魔法の石は明日を変える

遠野豊花

七色石

「んー!いい天気!」

日差しが照る夏の朝。あの日はとてつもない猛暑だった。私はいつもより早く目が覚めたので早めに家を出た。私の家は海の近くにあって眺めが良い場所だ。だから学校へ向かう時は海も通るわけで。私はまだ余裕があるからと海を眺めていた。

「はぁ。綺麗だなぁ。」

そんなことを言っていた。どうせなら貝殻でも拾って今日誕生日の友達、麻宮胡桃(あさみやくるみ)にでも渡そうと思って貝殻を探し始めた。いつもは貝殻が多くあるはずなのに今日はあまりない。

「どうしよう。見つからないよ…。」

刻々と時間が迫ってくる。私は誕生日プレゼントをバタバタして買えなかったため焦っていた。すると、貝殻ではないが綺麗な石ころを見つけた。

「んー!これ綺麗!これにしよ!」

私は綺麗な石のかけらを持って急いで学校へ向かった。

学校に行くとみんなもう胡桃にプレゼントを渡し終わっていた。

「あ…もう終わってる…。」

そんなことを思いながら私はそれでもいいと胡桃にプレゼントを渡そうとした。でもすぐに先生が来てしまって結局渡せなかった。

休み時間を挟むごとに私は今日拾った石ころに愛着が湧いてしまっていた。

「綺麗…。」

そううっとりしてしまっていた。胡桃に渡すのが嫌になってしまった。男子達に

「紗倉(さくら)、お前、胡桃と仲良いじゃねーか。みんなプレゼント持ってきてるのにお前だけないのかよー。」

とからかわれたがそんなこともう気にならなかった。

私は結局その石ころを独占することを決めた。胡桃には一日遅れでプレゼントを渡そうと思った。

その日はいつもあるテニス部がなく、私は放課後が空いた。なので胡桃と一緒に帰ることにした。

「綾音ちゃん、今日静かだったね。どうしたの?」

「いやー、実はさ、綺麗な石ころ拾っちゃって。見惚れちゃってさー。」

「えー。綾音(あやね)ちゃんそういうタイプじゃないのに!珍しいねぇ。」

「ちょっと貶してる?」

「してない、してない。でも気になるなぁ。その石ころ。見せてくれない?」

「やだよー。私の宝物だもんっ!」

「もうっ。綾音ちゃんったらー。」

「あ!そういえば!私ちゃんと明日プレゼント渡すね!ごめんね。今日渡せなくて。」

「いいよ。それより、謝罪より祝福が欲しい、かな。」

「あ。そうだよね。ちょっとまってね。」

私は海をバックにサプライズをしようとゴソゴソ準備をする。そして装飾をして

「Happy birthdayー!Kurumi!」

私は砂にそう書いて大声で読みあげた。すると胡桃も嬉しかったのか

「Thanks you!Ayane!Good luck to you!」

と笑顔で言ってくれた。とても思い出深い胡桃の誕生日になった。そう思った。


暗闇に飲まれた世界。海も空も全部モノクロの世界。私は迷い込んだ。

「ここはどこー。」

そして次の瞬間ナイフがこちらに向かって飛んでくる。

「みぃつけたっ。」

「はっ!」

最近よく分からない怖い夢を見る。しかもそれが妙にリアルすぎて頭にこびりつく。正直に言う。

めっちゃ怖い。

そんなかんなで最近ぼうっとすることが沢山ある。期末寸前なのに。だからよく気分転換に海に行く。海に行くと落ち着くからだ。じゃぷ、じゃぷっと海が流れると改めて夏だなぁと感じさせられる。どうやら私はここ数ヶ月で変わってしまったようだ。

また、変わったこととして海に行くと決まってしてしまう行動がある。あの石を探すことだ。

私があの石、、まあ七色石(なないろせき)とでも名付けておこう。七色石を見つけた次の日、その日は積乱雲が綺麗な青い空の日で太陽に照らされて海がいつもより綺麗に見えた。暑かったし、少し海に入りたくて、学校帰りに寄った。私は靴を脱ぎ捨てて裸足になり、海の冷たさを味わっていた。その時にまた見つけた。

