僕らの明日は

もう2学期が始まろうとしていた頃だった。1,2ヶ月前は日差しが強く暑かったのにもう一気に肌寒くなってきた。私が寒がりなだけかもしれないけれど。私は炎の魔法の実技が近かった為毎日練習していた。練習したらだんだんできるようになって昨日海辺でやっとできるようになった。試験はまだ1週間あったのでその間に少しでも完璧にするように頑張った。後に使うから。そして当日。

「プォーミン!」

私は練習と変わらない目つきと声のボリュームで言った。するときちんと大きな赤い炎が杖から出た。

「うむ。完璧だな。合格だ。」

「ありがとうございます。」

「そういえばお前にはきちんとした杖を渡していなかったな。授業が終わったら職員室に取りに来い。」

「分かりました。」

実は私入学した時から模倣品的な杖しか持っておらず、きちんと自分専用の杖は持っていなかった。というかこの炎の魔法が出せるまで持てないようになっている。杖は自分専用ということもあって約120種類の中からちょっとしたアンケートに答えて持って選ぶという方式だと聞いた。楽しそうだと思った私は少しるんるんしながら職員室へ向かった。

「これが杖を選ぶものだ。」

そう言われて見ると目の前にあるのはただの茶色の壺だった。

「これ…ですか…。」

「そうだ。それにこれから質問が出るから答えろ。そしたら自分専用の杖出るから。」

「分かりました。」

私は渋々やることを決めた。暫くすると質問がでてきた。質問内容は魔法のタイプと習得の理由、何の強化を目的としているかなどだった。私は全て選ぶと一本の綺麗な童話に出てきそうな茶色の杖が出た。

「すげぇ!」

私は初めて見るきちんとした杖をキラキラとした目で眺めていた。それを見た中宮先生は

「大切に使えよ。対戦までな。」

と言った。

ここからはただ自主練の日々だった。私は桃ヶ丘の図書室へ行き、毎回本を借りて見ながら魔法を学ぶという方式だった。そのおかげで水を操る魔法や空中に浮く魔法、撤退魔法を学んだ。

私は暫くして校長先生に退学届を出しに行った。…元々このための政策だったからな。だからその他の人に挨拶をして別れようとした。そしたらこちらに学園長と中宮先生とキュウガが来た。

「もうお別れなのね。」

「はい。悔しいですが。」

「そうか。気をつけて退治するんだぞ。」

「分かってますよー。」

「キュウガそろそろ行きますか。」

「はい、お嬢様。」

「…今までありがとうございました。皆様の幸せを心よりお祈りします。」

私はそう言ってキュウガに乗った。

「待って、最後に言わせて!

貴方はよく母親に似ていたわ。だから絶対大丈夫。気を重くしないで。貴方には私達がついているから。」

そう乗りかけている時学園長に言われて泣きそうになった。私は声を震わせて

「ターニャーツ」

と言った。キュウガが飛んで暫くした頃私は泣いていた。恋しくて。この2ヶ月間が楽しくてたまらなかったから。

「絶対成し遂げて見せます。恵里子さん。」

私はそう言ってキュウガと共に海へ向かった。


「キュウガ、ありがとう。」

「いえ、お役に立てて光栄でした。」

「もういいわ。貴方も元の世界へ帰りなさい。」

「ですが…。」

「大丈夫。ここは一人で片付けるから。」

「分かりました。では。必要な時は呼んでください。」

そう言ってキュウガは元の世界へ帰っていった。

私は海を見ていた。もう私が着いた頃にはこの海は荒れていた。私が全てを変えてしまった。石を揃ってしまったせいで。忠告を聞かなかったせいで。今更後悔しても遅い。もうやるしかないのだから。私は勇気を振り絞った。次の瞬間だ。黒い怪物がこちらへ飛んできた。

