第19話

あいつらは何処に行った?

と、首をキョロキョロさせて探すスケルトン。

右腕のアーマーセンチピードの視界もあって、見える範囲も広がった。


が、頭が二つに増えても所詮は虫頭。

辺りを見回すだけで、どこかの物陰を覗くような事はしない。



………ギギ!!



瞬間、スケルトンの背後に飛び出す人影。

出たか!とスケルトンが振り向くと同時に。



「ファイア!」



スケルトンの頭に、ファイアが飛んできた。

スケルトンが鬱陶しそうに振り払うと、そこに居たのはスカーレット。


ようやく出てきたか!と、アーマーセンチピードの口から酸を吐きかけようとした、その時。



「ファイア!」



スカーレットが、再びファイアを放つ。

無論、スケルトンには大したダメージは通らない。

通らない、のだが。



「ファイア!ファイア!ファイア!」



何発も、連続でファイアを放つスカーレット。

スケルトンがやるような機関銃やガトリング並みでこそないし、ダメージも通らない。

だが、何発も放たれる火球はスケルトンからしたら鬱陶しい。



フシャアア!!



いい加減にしろ!とでも言うかのように、アーマーセンチピードの口から酸を放つスケルトン。


しかしスカーレットは、素早い身のこなしでそれを回避。

ファイアを放ち続ける。



「くっ、ファイア!ファイア!ファイアッ!」



逃げるスカーレットと、イライラしながら追うスケルトン。

逃げては、撃ち。

逃げては、撃ち。



フシュルルルッ!!

ギギィィ!!



ああ!もう!とでも言うかのように、二つの口で唸るスケルトン。


苛立ちに気を取られていたからか、前述の通りの虫頭だからか、あるいは両方か。


スケルトンは気付かなかった。

スカーレットが、自分を取り囲むように立ち回っている事に。

そして自分スケルトンを、一点の場所に引き付けている事に。





………………





机の影に残ったアズマは、スケルトンに気付かれないように、シルフィードの先をスケルトンに向ける。

スカーレットが囮になっている為に、余裕は十分ある。


アズマは、それまでに学んだ魔法の技術を総動員し、自らの神経の全てを集中させる。

そして。



「………戒めの化身よ、邪悪を封じる護り手よ、今こそ集い、我に力を貸したまえ」



魔法の呪文の詠唱を始めた。

途端、彼の足元に魔方陣が展開する。


これは、高位の魔法の発動の際に見られる現象であり、杖が脳細胞を使った魔法の構築の手助けをする際に見られる。


………これは絵面こそかっこいいが、展開している魔方陣にとくに意味はない。

つまる所の、杖にインプットされた演出である。

まあ、特種なシステムによりモンスターには感知されないらしいが。



「願わくば、かの邪悪に楔を打ち込み、永久の封印を施さん事を………」



アズマが使おうとしている魔法は「裁きの牢獄プリズン・オブ・ビシテーション」。

動画サイトでテイカーの動画を漁っていた際に見つけた、相手モンスターの動きを封じる魔法だ。


動画では、無数のモンスターを一瞬で鎖でがんじがらめにして、そこを仲間のテイカーに攻撃させていた。

なお魔法としては上級に辺り、アズマは詠唱こそ覚えているが、仮に出来たとしても動画のように何体ものモンスターを押さえるような事は出来ない………というのが、スカーレットの意見だ。



「鋼より硬く、海よりも深く、地の獄よりも果てなき楔よ………」



だが、眼前のスケルトンは一体だ。

並んで、スカーレットがその場から動かないように………魔法の照準から外れないように、足止めしてくれている。

それに、アズマの作戦で必要な時間は僅かであり、動画でやったように、5分も10分も相手を押さえている必要はない。


後は、魔法が上手く発動するか否かだ。



「ファイア!ファイア!ファイアッ!!」



全運動神経を集中し、ファイアによるヒット・アンド・アウェイを繰り返すスカーレット。

動画の絵面的にも、アズマの策が上手くいくようにと、強く願う。



「現れよ………裁きの牢獄プリズン・オブ・ビシテーション!!」



その時は、ついに訪れた。

スケルトンの頭上と足元を挟むように、銀色の魔方陣が展開する。


しまった、罠か!