「え!また昨日のある!」

そう思ってまたふと手に取ってしまった。何故かその石には惹かれるものがあって拾わずにはいられなかった。普段こんなタイプじゃないのに。だからまた拾ってしまったんだ。それが癖になってしまって、毎日ないかチェックするようになってしまった。だから私は今日もこうして懸命に探している。

「ふぅ。今日は無さそうかなー。」

そう思った瞬間見つかった。今度は三日月型の七色石だった。

「そう。これ毎回形が違うんだよなー。」

私はそうぼうっとした頭で考えていた。どうやらこの石はパズルみたいにハマるようになっている構造だった。しかもその部分によって光の加減が違う。まあよく分からないものだった。私は全部集まれば暗号的なものが浮かび上がってくるのかなと考えていた。

そう。誰もこの石の後のことを知らず止めなかったのである。

「ふぅー。さーて帰って対策しますかー。」

そう考え、私は自分の家に戻った。

「あ。誰もいない。」

帰ると部屋は真っ暗だった。うちの両親は帰ってくるのが遅い。なんせ医者と看護師だからね。元々家族団欒とかないのだ。まあ、そのおかげ?で口うるさく勉強しろとか言われることはないんだけどね。でも、やっぱり寂しいもので。

それもこの石に依存した原因かもしれないのだった。

私は冷蔵庫にあった朝のあまり、、卵焼きとほうれん草のお浸しと味噌汁、炊いたご飯を食べた。別にこの生活に満足していないわけじゃない。別に。

「んー、数学むずい!2xの2乗+4x-3=0ってなにー!平方完成とはー!?」

今回平方完成がテスト範囲の半数を占めているため、根本の平方完成ができないと不味いのだが、、全くわからん!!誰かに教えてもらいたい!でも、胡桃も他の子も分からないって言ってたし、数学の先生の解説は分かりづらいからなー。はぁ。こんな時にお母さんが、お父さんが居ればいいのに。

「トゥ トゥッ トゥトゥトゥトゥトゥートゥートゥ トゥトゥトゥトゥートゥトゥトゥートゥトゥッ トゥトゥトゥトゥトゥートゥトゥートゥトゥッ トゥトゥートゥトゥトゥトゥ〜♪」

「お母さん…?」

お母さんは夜勤じゃないの?

私は歌の聞こえる方に走っていった。

「トゥトゥートゥトゥトゥ〜♪」

私はその歌に昔どこかで聞いたことがあるような、そんな懐かしい感じを覚えた。でも今のお母さんは歌があまり上手ではなくて歌わなかった。なぜ?心の中で引っ掛かりながらもその場所に向かって走る。

走るといつもの海に着いた。そしてそこには綺麗な女の人がいた。

「トゥトゥートゥートゥ…」

その女の人は微かに私の記憶にある歌を歌いながら儚げに悲しそうな顔で歌っていた。私は彼女のことが気になって近づき

「…あなたは誰?」

と言った。その瞬間大きな波飛沫がし、その女の人はいなくなった。

「何処?何処?あなたは誰ー。」

女の人を必死に探したらどこにもいない。

「あ。」

女の人は七色石を残していった。

「はっ、」

また夢だった。でも今度は凄く不思議な夢だった。現実的すぎる、そんな夢だった。

「あ。ある。」

私の手にはあの夢に出てきた今までの石とは違う形の石があった。

「なんで、、。」

そう不思議に思った私は気づいたら海に走り出していた。

「やっぱりいない。」

でも私は一つだけ確信したことがあった。覚えてないけど私はあの人に会ったことがあるということだった。

私はまた家に帰った。登校しなければならなかったからだ。朝ごはんは何にしようかな。そんなことを考えていた。呑気だった。家に灯がついていた。

「なんでだろう。きちんと消したはずなのに。」

そんなぼんやりした頭で考えていた。家に帰ると父がいた。焦った顔をしていた。

「お父さん。どうしたの?」

私は父に尋ねる。

「あ!綾音いた!探してたんだぞ!」

「ごめん。ちょっと海に行ってて。」

「…そうか。」

「お父さんどうしたの。そんな顔して。」

「落ち着いて聞いてくれ。綾音。お母さんが…死んだ。」



「は?」

どういうことー。頭が働かない。何か言いたくても聞きたくても口が動かない。こんなお父さんの顔を見たら言えるはずがない。お父さんは泣きながら悔しそうな顔をしていた。お父さんなんでそんな悔しそうな顔をしているの。お母さん元々そんなに体が良くなかったの。質問したいことは沢山ある…が、できない。パクパクとしか口が動かなかった。放心状態だった。

