ターニャーツ
葉の靡(なび)く音。チュンチュンという鳥の鳴き声。ガサガサという物音。まるで森の中にいるみたい。ここ家?家だったらこんな音しないんじゃ?そう思い目を開けると。私は森の中にいた。
「ここどこよ。」
私がキョロキョロ見渡すと突然遠くから猪らしきものが突進してくる。殺される!そう思った瞬間青色の大きいまるでファンタジーに出てきそうな竜が私を助けてくれた。
「…あなた…だれ?」
「お嬢様。申し遅れました。私はキュウガと申します。貴方のお付き添いの竜です。」
「…え、えと。色々現状を教えてくれる?」
「はい!まずお嬢様は人間界からたった1人の逸材だと選ばれました!ゆくゆくはここの国タールスネーターの姫になってもらいたく修業をしに今から学校へ向かうところでございます。」
「分からないけど分かった。で何を習得すればいいの。」
「あら、素直。素敵です。えぇ、はい。ほぼ全て魔法を習得して貰いたいのですがまずは僕への指示を覚えてください。」
「えぇ、まあとりあえずはい。なんて言えばいいんでしょう。」
「お嬢様はこれから何をしたいか教えて頂かないと指示できないでございます。」
「あ、はい。んー。じゃあここを離れたいですかね。」
「了解です。じゃあ僕に乗ってターニャーツとおっしゃってください。学校へ案内します。」
「了解!ターニャーツ!」
私がそういうとキュウガは浮き上がった。そのまま物凄いスピードで飛んでいく。
「いや、凄。」
「そうでございますかー。いやぁここ綺麗でしょう。」
「そうね。」
「これ全部宝石で作られてますからね。キランキランでしょう。」
「宝石?!そりゃ凄いわね。」
「はい、ここの人は魔法でクラフトするのですよ。」
「へぇー。」
「さぁ、お嬢様。急発進しますよー!」
キュウガはそのまま一つのキラキラした建物に急発進した。
「つきました。ここが魔法学校桃ヶ丘学園(ももがおかがくえん)です。そしてこちらは学園長の恵里子(えりこ)様です。」
「はじめましてー。綾音ちゃん。恵里子と言います。これから立派な女王になるために育てていくからよろしくねー。」
「よ、よろしくお願いしますっ!」
「早速だけど校内でも散策する?それから授業の案内しようかしら。」
「はい!お願いします!」
そういうことで私は学園長と散策することになった。
「ここがねー、音楽室よー」
「そうなんですね。」
「そう自由に使っていいわよ。」
「ありがとうございます。しかし、私あまり音楽には触れないもので…」
「なるほどねぇ。そこは似てないのねぇ。」
「何がですか。」
「とりあえず次行くわよ。」
「分かりました。」
こんな感じで校内を回っていた。恵里子様と呼ばれるこの女の人はどうやらお喋りさんらしい。凄く話しかけてくれる。まあ嬉しいけれども。校内を回っている時ちょくちょく私も質問をした。主にどう帰るんですかとか。学園長は少し笑ってこれから会う先生に教えてもらえるからと言った。そうですか、と私は言った。色々聞きたいことは盛り沢山なのだが学園長がもうそれ以上聞かないでという顔をしたのでやめておいた。ただ一つだけ聞いたのはこれから会う先生のことだった。
「正直、いいですか。」
「いいわよ。」
「これから会う先生、怖いですか。」
私が真剣な顔で言うと学園長は少しきょとんとしてそれから笑い出した。
「そんなことで俯いてたの?面白いわね!綾音ちゃん。」
「そんな怖くないと思うわよ。…でも結構人によるらしいわ。」
「そ、そうですか。」
「まあまあそんな構えないでこれも経験の内だと思って受けなさい。」
「分かりました。」
そうして私達は3階の一番奥の右の教室"魔法室"へ着いた。
「入るわよー、中宮ー。」
「どうぞー。」
教室に入るとそこには怖そうな顔つきの若い男の人がいた。
「この人がこれからの授業を担当する中宮一輝(なかみやいつき)先生よ。」
「よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
