
駐車場から繋がる社務所と墓石管理者宿舎正面側周辺にカメラの設置は無く、警戒する気配はなかった。
改めて、社団法人山梨県浄化槽協会検査センターよりの通知を作成し「富士河口湖町の美しい水環境を守るために、浄化槽の適正な管理を行いましょう。
法定検査を受けましょう!」とそれらしいハガキを送り1本電話を入れアポイントをとった。
山梨県浄化槽協会検査センターのシールを張った車で乗り付け服装は薄いブルーの作業着に長靴を履きメガネを掛け帽子をかぶり、首から検査センターの証明書を掛けている。
行う法定検査について説明をし、受付で「鈴木一郎」と平凡な名前の身分証を提示して事務所内には2人の担当者が居て入館手続きを行った。
建物内の地図を頂き、付添いの1人が先導し進んで行った。
「担当者の方、代わったんですね!前はもっと年配の方?でしたよね!髪の薄い!」
「あ!はい!伊藤ですね!伊藤は今年定年になりました。」
「伊藤さんじゃないよ!ふじ?藤澤さん!実際はまだ若いのに髪の薄い!まだ40半ば位でしょ!」
「それ!藤原ですよ!千葉の実家に戻った様ですよ!」
「そうでしたか!賑やかな方だったので、よく覚えていまして!」
「あのぉ〜!すいません。お名前が分からないので!」
「オイラの事すか!」
「斎藤丈と言います。」
「サイトウジョウさんですか?」
「気にしないで下さい。昔から良く言われていましたから!」
「呼んでもいないのに再登場!って。」
「そんなつもりでは・・・ 。」
「ところで鈴木さんはもうどん位この仕事してるんですか?」と聞かれた。
「この村に来てもうすぐ3年なんでその位です。」と言うと
「あの頃からですかね!最近は誰も口にする方も居なくなった様ですが!吸血蝙蝠だとか、それとも野犬かオオカミなのか!」
「何の事ですか?私が来た時にはそんな騒ぎ聞かなかったと思います。」
「そしたらもう少し前の話かも知んねえな!この墓地が開発される前の話ですんで!」
「斎藤さん、もう少し詳しく教えて下さい!」とその事にムキになった表情からか
「何だか刑事みたいだな!本当に水道局の人、検査の人なんだろ!」
「違いますよ!浄化槽協会検査センターです。ただ興味があるだけですよ!それと斎藤さんの話に真実味があって引き込まれてしまって!」と言うと斎藤は嬉しそうに話し続けた。
「そうですか!ではでは話を続けましょう。」
「あれは1995年まだ肌寒い3月頃、確か3月3日の夜中2時過ぎる頃だった。」
「村役場の火の見櫓の半鐘が鳴ったんだ。」
「俺は、火事が起きたと思って飛び起きた!皆もそうに違いない。」
「その後、放送が流れたんだ。」
「♪ピンポンパンポン♪ 『坂田清五郎さんとこの馬が逃げ出して、暴れています。危険ですから、表には出ないで下さい。』♪ピンポンパンポン♪と流れたんだ。」
「オイラは2階の窓を少しだけ開け外を見たが真っ暗で何も見えんかった。」
「その後はさほど騒がしくなかったんでまた寝てしまった。」
「小さな村だから次の日にはもう噂が広がってきて、オオカミか野犬に襲われた馬が騒ぎ出し柵を蹴破り暴走したんだろうと伝わって来たんだ。」
「その日の内に清五郎さんとこへ行って見た。」
「他にも訪ねて来られた方が大勢いた様でな。馬舎を覗かせてもらうと他の馬とは離れた柵に囲まれた場所に居るのが清太郎と言うまだ若い雄馬だった。」
「いつもはとおても優しい温厚な馬だと言う。」
「麻酔を打たれ落ち着いてはいる様だが身体中が傷だらけでやはり何かに爪で引っかかれたかの様な跡が見られたんだ。」
「それと首筋あたりに小さい丸い穴が二つ並んでいたんだ。」
「そこには血が滲みカサブタになっていたんだ。」
「この事から野犬やオオカミの仕業?または吸血コウモリの仕業なんか?噂が流れていたんだ。」
「この件について後日役所と保健所に確認したところ、新たな話が浮かんで来てえ。」
「その馬は逃げ出してから捕獲されるまでの間に他に畜産農家の牛舎で子牛だけ3頭に飛び掛かり噛み殺したんだ。」
「途中の豚舎や鶏舎にも入り込んで来た様だったんだが何もせずに通り過ぎ、子牛だけを狙った様に思えるって。」
「その後、噛みつかれたが生き残った子牛も暴れ出した事から狂犬病が疑われたんだ。」
「その為、両方の血液検査を行ったが陰性の結果しか出なかったんだ。」
「馬も子牛も殺傷処分された為、その後は詳しく調べられていないんだと。」
「ただ、不思議なのは子牛達の死体を検査した保健所職員の報告書によると長い牙の様な刺し傷から噛みちぎられ首筋から喉にかけてが3頭とも、共通な死因となっているんだと。」
「そこには、中型の肉食獣による殺傷痕と記されていたらしいんだ。」
「これと同じ様な事件が翌月隣村でも起きたらしいんだ。」
「そう言えば誰からか聞いた事があるけど、この墓地が出来る前は隣の前田さんの所で馬を何頭も飼い放牧して、大旦那様も品評会に出しては何度も優勝されたなんて話を・・・確かそうだ豊子婆ちゃんに聞かされたんだ。」
「斎藤さん!もしかして役場近くの吉田豊子婆さんの事ですか?」
「んだぁ!オレの婆ちゃんだ。」
「その話、また後で聞かせてもらえませんか?」
「いいですよ!」
「ピーッ・ピーッ・ピーッ・ピーッ」とポケベルが鳴った。
「鈴木さん!事務所からの呼び出しが来たので一旦戻りますが突き当り左の設備管理室のドアをこの鍵で開けて、その先に浄化槽室がありますので次はこの鍵でドアを開けて点検をして下さい。後はお任せしますので宜しくお願いします。」
「分かりました。じゃあ!鍵をお預かりします。」
手持ちのキーケースから必要な鍵だけを外そうとするが上手く外れない。
「ごめんね!深爪しちゃってて外れない。鈴木さん!全部預けるから宜しく頼みます。」と言うと
「ピーッ ・ピーッ・ピーッ・ピーッ」とまたポケベルが鳴った。
「しつこいな!分かりましたよ!」と急ぎ目に斎藤さんは戻って行った。
実は2回目の呼び出し音は斎藤さんの物ではなく、こちらのポケットからの音である事に気付かなかった様だ。
預かった鍵の中からある他の部屋の鍵を探していた。
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