「とりあえず今日は学校休むから…よろしくな。」

「…分かった。」

そう頷くしかなかった。

お母さんの葬式には大勢の人が来ていた。お母さんと同級生だった人、職場が一緒で今日定休日の人、祖父母、叔父、叔母など参列した人に挨拶をして、一番前の席に座った。

お父さんは席から離れてマイクの方へ向かっていった。

「本日はお忙しい中ご参列頂きありがとうございます。妻は優しくておおらかな人で僕自身救われたことが何度もありました。恐らく参列者様もそうだったはず、僕はそう思います。」「これから告別式を行いますが、、すいません。遺体はございません。」

父がそう言った瞬間式内が騒ぎ始めた。

「どういうことだ。紗倉くん!」

母方の祖父がそう怒った顔で言った。

「皆様を動揺させてしまい、申し訳ございません。妻の遺体はあまりにも無惨な姿になっており、綺麗な状態ではありませんでした。その為、昨日僕だけで火葬を行った次第です。なので、今日は形上の式とさせて頂きます。すいません。」

父は頭を下げ、悔しそうな顔で涙を流していた。

「なんでそれならそうと言ってくれなかったんだ!家族だぞ!そのぐらい言う義務はあるんじゃないか!」

益々祖父は怒った。

「すいません。生前の妻の意思で…」

そう言う父親の声は震えていた。

次の日。葬式から帰った私は学校へ向かった。

「おはよー!みんな!」

そう言って教室に入るとみんな私の顔を見て眉間に皺を寄せる。どうしたんだろう。そう思った瞬間誰かが言った。

「綾音ちゃんの近くにいると不幸になるらしいよ。」

って。どういうこと。私はそう思った。だから胡桃のところに駆け寄った。

「ねぇ、なんでこんな私クラスの人から避けられてるの。」

私は胡桃だけは私の味方だろう。そう思ってたのに。

「ねぇ!近寄らないで!」

そう言われた。

「え、なんで…。胡桃。」

「分からないの?!みんなあんたの周りにいると不幸になるって言ってんのよ!あんたの周りでどんどん人が死んでいくからね!母親キラーって言われてるの!」

「え…」

「私はそりゃ友達だし耐えてきたけどもう限界!あんたのそういう鈍感なとことか大っ嫌い!もう近寄って来ないで!もうあんたなんか友達じゃない!」

「…。」

言葉を失った。絶望した。私ってそんな鈍かったっけ。私のせいでお母さん達は死んだの。そう思うと涙が止まらなかった。私は泣いてしまった。みんながコソコソと何か話している。もうこの状況こそが限界だった。逃げたかった。

「…そんな言い方はないんじゃないか。胡桃。」

そう言ったのは胡桃と幼馴染の蔵島真(くらしままこと)くんだった。

「勝手に不幸になるとか有る事無い事言われて挙句の果てに友達から大っ嫌いって…こいつ母親亡くしたばっかりだぞ。もう少しタイミング測って言えねぇのかよ。」

「だって私はもう耐えられなくて…」

「だから察してやれって言ってんの」

「でも…」

「もういい、埒(らち)があかない。紗倉行くぞ。」

そう言って私の腕を掴んで教室から出て屋上に向かった。嬉しかった。一人でも庇ってくれる人がいて。だからさっき起きた辛いことだって忘れられた。でも私が教室に出る時胡桃が誰にも聞こえない声で

「綾音、ごめんね…。」

と言っていたのだけは頭から離れなかった。



とうとう期末テスト3日前!私は試験が赤点になる予感しかしなかった。うちのクラスはなんか特殊で期末になると登校する人が4分の一くらい減る。私は頭があまりよろしい方ではないので毎日登校して授業に出なきゃいけないのでサボれないのですが。でも今回ばかりは流石にサボりたかった。