「ラーターチっ!」

私はそういって避けた。こいつが…。私の肉親を殺した怪物…デルガ。

「よぉ。」


「そういえば綾音最近暗かったけど大丈夫かな。家に行って様子を見てこよう。」

真は綾音の家に向かって歩き出した。



「よぉ。綾音…いやタリウスリ・リン。」

「…。」


私はデルガが来ることを、私の命を狙うことを知っていた。あれは1ヶ月前ー。

「あの子だけは綾音の弟だけは…生きていてほしいわね…。」

教室からそんな声が聞こえた。私は気になって教室を覗いてみた。話しているのは中宮先生、学園長だった。私はすぐガラリと扉を開け、話すように促した。

どうやら私の最近死んだ母は本当の母親じゃないらしい。産みの母親は別にいると。そしてその人は私が4歳の頃に亡くなっていてその原因はこの世を統べる一家の人間だから敵対している一家とぶつかって敗れた、というか生贄になって封印した、と。それがデルガだったと。そしてデルガは私の存在に最近気づいてしまってどうにか一家を破滅させる為に私に魔法の石を拾わせて魔力を取り戻したと。それを見た学園長とキュウガはまずいと思い、護身術代わりに魔法を習わせた、と。

私はそれを知った時凄くショックだった。まさか自分がそんな世界を壊すようなことをしてしまったなんて。いささか後悔した。だから自分の手でこの問題を終わらせなければいけない、そう思った。

数日後私は弟の通っている学童にボランティアをしに行ってそのことを伝えた。せめてもの謝罪の気持ちだった。この子には幸せに生きて欲しい、私はそう強く願った。


「何、こんなに荒らして。一体何の用。」

私はデルガを睨みつけながらそう言った。

「いや一応桃香にも訪ねてたからな。聞こうと思って。」

「世界征服を手伝う件なら遠慮しとくわよ。私はそんなことしていいとは思わない。思い通りにならないのが人生。その中でどう生きるか模索して悩んで、それが人間の使命じゃない。使命を放棄するなんてしないわ。」

「…やっぱり桃香(ももか)に似てるな。」

デルガがニヤッとした表情から一気に真剣な表情へ変わっていく。私は震えが止まらない中杖を握りしめてデルガを睨みつける。

「残念だよ。」

そう言ってデルガは攻撃体制に入り攻撃してきた。

「ラーターチ」

「ほら待て待て。攻撃しないのかー。ならもっとやるぞ。」

「ラーターチ」

「プイバーク」

私はひたすら逃げる魔法を使った。デルガの魔法の威力は私の想像を遥かに超えるくらい凄いものだった。逃げてばかりでは攻撃できないのは分かっている。今はとにかく逃げて隙を作ろうと思った。

暫くするとボロが出た。私はすかさず

「プォーミン」

と言ってデルガに攻撃した。見事的中したようだった。私が当たったことにしばらく喜んでしまってデルガの手が見えず首を刎ねられそうだった。その時だった。

「チェン」

と言う声が聞こえた。まさかとは思った。振り向いて見ると学園長、中宮先生、キュウガがいた。

「何も言わないなんて水臭いわよー。ちゃんと呼んでよね。」

とか言いながら来た。

「あ、ありがとうございます。」

私はとても泣きそうになった。

それからは学園長と中宮先生と私がデルガを止める魔法を使ってなんとか食い止めていった。攻撃は誰一人当たっていないものの魔法を長時間使うということは沢山の体力を要した。最初こそ止められていたもののボロがだんだん出てきてしまい、押し負けそうになっていた。やばいと私は直感的に思っていた。

「追い詰められてるなぁ。お前ら桃香と同じ目をしているなぁ。」

そうニヤニヤしながら挑発するデルガに

「貴方に何が分かるの!」

と学園長は言った。泣きながら。

「そっかぁ。お前あいつの親友だったもんなぁ。」

「私は親友を殺したあんたを許さない!