…大分この先生は怖そうだ。
「席つけー。これから魔法の実技を始めるぞー。」
えっと、私紗倉綾音は何故か異国の地に飛ばされて今こうして特殊な授業に参加しています。凄く夢みたい。凄い楽しそう。私がそんな感じで初めて受ける授業にワクワクしていると隣の子が
「よろしくねー。」
と言ってきた。私も
「こちらこそー。」
と言っておいた。
今回の中宮先生の授業内容としては移動呪文で現実世界とこの異空間に行き来するには必ず習得しなければならないものだった。だから私は死に物狂いで授業についていった。どうやるのかなど概要は理解できたが、実際に自分ができるかどうかは不安だった。
「じゃあこれから一人ずつ前に来て移動呪文をやってもらいます。じゃあ試しに移動する場所は…教室前で。それじゃあトップバッターお願いします。」
中宮先生の合図で前にいた子達が立ち続々と上手にこなしていった。…正直初日だし彼女達には敵わないと思った。私は順番になった時自信なさげに前に行った。そして呪文を唱える。
「ラーターチっ!」
そう唱えると教室の前にすんっと行った。気がついたら目の前にドアがあった。教室に入るとみんな驚いている様子だった。目から鱗みたいな。え、私なんか悪いことしたかな。そう困惑している私を見て先生は
「凄いな。初日でようやったな。」
と言ってくれた。他の子も凄かったよとか才能あるんじゃないとか言われた。自信がついたし、褒められたことでモチベが上がり、もっといろんな種類の魔法を使えるようになろうと思った。
「…これは予想外だったな。」
私は今日習った魔法で家に帰った。
「なんか夢見たいな時間だったなぁ。」
「そういえば明日またキュウガが来てくれるとか言ってたっけ。」
そう毎日行き帰りはキュウガがお迎えに上がると言ってくれたのだ。だから午前学校に出て午後魔法学校に通えばいいと。なんか私が異空間に行っている間は時間が止まっているらしい。
「不思議な感覚だなぁ。」
と私は思った。
これがかれこれ1ヶ月くらい続いたのだろうか。中宮先生は初回授業こそ手加減してくれたものの私の魔法を見て次回授業からは手加減なしの授業になった。周りの子達も段々ついていけなくなっていってもう大方ついていける人はいなくなった。ただ私は不思議なことについていけていた。むしろ学校の勉強より楽だ。だから時間があれば周りの子達に教える、そういう日々が続いた。最初こそ疲れで真に心配されていたものの今は心配されないほどこの生活に慣れた。でもまだ何故私が女王候補になったかだけは謎だった。
ある日の放課後私は魔法学園の方に忘れ物をしてしまって教室に焦ってかけて行った。もうすぐそこにキュウガが待っていたからだ。約束を守らないと結構キュウガ怒っちゃうからな。私が教室について入ろうとすると誰かの話し声が聞こえた。窓を覗いてみると中宮先生と学園長がいた。
「何の話してるんだろう。」
そう思ってガラリと教室のドアを開こうとした時だった。学園長が言う。
「あの子だけは綾音の弟だけは…
生きていてほしいわね…。」
「んー!暑い!」
現実世界ではもう夏休みになっていた。うちの学校は特殊で小学校のような日記が出た。私は渡された時何か特別なことがしたいなと思い、ボランティアをしてみることにした。私は昔から誰かの面倒を見ることが好きだったので保育ボランティアをメインに探してみることにした。
「今日のホームルームはおわり!」
私はそう言われて帰る準備をした。すると、真が此方に近づいて
「一緒に帰ろうぜ。」
と言われた。私は魔法界に急いで行かなきゃいけなかったものの最近真と帰れてなかったので
「うん。」
と返事をした。
あまり誘わない真が誘ってきた為、私は大分そわそわしていた。何を言われるんだろうって。真が口を開いた。少し怯えながら聞く。でも真が言った話題は大して怯えるような話ではなかった。
「綾音、夏休み何する?」
と。そっか。真はそんな人じゃなかったや。久しぶりに話す真に安心感を覚え、
「ボランティアするよ。」
と言った。