「昨日あんなことがあっちゃなー…。」

あれから真が守ってくれて昨日一日は普通に過ごせた。でも元々真は女子の的だったため真のいないところでは私の悪口パラダイスだった。苦痛でしかなかった。あんな場所。

「私悪いことしたっけなぁ…」

と思うと涙が止まらなかった。結局今日は精神的にも行くことができず、学校を休んだ。私はお父さんのいない家の中でほぼずっと泣いてたと思う。午後ちょうどみんなが帰る時間くらいに家のチャイムが鳴った。私は宅配便かなと思い出た。目の前にいたのは真だった。

「蔵島くん。どうしたの。」

「いや、これ、先生から預かった。」

「ありがとう、蔵島君。じゃあね。」

私はそう扉を閉めようとしたが、真は扉を掴んだ。

「僕もうちょっと紗倉と話したいんだけど。」

「え…」

「昨日のこと引きずって来なかったんだろ。」

「!!」

「…ほっといて」

私はそう言い、バタンッと扉を閉めた。数分後ぐらいに真が帰ってるか覗いてみたが帰っていないようだった。何十分も何時間も待っていた。流石に可哀想だと思った私は家にあげた。

「何時間も待って…。帰ればいいのに…。」

「どうしても話したくて…」

「一体私と何を話したいの。」

そう私が質問すると彼がポツポツと話し出した。

「胡桃のことごめんな。上手くフォローできなくて。もっと早く出ればよかった。」

「なんだ、そんなこと。大丈夫よ。」

「…あのさ。昨日初めて話したやつが何言ってんだよって思うかもしれないけどさ。たまには人に頼れよ。」

「…頼る人を無くしたのに…?」

私はそう言って俯いてしまった。実際私にもう頼れる人はいない。どうしたらいいんだろうと自分の中で葛藤するしかなかったのだ。

「僕がいんじゃん。」

真がそう言って私に微笑んでくれて私は一人じゃないんだってそう思えた。元気をもらえた。

「ありがとう。」

そう言って私は笑った。

次の日。私は扉を開けて笑顔で

「おはよう!」

と言った。真が昨日クラスの人に色々言ってくれたのか私の噂話をする人はいなくなった。それでも少し壁があって私は真と話していた。期末テストの分からない範囲も真に全部教えてもらって見事私は赤点回避することができた。私はその日真にお礼をするために一緒に帰ろうと誘った。

「…ねぇ、真。ありがとうね。」

「いやいやそんなお礼される話でも」

「でもあんたがいなかったら私今頃外に出てなかったから…。」

「そっか、そうだな。」

「じゃあ僕のお願い聞いてもらおうかな。」

真はニヤリと笑う。

「海に行きたい。」

私は真といつも行く海に行った。ちょうど日が沈む時だった。

「綺麗だねー。」

「そうだね。」

「本当自殺とかしなくて良かったよ。」

「そんなことするって思われてたの?私。」

「まあ。色々重なってたし、さ。」

「確かにねー。」

「僕本当に不安だったんだ。だから綾音が休んだあの日学校が終わった瞬間走り出してたんだ。」

「そうなんだ。それはありがとうねー。」

「それで気づいたんだ。僕綾音のことが」

「あー!また見つけた!七色石!」

私は海でまた七色石を見つけたのだった。実はここ数日でパズル?的なのは完成間近であり最後が出ないかとワクワクしていた。だから見つけて嬉しかった。

「なんなん?それ。」

「分からないけどなんか惹かれるんだよねー。」

「へぇ。綺麗だな。」

「うん、でしょ。」

「あ、そういえばさっきなんて言おうとした?」

「ううん。なんでもねぇ。んじゃまたな。」

「うん。じゃーねー!」

私はウキウキしながらその石を持って帰った。帰り際

「駄目!今すぐそれを捨てて!」

という声が聞こえたけど私は見向きもしなかった。

あの時の自分に戻りたい。拾ってなければさぞかしいい生活を送れただろう。

「…あの子拾っちゃいましたね。」

「ね。」

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