プォーミン!」

そう言って学園長は大きい炎をデルガに食らわせた。少しは効いたが体力がすでになく威力が弱まっていた。学園長は力任せに唱えたのでクタクタに動けなくなっていた。そこにニヤッとした笑みを浮かべ、デルガが足で踏み潰そうとする。やばい、学園長が殺される。するとすぐさま中宮先生が攻撃を入れ、殺されずに済んだ。だが、状況は大して変わらなかった。例え2人いようと3人いようと結局体力の限界というものは来てしまう。もうみんな既に体力の大方を失っていた。このままじゃ倒すどころか止めることすら出来なくなりそうだった。

「はぁ。はぁ。はぁ。」

「もう粘るなぁ。お前ら。でももう流石に体力の限界だろう。そんなひょろっこい体じゃ体力なんてそう持たないからな。」

「くっ…。」

私は悔しかった。デルガの言ったことが当たっていたからだ。硬直していた。

「綾音!」

「紗倉!」

そう言われるまでデルガが攻撃していることに気付かなかった。もう手遅れだと思った。私達はもう俊敏に動ける体力もない。私たちはもう限界だった。

「消えろ!」

そうデルガが叫び私に向かって突撃しそうになった時誰かが魔法を使った。デルガは強力な魔法に耐えられず吹っ飛んでしまった。

誰。そう固唾を飲んだ時こんな声が聞こえる。

「綾音。遅くなってごめんね。」

「お母さん…!」

「お前は、そうか、代わりの…。」

「そう。桃香さんの代わり。」

「その癖あっさりやられたなぁ。」

「そうね。」

デルガと話すお母さんはとても淡々としていてデルガの挑発なんか一つも乗らなかった。

「やっぱり乗らねえんだな。掴み辛いぜ。」

「そうかな。」

そう言ってお母さんとデルガの戦いが始まった。最初はデルガが優勢と思ってた私達もお母さんを見てこれは勝てるのではないかと思った。お母さんはデルガと戦いながらこんなことを言っていた。

「ごめんね。こんな選択させて。こんなつもりじゃなかったの。私は貴方のことをお父さんのことを守りたくて。本当にごめんなさい。」

と。そんなことない。私はそう思った。だから私は

「お母さん。別にお母さんいや美智子(みちこ)さんがお母さんになってくれたこと後悔してないよ。寧ろありがとう。」

と言った。お母さんも段々疲れていってしまってもう体が消えかけていた。

「ごめんね。もう体が限界みたい…。

最後に言うね。綾音いってらっしゃい。気をつけて帰って来るんだよ。」

「うん。」

私はボロボロ泣きながら返事をした。

「綾音、もしこの戦いを止めたいなら…歌でピアノでお母さんに返事を返してあげなさい。」

「分かった。」

次の瞬間お母さんはデルガに大きなダメージを与えて消えてしまった。

「お母さん…私が止めるよ。」



私は学園長、中宮先生、新たにキュウガが戦っている最中お母さんに向けて弾く曲を考えていた。私は今お母さんに何を伝えたいのか美智子さんの言ったことも交えて考えていた。私はほんのり覚えている。お母さんが笑顔で私と一緒にピアノを弾いてくれていたこと。そしてこれは私が綾音に当てた思いを歌詞にしてるんだよと。

「これからもずっと ずっと一緒よ〜」

はっ。そうか。私は。

「決まったみたいだな。」

そう中宮先生は言い、魔法でピアノを出してくれた。私はピアノの椅子に座る。その瞬間ピアノを庇って中宮先生がダメージを受けた。早く手当てしないとも思った。

「俺のことなんて気にせず早く弾き出せ!」

そう言われ、私はもう一度座り直し、静かにピアノを弾き始めた。お母さんのピアノの音程と近い音程でお母さんがいなくなってからのことを思い出して弾き始める。今なら思い出せる。あの虚しかった日々を。すっぽり心から抜けて苦しかった日のこと。

「悲しかった〜」

でも前を向いた。それしか方法がなかったから。辛かったけれど。私がそう気持ちを込めて弾いているとブスっという音が聞こえた。キュウガだった。叫びたい気持ちでいっぱいだった。

「お嬢様、頑張って。あなたならできる。」

涙ぐみながらそう言ってキュウガも消えた。

キュウガ…!私はもう集中出来なくなっていた。あまりにも辛すぎた。そんな時にこんな声が聞こえた。

「綾音!くたばるんじゃないわよ!」

その声は胡桃だった。胡桃はデルガに突進していた。そして胡桃は髪がいつもより伸びていて、ピンク色に変わっていて黒い角が生えていた。胡桃…?