「へぇ、ボランティアか。なんのボランティアするの?」
「保育ボランティアとかしてみたいって思って。」
「いいな。それ。そっか。日記書かないといけないもんな。」
「そうそう。」
「僕もやろうかな。」
「本当?」
「何処のにするの?」
「東山学童(ひがしやまがくどう)クラブ」
「結構近いところにするのな。」
「うん。知り合いがいる学童クラブでね。」
「なるほどね。」
「ボランティア2人分頼んでおくね。」
「うん、お願い。」
そうして真とバイバイをした。
私は帰ってすぐ交渉のメールをし、キュウガに乗って魔法界へ向かった。
今日はいよいよ炎を出す魔法だった。
「プォーミン!」
中宮先生がそう唱えると炎がぼうっと吹き出る。みんな挑戦してみるが、難易度高めということもあって授業内で成功する人は誰もいなかった。それを見て呆れた中宮先生は次までの宿題として自主練するようにと言った。
「結構きつめに言われましたね。」
帰り際キュウガが言う。
「そうねー。今日のは流石に私でも1発じゃできなかったよー。」
「でもめげないのがお嬢様でございましょう?」
「そうね。こんなことでへこたれてられないわね。」
私はやる気を取り戻していた。明日から自主練頑張ろうと思った。次の日。メールを開くと昨日送ったボランティアのところからメールが届いていた。返事はOKとのこと。
「よかったー。真に連絡しとかなくちゃ。」
そう思い私は連絡した。ボランティアが始まる日は明後日だったのでとてもわくわくしていた。
それからは炎の練習と宿題で大忙し。目まぐるしい日々が続いた。ボランティアのことなんか考えられないくらいに。そして遂にボランティア初日の日がきた。
「これからお世話になります。紗倉綾音です。」
「蔵島真です。」
「ようこそお越しくださいました。紗倉さん、蔵島さん。ここの責任者の野田(のだ)です。よろしくお願いします。」
「まず、2人には夏休みの間週3で小1〜小6までの監視・勉強補助等をしてもらいます。その際ダメなことはダメと注意もして下さい。以上です。まずは子供達にも紹介しますからこちらに来てください。」
「はい。」
「こちらが今日から遊んでくれる綾音お姉ちゃんと真お兄ちゃんよー。」
野田さんがそう言うとみんな私達に群がってきた。お姉ちゃん可愛いとか付き合ってるの?とか。付き合ってるなんてどこで覚えたんやら。
でも1人だけ動かない、全然喋らない子がいた。その子の名前は鈴宮晴樹(すずみやはるき)。静かな男の子だった。
それからはたくさん私が話しかけるようにしていった。最初こそこいつ誰だと警戒していた晴樹くんだったがだんだん私に慣れてきて話すようになった。晴樹くんは人より本を読んでいた分周りよりも私よりも知識量が多くて虫の変化の過程とか由来など教えてくれるようになった。私はいつのまにか晴樹くんとしか話さなくなったし、大して他の子に構おうともしなかった。いわゆるえこひいきというものをしてしまった。でも楽しかった。凄く。
こんな楽しい日々もあっという間に過ぎ去ってしまう。気づけばもうボランティア最終日になっていた。
「じゃあ、お姉ちゃん、お兄ちゃん元気でねって言おうか。」
野田さんがそう言うとみんなは涙目になって涙を溜めて
「元気でね!お姉ちゃん、お兄ちゃんのこと忘れない!」
と言ってくれた。あぁ。ボランティアって人の役に立てるって幸せなことなんだなと思った。こんな幸せがもう少しだけ続いてくれればいいのに。そう思った。でもそんなことは叶わない。
「みんなじゃあねー!」
私は涙目になってそう言った。最後に晴樹に言い残して。元の生活に戻ろうとしていた。
晴樹頼んだよ。これから何があっても貴方はずっと。
「…来るのが少し早まるかもしれませんね。」
「そうね…。綾音大丈夫かしら…。」
「お嬢様はもう立派に成長しておられますよ。」
「…あの子をみるとお母さんのことを思い出すわね。」
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