ようやく気付いたスケルトンだが、もう遅い。


そして………。






………………






「こっちの動画とこっちの動画、同じ裁きの牢獄プリズン・オブ・ビシテーションなのに別の物が出てる………」

「どれどれ?」

「ほら、こっちは鎖なのに、こっちは檻なんです」

「ああ………この魔法はね、使用者のイメージが強く反映されるの」

「イメージ?」

「そ、相手を縛るものとか、動けなくする物のイメージが反映されて、魔法の姿になるのよ」

「なるほど………つまりこの動画のテイカーは、相手を押さたり閉じ込める物のイメージが違うから、こうなると」

「そゆこと♪」






………………






裁きの牢獄プリズン・オブ・ビシテーションは、無事に発動した。

効力も規模も、プロのそれとは比べ物にならないが、スケルトンをしっかりと押さえつけ、動きを封じている。



「(………そうか)」



作戦は上手くいった。

けれども、スカーレットの顔は悲しげだった。



………前述の通り、裁きの牢獄プリズン・オブ・ビシテーションは、使用者の「閉じ込める物」に対するイメージが強く反映される。


今、スケルトンを押さえているもの。

アズマの意識に強く刻まれた「閉じ込める物」。



見た限りでは、魔力の光で形作られた巨大な人型に見える。

何も知らない人が居たなら、そうとしか見えなかっただろう。


だが、この場にいる二人には。

アズマとスカーレットには、鬼の形相でスケルトンを押さえつけ、踏みつける「それ」の正体が解る。



父親だ。



アズマはいつも会ってるから、スカーレットは二度会ってるから知っていた。

アズマの父親である。


目を見開き、スケルトンを踏みつけにする姿は、アズマを殴る時にそっくりだ。



「(それが………あなたの「檻」なんだね………アズマくん)」



これが、何を意味しているか。


アズマを閉じ込める物、縛り付ける物の象徴として、魔法に反映される程に記憶に強く刻まれているのが、暴力的に相手を押さえつける父親である事。


その意味を考えると、スカーレットの胸は強く締め付けられた。


きっとアズマは、以前見た携帯の記録だけではない。

幸せな家庭で育ったスカーレットには、想像のつかないような辛い想いの中で生きてきたのだ。



「スカーレットさん!!」



アズマは、目で訴えていた。

「あれを斬ってくれ」と。

自らの涙の象徴を、打ち払ってくれと。



「………わかった!!」



スカーレットに、もはや迷いはない。

スケルトンごと、あの魔物トラウマを叩き斬るだけだ。



「轟剣よ、汝の敵を焼き尽くせ………!」



スカーレットがイフリートを構え、その刀身に手を翳す。

すると、イフリートを魔力が覆ったかと思うと、魔力は炎となり燃え上がる。


それはやがて、この戦場そのものを照らすような巨大な炎の渦となる。

イフリートの名前の由来である、炎の魔神の体を表すかのような。


やがて広がった炎は、イフリートの刀身へと収縮され、炎を秘めた刃は火山の火口のように輝く。



ギギ!! ギギィィ!!



まずい!と、逃れようと暴れるスケルトン。

じたばたと動き回り、裁きの牢獄プリズン・オブ・ビシテーションを破ろうとする。



「………はぁぁぁっ!!」



と同時に、その炎の刀身を背負って、スカーレットが突撃する。

浮遊魔法の応用と、炎を操って産み出した気流を利用し、真っ直ぐに。



………ギギ!!



アズマの魔法が未熟だった事もあり、なんとかスケルトンは逃れる事が出来た。

が、魔力で形成された人型が消滅した時には、何もかもが遅すぎた。


その複眼が最後に見たのは、圧縮された炎により赤熱したイフリートを振り翳す、スカーレットの姿だった。



「サラマンダーバイトォォ!!!」



一閃。

瞬間、圧縮した炎のエネルギーを解放。

刀身から解き放たれた炎は、スケルトンの身体を縦一文字に焼き切った。


断末魔の叫びよりも早く、その炎は脳を破壊し、内蔵を焦がす。

こうなれば、流石のスケルトンも助からない。



ドウウウッ!!



解放された炎は爆発となり、スケルトンを粉々に吹き飛ばす。

それを背景に立つスカーレットを、ドローンのカメラは、まるで90年代のロボットアニメの一場面のように写し出す。


ぶしゅう、と、赤熱を解いたイフリートから、排熱の為に白い蒸気が噴出される。

クエストクリアだ。


スカーレットの本格的なテイカー活動の第一歩を飾るに相応しい、完璧なエンドマークであった。

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