「そうか。お前は…俺たちと同じ種族か。」

「そうよ。一度は綾音を捨てた。でもやっぱり私は一番の綾音の親友だから。」

「だから綾音、辛いことを乗り越えたあんたならできるわよ!頑張れ!」

そう後押しをされて私はまた弾き始めた。きっかけは私の石拾いからだった。それで私達の明日は変わってしまった。

「後は頼んだよ。晴樹。」

そう言って私は消えた。

「綾音よく頑張ったね。」

デルガと胡桃も一緒に消えていった。


「…姉ちゃんはバカだよ。勝手に一人で決めてさ。バカだよ。」

僕は数ヶ月前姉ちゃんからこの出来事を知らされた。姉ちゃんは何処か自分で全部背負っているような気がして止めたかったけど止めることが僕には出来なかった。ずっと迷っていた。僕が姉ちゃんの意思を踏み躙ってまで自分の思いを伝えるべきなのか、と。でも姉ちゃんのピアノを聞いて、姉ちゃんはもう死ぬのかと思ったら勝手に足が動いていた。

「姉ちゃん何処!」

必死に探していた。僕にはもう姉ちゃんしか頼れる人が愛する人がいなかった。姉ちゃんがいなくなるなんて嫌だ、そう思った。ピアノは中盤に差し掛かっていく。僕は焦燥感に追われ、更に早く走けていった。


僕が綾音の家に着いた時、綾音は家におらず、代わりに綾音の父親がいた。

「どうしたの。こんな時間に。綾音に何の用かい?」

「綾音さんを探してて。今家に居ませんか。」

「いないよ。」

「そうですか。」

僕がそう言い、走り出そうとした瞬間腕を掴まれて

「君は行かない方がいい。」

と言われた。なんで綾音の父親にそう言われるのか僕にはよく分からなかった。でも他人に言われて諦めるようなそんな軽い男じゃない。僕は綾音のお父さんの手を振り払って

「それでも僕は行くんで。じゃあ。ありがとうございました。」

と言って綾音の家を去った。綾音、どこにいるんだ。綾音が笑顔で笑っているならそれで良い。でも最近何か思い詰めたようなそんな顔をしていた。僕は綾音が好きだから、すぐに分かった。綾音が母親の死去以外のことでも悩んでることに。そんな時一人でいるのは多分寂しいと思う。だから僕が言ってやらなくきゃと思った。


「綾音!!どこ!」

真が言う。

「お姉ちゃん!!どこー!!」

晴翔が言う。

二人は私を心配して必死に探してくれていた。嬉しかった。でも私は私のやるべきことをやらなきゃいけなかった。だから私はせめてもの最後の言葉として私を必死に探す二人にこう言った。

「二人ともありがとう。そしてごめんね。後は頼んだよ。晴翔。」


「「綾音!!」」

気がつくと僕は海に来ていて隣には真さんがいた。

「綾音どこか知るか!!」

「…もういっちゃったみたい。」

泣く真さんにそういうしかなかった。

お姉ちゃん。お姉ちゃんが託してくれたバトン引き継ぐよ。僕が絶対この血を守るよ。ねぇ、お姉ちゃん。聞いてる?見てくれてる?

空を見上げて僕は涙が溢れた。


事件があって数ヶ月。もう記憶は消えてしまっているね。でも私は貴方のことが諦めきれないから。もう少しだけ隣に居させてね。

「おーい。転入生入っていいぞー。」

「はい!失礼します!南丘高校からやってきました。綾倉紗音(あやくらすずね)です!よろしくお願いします!」

またここから僕達の青春が始まる。

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魔法の石は明日を変える 遠野豊花 @yutaka49

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