第27話 中途半端、つらい…



翌日

…………ん…


「っっはぁっ、はぁっ、かはっ…ゔぁ…」


はぁ、はぁ…俺の、部屋…やな。


悪夢、見とった。喉が…痛い…な。


枕元にあったペットボトルの経口補水液を

ゆっくり口に含む。


一気に飲むと戻してまう。


…汗も、びっしょり…やな。


いつも、風邪とかインフルエンザのときとか…

寝てると、悪夢見るんや。


意味不明で、内容もない。


ただただ“怖”くて、“苦”しくて…

そういう感情だけが渦巻く、そんな夢。


「んっ……んっ……はぁ…着替え、なな…」


なんとか吐かずに飲み終えて、

ふらふらするけどクローゼットに向かう。


へたり込みながらシャツ変えて、

下着もズボンも履き替えた。


ゆっくりながらもシーツを外して、

タオルケット敷いた。


限界やったから、

半ば崩れ落ちるみたいになって

ベッドに横たわる。


でも、寝苦しい。


…当たり前やな、昨日一日中寝とったから。


それでも、休むためには寝なあかん。


もう一度ゆっくり、

吐かんように経口補水液を飲んで

目を閉じた。眠れなくても良いから。


休まなあかんから。










結局、昼になっても寝られへんかった。


意識が朦朧とするのとはっきりするのを

ずーっと繰り返してた。


眠られへんのやったら配信でもしてまおうと、

起きあがろうとした時はあまりの気持ち悪さに

危うく吐きかけた。


眠れないのも当たり前や…


だって、ずーっと寝てたもん。


体調良え訳や無いのに、意識だけはあった。


お昼ご飯を作る元気なんかある訳もないから、

あっためるタイプの白粥を食べる。


やけど、どうにも食欲は出んくて…

食べおわってから、一回戻してしもた。


ああ、消耗してんねんな…って感じたわ。


ゆっくり薬飲んで、着替えて、布団へ潜り込む。









《晴美side》


私は昼過ぎに、蓮君のおうちに来ていた。


ぴーんぽーん…


チャイムを鳴らす。しばらくして…


『は…い、っけほけほっ…今、出ま す』


いかにも無理してそうな声色が聴こえてくる。


(大丈夫かな…)


ややあって、扉が開き…

その扉にもたれかかった蓮君が顔を見せる。


酷い顔色だった。


汗で濡れた髪、火照った体、荒い息。


「あ、れ…晴美、ちゃ ん…?なん、で」

そう言った瞬間激しく咳き込む蓮君。


マスク越しでもその痛々しさがわかる。


蓮君のドアノブを握るから力が抜け

私の方へと倒れそうになり、

慌てて抱きかかえた。


「大丈夫ですか!?」


「う、ん…心 配…せん、で」


「そんな事言われたって無理ですよ…、

 今日はお見舞いに来たんです、

 蓮君も安静にしないと…」


「わかっ、た」


そして私も家にあげてもらった。

マスクも借りた。


相変わらず病的に軽い体を背負い、

蓮君の自室へと向かう。


「蓮君、汗を拭きます。少し我慢して下さいね」


「うん…」


蓮君の柔肌をこれ以上傷つけないよう、

タオルで優しく撫でるように拭いていく。


顔まわり、首筋、背中、腕、胸、胴…


「…んん……っふ……ぁ…」


ぴくぴくと蓮君が悶える。


「…ごめんなさい、くすぐったいですよね」


「い、や…そん な…ひぅ」


更に下唇を噛んで耐える蓮君。


「……」


やばいです。


セクハラで捕まったりしないですかね?私。


拭き終わって、たくし上げていた服を下ろす。


ゆっくり支えて寝かせ、布団をかける。


目を瞑って寝ようとする蓮君の顔が少し辛そうで…

私は思わず蓮君の頭を撫でていた。


風邪の熱で蕩けた顔が少し驚きの色になって、

蓮君はすぐに再び目を瞑った。


撫でていると、泣きそうだった蓮君の表情が

少しずつ和らいでいった。


(良かった…いつもの優しい顔だ)


絵師としてはこの風邪の蓮君をイラストに

おこしてみたいと言う気持ちもあるかもだけど、

親しい友人がこんな状況なのに

そんな事は考えたくない。


寝息が聞こえるまで、一定のリズムで撫で続ける。


やがて数分もしないうちに、蓮君は寝てくれた。


そういえば、汗を拭いた時から蓮君のマスク

外しっぱなしだったな…


でも、汗に濡れたマスクはきっとつけ心地悪いはず。


新しいマスクを取り出し、優しくかけてあげた。





差し入れのフルーツゼリーと

スポーツドリンクを冷蔵庫へ仕舞う。


蓮君はいつも、優しかった。


自分の事より、

美幸ちゃんや私達の事を優先して。


倒れそうになったり、私達に支えられている時、

ものすごく申し訳なさそうな顔をする。


そして、これは勝手な想像でしかないけど…

蓮君は幼い頃、

看病なんてされた事がないと思う。


あんな事する母親だったなら、

絶対にしないと思う。


寧ろ風邪を引いてても

何か仕事や家事をさせようとしたのでは?

とさえ思ってしまう。


蓮君のあの自分を蔑ろにするところも、

蓮君の母親のせいだと思う。


「なら、今は少しでも甘えてもらう事を

 覚えてほしいな」


そういえば、

今年の蓮君の誕生日は何を贈ろうかな?

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